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第38話  崩れ去る自信



 その日の晩餐も、一度顔を見せはしたもののすぐに席を立って部屋に帰ってしまったベアル様。そんな彼に困り顔の王と王妃、そして王太子夫妻。

 あぁ、これが毎日続いているのか。

 料理長のあの表情も頷ける。

 これは大変だぞ、と翌日からの食事に気合を入れ直した私。


 そしてその翌日、私は朝早くから厨房をお借りして、ベアル様の食事を作っていた。

 いつも朝食は、パンとスープ、サラダと果物をお出ししているというけれど、そのうち必ず召し上がるのはパンのみ。

 あとは食べたり残したりだ。

 本当、ベアル様の身体が心配だわ。


 私は昨夜のうちに考えたメニューを慣れた手つきで作っていく。


「あ、あの、やっぱり私どもが作りますので、ラッセンディル公爵令嬢は指示だけして……」

「だめよ。あと少しだから待ってて。大丈夫。料理ならいつもしていることだから」

 さっきからこの調子で料理長を筆頭に料理人たちがオロオロしながら声をかけてくれる。料理をする公爵令嬢なんていないから当たり前だろうけど、いつもやってることだから、と突っぱね続けた。


「──よし、できた!!」

 朝早くから起きて作っていたベアル様の朝食が完成した。

 私が作ったのは、パンとオニオーリのスープ、茹で野菜と、それにショコリエたくあんだ。


 渾身の出来であるショコリエたくあん。

 神殿食堂でも大人気のこのお菓子なら、きっと喜んでくれるはず。


 そう自信を持ってお出しした──はずだったのに──。



「……ご、ごめんなさい。僕、部屋でいただきます」


 やっぱり今朝もダメか。

 一口も口にすることなく今日も部屋で食べると言い始めたベアル様に、私も、そして国王夫妻や王太子殿下も肩を落とす。

 初日からうまくいくなんて思っていなかったけれどやっぱり堪える。


 だけど次の瞬間、私は今以上のダメージを受けることになる。



「あと、このデザートは僕に近づけないでいただけますか?」


 

 え……?

 近づけ……ないで……?

 目と鼻の間をくしゃりと歪めたまま、ベアル様は護衛の騎士たちとともに広間を後にした。


 近づけないで。

 私の1番の自信料理であるたくあん料理が……拒否られた……。


「あ、あの、リゼさん?」

 心配そうにクロードさんが声をかけるも、今の私には返事できるほど心に余裕がない。


「少し、一人で考えさせてください。……失礼します」

 断りを入れてから私は席を立つと、落としたくなる肩を無理やりピンと張り付け、自分の部屋へと帰っていった。





 ──たくあん料理を拒否された。


 スキル検査のあったあの日。

 皆に馬鹿にされて、役立たずだと言われて、なんで私はこんな役に立たない臭いだけの食べ物を生み出すスキルなのよって憤りもした。

 でも追放された先でようやく、こんなスキルでも皆を元気にできる、役に立つんだって感じて、やっと少しだけ自分の力を好きになれたところだった。


『これを食べると力が湧いてくるよ』

『最近持病が良くなってきたんじゃ。これもたくあんとリゼのおかげじゃの』

『美味しい料理を作ってくれてありがとう』


 そんなたくさんの声に、空っぽだった私は自信をもらった。

 そんなところへさっきの出来事。

 一瞬にして積み重なった自信が崩れ去っていく。


 ボフッ。

 私は部屋に戻ると、ベッドへと力なく体を沈めた。


「何がダメだったんだろ」

 つぶやきが一人の部屋に吸い込まれていく。

 どうしたらいいのかわからない。

 せめて何がダメなのか、何が良いのか、はっきり言ってくれたら良いのに。


 ぐるぐると回る負の感情を胸に、私はベッドに沈んだままそっと目を閉じるのだった。


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