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第50話 私の家族



 そして迎えた晩餐会の日。

 朝から飾り付けやメニューの最終確認など、城内は慌ただしく時間はあっという間に過ぎていった。


 今日招待されているのは、伯爵位、侯爵位、公爵位の貴族だ。

 クララさんも、クラウス・ラッセンディル公爵として参加するらしい。

 久しぶりにクララさんに会えるのは嬉しいけれど、よそ行き顔のクラウスさんVerはなかなか落ち着かないし、何よりあの人を「お義兄様」と呼ぶのもまだ慣れない。


 昨日の夕食時に、レイラ様のご懐妊について王太子殿下から発表があり、レイラ様の食事も希望通り、ベアル様が召し上がっているたくあん入りのおにぎりを作った。

 気持ち悪くなるのを少しでも軽減するため、少量ずつ食べられるように一口サイズの小さな丸いおにぎりを数個用意したところ、レイラ様も気持ち悪がることなく、完食することができた。

 皆に祝福され、いつもの無表情を緩ませて笑うレイラ様がとても可愛らしくて、心がまたほっこりと温まった。


「次はクロードたちかな」

 と笑う国王陛下に、私もクロードさんも顔を赤くして同様に縮こまったのは言うまでもない。





「──さぁ、お嬢様、吸ってー!!」

「スゥーーーー!!」

「止めて!!」

「むぐっ!!」

 息を止めた瞬間に、これでもかと言わんばかりに締め付けられるコルセット。


 私も女子だ。

 色とりどりの綺麗なドレスは大好きなのだけれど、どうもこのコルセットだけは好きには慣れない。平民にされて色々と大変だったけれど、このコルセット締めから解放されたことは私にとって喜びだったのに。

 まさかここにきて毎日この苦行を経験することになろうとは……。


 ドレスはクロードさんが選んでくれたドレスらしく、メイドたちにこれを託してからすぐにクロードさんは他の準備に向かったらしい。

 お礼ぐらい言いたかったな。

 まぁどうせ晩餐会で会えるから良いけれど。


「さぁ、できましたよ!!」

 目の前の姿見の中の淑女に、私は思わずうっとりと見入ってしまう。


 緩く巻かれたプラチナブロンドの髪、サファイアがふんだんに使われキラキラと輝く濃い青色のドレス。

 オーガンジーが幾重にも重なったそれは、濃い青色という大人しい色にもかかわらず、華やかさと女性らしさを演出してくれる。

 クロードさんのセンスとメイドたちの職人技の連携プレイだ。


 あとは時間を待つばり。

 メイドたちの去った部屋でゆっくりとくつろいでいると──。


 コンコン──。

 扉が軽く叩かれた後に、「私よ」と口調と声の高低が一致しない声が通った。


「どうぞ」

 私が声を扉の向こうに飛ばすと、ゆっくりと扉が開かれ、カツラを被ったクラウスさん姿のクララさんが部屋へと入ってきた。


 わぁ……キラキラしてる……。


「久しぶりね、リゼ。素敵なドレスじゃないの!! 青色──これまさか……」

 ぴたりと動きを止めたクララさんに、私が頷く。

「クロードさんからです」

「やぁっぱり!! ちゃっかり自分の瞳の色のドレスを送っちゃって!! 抜け目ないんだから!! あんた、まさか城で殿下に襲われたりは……」

「ないです!! ないですから落ち着いて!!」

 襲われかけたけど未遂だ。

「本当に〜?」

 じろりと信じてない様子で私を見るクララさんに苦笑いをして

「ま、まぁ立ち話もなんですし、どうぞ」とソファへと促す。


「で、どうしたんです? クララさん。晩餐会場はここじゃありませんよ?」

 私が言うと、クララさんは「わかってるわよ、おバカねぇ」と言いながらどっかりとソファへ腰を下ろした。


「あんた、私の何?」

「は?」

「私の、何?」

「え、えっと……職場の部下?」

 戸惑いながらも私が答えると、クララさんは突然前のめりになると無言で私のおでこにデコピンした。


「あうっ!! 痛いですクララさん」

「あんたねぇ!! 私の義妹になったんでしょうが!!」

 あ、そう言うことか。

「すみませんまだ慣れなくて。で、それとここに来たことが何か?」

「察しが悪いわねぇっ!! あんたのエスコートよ!! 婚約者もいない未婚の女性なんだから家族がエスコートするに決まってんでしょ!!」


 家族。

 その言葉が私の奥底の心の傷に浸透していく。

 家族に捨てられた私だけど、こんなに素敵な家族ができたんだ。


 父母からの仕打ちでついた傷は思いの外深かったみたいで、度々夢に見てはうなされるし、思い出しただけで心が擦り切れそうになる。

 それでも私が沈み切らずにいられるのは、クララさんのおかげだ。

 今は彼が私の家族だ。

 だから、大丈夫。


「クララさん、ありがとうございます」

 私は笑顔で新しくできた家族へとお礼を述べた。


「な、何よ、気持ち悪いわね。当然でしょう、家族なんだから」


 照れたようにつんと顔を逸らす義兄に、私はまた穏やかに笑った。


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