表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/111

第48話 聖なるたくあんの塩分濃度


 初日は成功したものの、二日目、レイラ様が香水をつけた日は、やっぱりベアル様は部屋で食事をとった。申し訳なさそうに広間を去るベアル様を見るのはとても心苦しかったけれど、あと一日で確信を得ることができる。


 私はドキドキしながらも三日目を迎えた。


 ベアル様の食事を作って着替え終わると、緊張しすぎてつい少し早く広間に来てしまったけれど、広間にはすでにレイラ様が一人窓辺で風を感じていた。


「あぁ、おはよう、リゼ」

 私に気づいたレイラ様がいつもの無表情で挨拶をしてくれる。

「おはようございます、レイラ様」

 無表情で淡々としたレイラ様にどう接していいか今までわからずにいたけれど、この方のことがわかってからは話をするのがとても楽しみになっている自分がいる。


 あれ?

 何だろう、少し顔色が悪い?


「レイラ様、体調でもお悪いのですか?」

 いつも白い肌をされているけれど、今日は一層白い……。

 というか、青白い気がする。

「え? いいえ、大丈夫よ。少し胸焼けがね」

「そうですか? 何かあったら、すぐに言ってくださいね」

「えぇ、ありがとう」

 青白い顔をしてコクリと頷くレイラ様を心配に思いながら、私は自分の席についた。


 話している間に王太子殿下、クロードさん、王様、王妃様が広間へと入室し、席に座っていく。

 そして最後にベアル様も広間へと現れた。


 私もクロードさんも、もちろん王様方も、ごくりと喉を鳴らしベアル様の同行を見守る。


「おはようございます」

 ベアル様は穏やかな笑顔を向け挨拶すると、さっと自分の椅子へと腰を下ろした。


「!!」

 座った──!!

 私は思わず隣のクロードさんへと視線を向けると、彼もにっこりと笑って私に応えてくれた。


 食事の間もベアル様はご機嫌だった。

「このたくあんは、匂いは凄まじいですがとても美味しいですし、何だか元気が出ますね。さすが聖女の錬成した食べ物です」

 大きなお口の端っこをくいっとあげて、たくあん入りおにぎりを召し上がるベアル様。

「本当に。これで塩分が気にならなければ毎日一本丸々でも食べたいのだがな」

 と王様が豪快に笑う。


 そうなのよね。そこが気になってるのよ。

 神殿食堂の常連のお客さんの中には一本丸々を求める人も多い。

 そんな時は少し小さめのたくあんを錬成してお出ししているけれど、やっぱり塩分は気になる。


「あぁ、そのことですが父上」

 クロードさんが思い出したように口を開く。

「神殿長から昨日報告があり、リゼさんが錬成したたくあんを鑑定したところ、塩分濃度が一本あたり0.5未満しかないということが判明した、と」


 へ?

 結構塩みの効いた味なのに一本塩分量が0.5未満!?


「怪我も病気も治って元気にしてくれて、塩分量も少ないだなんて……最高じゃないか、リゼリア嬢」

 驚きながらも頬を緩ませる王太子殿下。


 本当、びっくりだわ。

 役立たずなんて言ったらバチが当たるわね。

 ラズロフ、ざまぁ。


 心の中で令嬢らしからぬ言葉を吐いてから、私はベアル様に笑顔を向ける。


「もしベアル様の国で疫病や怪我人で大変になることがありましたら、すぐに呼んでくださいね。私、すぐに駆けつけますから」

「え、いいんですか? 貴女はこの国の聖女なのに──」

 驚いたようにベアル様は目を丸くして私を見やった。


「ベアル様。ベアル様はこの国へは外交でいらしたのですよね?」

「えぇ……」

「私は、外交とは、国と国の繋がりはもちろん、人と人との心の繋がりをすることだと思っております。自国であろうと、他国であろうと、一度繋がりを持った人の危機にはできる限りのことをする。私は、そうありたいと思って生きてきました」

 そう言った私をじっと見つめてから、穏やかにベアル様は笑った。


「ありがとう、リゼリア嬢。僕も、この国が危険な時、そして、貴女が大変な時には、必ず助けに行きます」


「!! ありがとうございます……!!」


 私たちはこの日、3食とも、これまでにないほどに食事を楽しんだのだった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ