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第46話 夜の訪問は危険です


 一人、クロードさんの部屋に残された私。


 淡いブラウンを基調にした落ち着いた部屋。ベッドサイドに私の写真が飾られているのを除けば、とても落ち着く空間だわ。……いつ撮ったのかしら。


 しばらくしてクロードさんは「義姉上にもお願いしてきたよ」と言いながら、部屋へと帰ってきた。


「ありがとうございます。こんな夜更けに、すみません」

「良いんだよ。一刻も早い方がいいからね」

 そう言いながら私の隣へと再び腰を下ろすクロードさん。


「でもリゼさん、ベアル殿に直接聞いた方が早くなかった?」

 周りくどく観察しなくても、と続けるクロードさんに私は苦笑いを浮かべて答えた。


「そうなんですけどね。多分、もし本当に私の仮説が正しければ、あの方、「そうだ」とは言わないと思うんです。気が少し弱くて言えないのもあるのかもしれませんが、昨日の感じだと『言ったら傷つくかもしれない、迷惑をかけるかもしれない』とお思いになりそうで……。慣れない地であまりご負担をおかけしたくなかったんです」

 ただでさえ少ない護衛をつれて、慣れない土地へと来ているのだ。

 少しばかり配慮することも大切だと思う。


「あの方は、とても優しい方ですから」

 そう続けると、クロードさんの表情が変わった。

 さっきまでの穏やかで爽やかなキラキラとしたものではなく、真顔でどこか無機質なものに──。


「そんなにベアル殿が気に入ったの?」


 低く呟かれた言葉に反応する前に、私の視界はぐるりと宙を舞い、ぽすんとソファへと沈み込んだ。

 クロードさんに押し倒されている、とすぐには頭が理解しきれないほどに、一瞬完全に思考が停止していた。


「っ……!! く、クロードさん!? 何を──!!」

「こんな夜更けに訪問する意味、わかってる?」

「そ、それは申し訳ありませんでしたが、大事な相談があって……!!」

「じゃぁベアル殿のところにも、一人夜遅くに行ったりするの?」


 苦しげに問われた言葉に私は考える。


 ベアル様のところに?

 いやいや、ないわ。

 ベアル様に会うのは、クロードさんに話を通してもらってからと決めている。

 婚約者でもない方と二人で会うのは、誤解を招きやすいからだ。


 あまり人に聞かせたくない話は二人でするけれど護衛は必ずつく。

 絶対に夜は避けるし、クロードさんへと報告する。


 それはなぜ?

 それは──……。


 あぁそうか。

 誤解されたくないんだ。

 私が。

 クロードさんに。


 そこまで考えて、私は未だ私を組み敷き、上から見下ろす端正な顔を真っ直ぐに見つめた。少し恥ずかしくて、熱が顔に集中するけれど、私はきちんと伝えなければならない。


「それは……あり得ませんよ」

 ゆっくりと紡ぎ出した言葉に、クロードさんがピクリと反応する。


「私が、夜でもお顔を見たい、頼りたい、話がしたいと思うのは──クロードさんだけ、ですから。……その……、だから、あなたにだけは誤解されたくないので、軽率なことはしま──キャァッ!!」


 羞恥に耐えながらやっとのことで紡ぎ出した言葉を遮って上から降ってきたクロードさんによって、私はすっぽりとそのまま彼に抱きしめられた。


 ほんのり爽やかな柑橘の香りが鼻腔をくすぐる。

 恥ずかしいのに落ち着く香り。


「俺……、それ、期待してもいい?」

 掠れたような余裕のない声が、耳のすぐ近くで聞こえ私の熱も再び上昇する。

「っ、は……はい……」

 煙でも出そうなほど熱を感じながら答えた私は、さらに強く抱きしめられた。



「……あー……俺、もつかな……」


 何が!?

 もってくださいクロードさん!!


「あ、あの、でも、まだ待ってください」

 強く硬い胸板を押し返して私が声をあげる。


「私、まだクロードさんに見合うだけのことができていなくて……してもらってばかりで……だからこの問題が解決するまで、言葉にするのは待ってください。あなたに胸を張って言えるようになってから私の口からお伝えさせてください」


 『好きです』の言葉は今じゃない。

 今の、何でもしてもらって導いてもらってばかりの私ではいけなくて、クロードさんと並んでもしっかりと認めてもらえるような人間になってから聞いてもらいたい。


「その──それまで、待っててもらえますか?」


 遅い、って言われたらどうしよう。

 待てないって言われたら?

 愛想尽かされたら?

 不安な気持ちがよぎるけれどすぐにそんな不安は一蹴された。


「俺のリゼさんがカッコ良くてつらい……!!」

 ボソリと自身の顔を片手で覆いながらそう言ったクロードさんは、ゆっくりと私の手を引いて抱き起こしてくれた。

 そして再び、今度はとても優しく私を抱きしめた。


「何年待ってると思ってんの? あと数日ぐらい、余裕だよ。待ってるね、リゼさん」


 穏やかなその声に、優しいその言葉に、私は心から安心して、そのまま彼の胸にぴっとりと顔を寄せてから「はい」と答えた。



「っ…………余裕、ぶっ壊れそう」


 呟かれた言葉は聞こえなかったことにしよう。


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