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第32話 養子と聖女になりました


 ガタンゴトンと馬車が揺れるけれど、フカフカな座席のお陰で衝撃は吸収され、全く苦ではない。

 さすが王家の馬車といったところか。


「あの……王城にって言ってましたけど、私、こんな格好で王城になんて行っちゃまずいですよね?」

 久しぶりの豪華な馬車に緊張しつつ、背筋をしゃんと伸ばし、クラウス殿下へと確認をとる。


 今の私の格好は、モスグリーンの平民が着る一般的なワンピース姿だ。

 さすがにこんな格好で王城なんて気が引けるけれど、今の私には貴族が着るような豪華絢爛なドレスなんてとてもじゃないけど買うことはできない。

 一体どうするつもりなんだろう。


 私の言葉に深く頷いて、クラウス殿下は口を開く。

「えぇそうね。その格好で謁見なんてもってのほかよ」

 謁見!?

 今さりげなく大変な言葉が聞こえたような……。


「だから私だって変装して、髭も剃ってカツラも被って、サングラスだって封印してんだし」

 むしろなんでスキンヘッドにしてたの!?

 その黒髪あるだけで全然印象違うし、サングラスがないとキリッとした目元がよく見えてモテそうなのに。


「ま、服は城にちゃんと用意してあるから心配ないわ。とりあえずざっと説明するわよ。まず、あんたには公爵令嬢として国王に謁見してもらうわ」

「はい!? 痛っ!!」

 驚きの声をあげ思わず立ち上がった私は、馬車の天井に思い切り頭をぶつけうずくまる。


「んまぁー!! 鈍臭いわね!! 話はこれからだってのに!!」

「うぅ……すみません」

 痛い。

 ひどい。


「公爵令嬢に戻ってもらうけど、それはカスタローネ公爵令嬢としてではないわ。私、クラウス・ラッセンディル公爵の養子、リゼリア・ラッセンディル公爵令嬢としてよ」


 ラッセンディルは王弟殿下が臣下に降った際、一代限りで与えられた公爵家だ。結婚を拒んだ王弟殿下が、一代限りにするように自ら国王へと願い出たと聞いている。

 この話を聞いた時にはまさかその王弟殿下がオネエ口調で喋る海坊主だなんて思ってもいなかった。


「あんた失礼なこと考えてない?」

「あ、いえ、あはは……。でもクラウス殿下。私はベジタルの……」

「調べたら、ベジタル王国の貴族名鑑からあなたはすでに削除されていたわ」

「ッ!!」


 あぁ、うん。まぁ追放だものね。

 追放された娘をいつまでも載せておくわけにはいかないものね。

 わかっていても、少しだけ胸が苦しくなる。あの人たちにとって私は、本当にどうでもいい存在だったんだなぁ。

 私が自分の中で思いを巡らせていると、クラウス殿下はポン、と私の頭に大きな手を乗せた。


「ごめん。あんたには酷かもしれない。でも私にとっては好都合だったわ。ベジタル王国で追放され、平民になってこのフルティア王国にたどり着いたあんたを、私が拾って養子にした……。このシナリオでいくわよ」

 すごい。

 まるで計算していたかのような筋書きに私は口をぽかんと開けたまま思考を停止させる。


「それと、あんたのそのたくあんのスキルだけどね……」

 何?

 まだ何かあるの?

 ドキドキしながら彼の言葉を待つ。


「それ、聖女の力みたいだから、養子でありながらも神殿で保護してるってことにするわね」

 よろしく、と付け加えてニッと笑う目の前の美丈夫に、私は数度口をぱくぱくさせてからようやく言葉を紡いだ。


「せ、聖女って? 私は聖女じゃなかったから追放されたんですよ? なのになぜ……」

 そこまで言ってふと以前クロードさんが言っていたことを思い出す。


『多分このたくあんこそが、光魔法の治癒の力を持ってるんじゃないかな?』

 あの時は確証がないからそっと胸に留めておこうということになっていたけれど、まさか……。


「心当たりがありそうね?」

 私の表情を見て察したクラウス殿下がニヤリと笑う。


「あんたが私のところに来た日の夜、殿下に……クロードに聞いたわ。あんたのこと。そのたくあんの事もね。だからあんたを見守りながら、そのたくあんについて色々研究してたのよ。神殿長と一緒にね」

 悪戯っぽく笑って言うクラウス殿下に、私は「神殿長も!?」と驚きの声をあげる。

 いつも優しくてぽやーんとした、穏やかな神殿長の顔が脳裏に過ぎる。

 え、あの人研究とかできるの?


「神殿長のスキルは鑑定よ。それも結構高度なね。だから、あんたのたくあんの力については最初の方でわかってたわ。ま、そんじょそこらの鑑定スキルじゃ、たくあんが食べ物だってわかっても、たくあんに秘められた力までは見えなかったでしょうけどね。その力を知った上で、普通に暮らしてもらってたの。あんたにはとりあえず時間が必要だって思ったから」


 どうやら私が思っていたよりもずっと、周りに守られて、気を遣ってもらってたみたいだ。

 やっぱりここの人たちは皆暖かいなぁ。


「でも、そうも言ってられなくなった。国際問題に発展する前に手を打ちたいの。あんたを利用するようで悪いけど、私の養子としての登録と共に、聖女として神殿で登録をし、事後報告にはなっちゃうけど国王陛下、王妃殿下、および王太子殿下への謁見と、ベアル殿下へ紹介させてもらいたいと思ってるんだけど、いいかしら?」


 いいかしらも何も、もう決定事項のようなものだろう。

 それに、これは利用なんかじゃない。だって、まだ王様達に話も通していない上に公表も何もされていないあたり、一応きちんと逃げ道を用意してくれているんだもの。

 本当に、暖かい人だ。だからこそ、そんなの、どう答えるかなんて決まってる。


「はい。よろしくお願いします、クラウス殿下」


 私がしっかりとクラウス殿下の目を見て了承の意を示すと、彼はにっこりと大輪の笑顔の花を咲かせ「ありがとう」と答えた。


「じゃ、今からあんたは私の娘よ!! ママンとおよびぃぃぃぃぃっ!!」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

 馬車の中に私の悲鳴が轟いた。


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