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第54話 滅びゆく国


「どう言うこと!? ベジタル王国が滅ぶかもしれないって……!!」

 思わず声をあげ、アイネの両腕を掴んで詰め寄る。


「あぁ、それが……って、待って、その前にこの大量のたくあん、厨房へ持っていこう。流石に臭うわ」


「ぁ……」



 すぐに厨房へと大量のたくあんを連行して、私たちはあらためて食堂のテーブル席に腰を下ろした。


「実は──」

「たっだいまぁ〜……ってぬぁ〜にぃ〜!? この大量のたくあん!!」

 話が始まろうとした矢先に厨房の裏口からものすごく賑やかな声が乱入する。


「ちょっとリゼ!! 何張り切りすぎちゃってんのよ!? って……アイネじゃなぁい!! 久しぶりねぇっ!! なになに? 女子会? 私も混ぜてぇ〜♡」

「女子会だとしてもあんたには無縁だよ」


 辛辣なアイネの一言。


「キィィッ!! 相変わらずねぇっ!! なんでうちに来る女の子たちってこうもキッツイのかしら!! うちのリゼを見習いなさいっ!!」

 ぷりぷりしながらちゃっかり椅子に座るクララさんに苦笑いをしながら、私は「アイネ、続きを」と彼女に促す。


「あぁ、そうだね。ちょうどいい、クララさんも同席して。ベジタル王国がやばいことになってる」

 急に表情の締まったアイネを見て、クララさんもその表情を硬くする。

「……その話、詳しく聞かせなさい」


「私、ここを出て隣の街でがっぽりと稼いだ金で、またいろんな国を渡り歩いてたんだけどさ……、耳に入ってくるのはベジタルのことばっかだったんだよ。どうも、謎の病が大流行してるらしい」


「謎の病!?」


 新種の病気、っていうことかしら?

 国民は……、国境で別れた騎士たちは大丈夫かしら?


「なんとかしようと国が税を追加で取り立てて各国から薬を買い集めるも効果は得られず……。食べ物も流通せず、国民は疲弊する一方。そんな時、フルティアで保護された追放されたリゼリア・カスタローネ元公爵令嬢が本当に聖女だったと言う話が流れ始めて、聖女を追放したとして王族批判が加速し、結果投獄者も増えたらしい。そんな中、第二王子を推す声も出てたんだけど……突然第二王子殿下が幽閉されたらしいんだ」


「カロン殿下が!?」


 カロン第二王子殿下。

 国王と側妃のお子で、ラズロフ王太子の腹違いの弟。

 13歳とまだ若いながらにとても賢く穏やかな方だけれど、難しいお立場ゆえにあまり目立った場所には登場されない。


 正直、この方の方が王としての器が備わっていると思うけれど、第一王子でしかも正妃である王妃様の息子のラズロフが王太子の座に収まっている。

 それに、ラズロフ王太子はあんなことをしたけれど、元はとても勤勉な方ではある。行動力もあるし、人望だってあったのだ。

 だから今まで第二王子を推す声なんて表立ってはなかった。


 婚約者の妹との不貞。

 婚約者の婚約破棄と追放。

 それを咎める声を踏みつけ投獄していった横暴さ。

 そして今回の件。

 国民に見限られたとしても不思議ではない。


 どこで間違ってしまったのかしら、ラズロフは……。


 婚約した頃はこんなじゃなかった。

 ちゃんと私を気遣ってくれたし、国民のことを考えて行動していた。

 あの頃のラズロフはどこへいってしまったんだろう?

 それとも全部が全部偽物だったのかしら……。

 そう思うとなんだか苦しい。


「このままじゃ国民は皆飢え死にか病死してしまう。まだ多少は野菜類の食料があるみたいだけど、時間の問題だって……」

「王たちは?」

「病気療養という名の雲隠れさ」

「……ラズロフ王太子は?」


 私が彼のことを尋ねると、アイネの表情が一層強張った。


「……リゼ、そのことなんだけど──」


 バンッ!!


「リゼさん!!」


 アイネの言葉を遮って荒々しく扉が開かれると共に、飛び込んできたのは久しぶりながらも耳によく馴染む彼の声。


「クロードさん!!」

 開け放ったドアもそのままに、1ヶ月前より少し疲れた表情のクロードさんが早足で私のところまで足を進めると、無言で私を引き寄せその腕の中へと引き摺り込んだ。

 久しぶりのクロードさんのほのかな柑橘系の香り。

 ぎゅうぎゅうと痛いくらいに抱きしめられているのに、それが不思議と嫌じゃない。


「こらこら殿下。リゼリア嬢が苦しいでしょうに」

 呆れたように言いながら開け放たれたドアから続いて顔を出したのはジェイドさん。


「あぁ、ごめん!! リゼさん、無事でよかった……!! ごめんね、あんな置き手紙ひとつで1ヶ月も……」

「い、いえ、大丈夫ですよ」


「嘘つき。さっきまで殿下が心配すぎてジメジメとキノコ生やしてたくせに」


 レジィの後方からの攻撃が突き刺さる。


「心配……してくれたんだ……?」

「……そりゃそうです。……お帰りなさい、クロードさん」

 少しだけ視線を逸らしてから、改めて彼を見上げると、私は嬉しそうににっこりと笑った。

「うん。……ただいま」


「あの〜、いいところ悪いんだけどさ、殿下もラズロフ王太子のこと言いにきたんじゃないの?」

 アイネが口を挟みにくそうにしながらも声をかける。

 ラズロフ王太子の?

 なんだろう、嫌な予感しかしない。


「あぁ、そのことだ。……リゼさん、落ち着いて聞いて」

 私の両肩に手を置いてしっかりと私に視線を合わせてからクロードさんが続けた。


「──ラズロフが、あなたを連れ戻そうとフルティアに攻め入る準備をしている」



「…………は?」


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