第53話 アイネの知らせ
晩餐会翌日、ベアル様はさっぱりとした表情でベアロボスへと帰られた。
私もベアル様を見送った後、レイラ様の食事の引き継ぎをし、とりあえずのたくあんを二本ほど錬成してから、皆が待つ神殿食堂へと帰った。
今回の晩餐会で、私は何だか自分に自信が持てた気がする。
私、たぶん誰かのことを考えて、試行錯誤していくのが好きなのね。
元婚約者のラズロフ王太子はいつも「そんな得にもならないことは時間の無駄だ」なんて言っていたけれど、私はそうは思わない。
誰かの手助けができて、誰かの心が明るくなるのなら、それは決して無駄なことじゃない。改めてそのことに気づいた。
あの晩餐会から噂が広まるのは早く、私が聖女であること、公爵家の養子になったことなどが知れ渡ると、国王陛下があらためてそれらに関する文書を公開し、【たくあん聖女】のことは国内外にあっという間に広まった。
瞬く間に神殿食堂は大繁盛!!
流石に2人では手が回らないので、レジィのお母さんであるセレさんにも手伝ってもらっている。
バタバタと毎日が過ぎていくけれど、私にはまだやることがある。
クロードさんへの告白だ。
ベアル様の件が解決してすぐに、クロードさんは急な仕事が入って旅立ってしまった。
『良い子で待っていてね』とだけ書かれた彼からの手紙のみ、ジェイドさんがわざわざ持ってきてくださった。
だけど1ヶ月たった今も、クロードさんが戻ってくることはなく……。
「はぁぁぁぁ……」
昼休み。
食堂の机に突っ伏して長いため息をつく。
あぁ、いけない。仮にも公爵令嬢がこんなだらけてしまっては……。
わかっていてもやめられないのだけれど……。
「リゼ、まだ殿下帰ってこないの?」
「そうみたいねぇ……」
「で、どこいってるの? 殿下」
「さぁ……書いてなかったから……。ジェイドさんも教えてくれないし」
さすがに音沙汰なく1ヶ月は心配すぎる。
ジェイドさんも私にカードを渡してすぐにクロードさんのところへ合流したみたいだし、クララさんは騎士団の任務のことはよく知らないみたいだし。
情報が無さすぎてつらい。
「はぁー……」
「重症ね」
レジィが私の頭を撫でる。
これじゃどっちが歳上かわからないわ。
しっかりせねば!!
「よし!! ショコリエたくあんを大量生産するわよ!!」
休んでなんかいられないわ!!
持ち帰り用のショコリエたくあんを大量に作って、売り上げに貢献しなきゃ!!
「とりゃぁぁぁぁぁっ!!!!」
私はかつてないほどのスピードで、たくあんを大量に錬成していく。
ピカッ!!
ぽんっ!!
ピカッ!!
ぽんっ!!
ピカッ!!
ぽんっ!!
光っては出て光っては出て……。
気づけば机の上には目の前が見えなくなるほどのたくあんが錬成されていた。
「……出し過ぎじゃない? ニオイ、やばいんだけど」
「……うん……やりすぎた。ごめん」
反省。
はぁ…本当、何しても今日はダメだわ。
とりあえずこの大量のたくあんを厨房に持っていかなきゃ。
私が大量のたくあんを厨房へと移動させようと立ち上がったその時。
バンッ!!
「リゼ!!」
勢いよく扉が開き、血相を変えて入ってきたのはなんと隣の町に旅に出た、国際記者のアイネだった。
定期的に彼女から来る手紙では、隣の街でがっぽりと稼いだ後、また他の国へと渡ったって書いてあったけど……。
「あらアイネ、お久しぶりね。元気してた?」
「あ、あぁ。おかげさまで」
「アイネ、お土産は?」
「あぁ、レジィ。ほれ、焼き菓子買ってきたから、母さんと食べな──ってちがぁぁぁう!!!!」
くるくると表情を変えて、忙しいわね。
「そうじゃないんだって!! 大変なんだよ!!」
「まぁまぁ、とりあえず落ち着いて」
「そうよ、血圧上がるわよ。もういい歳なんだから気をつけなきゃ」
顔を真っ赤にして慌てた様子のアイネに、私とレジィが椅子を進めるけれど、アイネはぶんぶんと首を横に振り、まだ息も整いきらないままにこう告げた。
「リゼ、落ち着いてよく聞いて。 ──ベジタル王国が……ベジタル王国が、滅ぶかもしれない!!」
「えぇ!?」
ベジタル王国が……滅ぶ、ですって──!?