第31話 クラウス・ラッセンディル
「あなた──誰?」
突然現れたキラキラした人物に私は思わず後ずさる。
「ちょっとぉ〜〜!? 私よ私!!」
「私!? 私なんて知り合いいませんよ!!」
「何古典的なボケかましてんのよ!! 私よ!! クララよぉ〜〜〜〜!!」
は!?
クララさん!?
海坊主の如きスキンヘッドは!?
トレードマークの黒いサングラスは!?
主張激しめの口髭は!?
アイデンティティ全部取っ払ってるコレがクララさん!?
「か……髪……く、口髭……サングラス……」
かろうじて動いた口から溢れた言葉で、言いたいことを悟った自称クララさんの男性は、
「あぁ、そういうことね」
と口にしてから、徐に自身の髪をぐしゃっと掴んだ。
「これでどう?」
ズルッ──。
勢いよく髪を掴んで引くと手と共にずれ落ちる髪。
そこから綺麗なツルツルスキンが顔を出した。
「!! クララさんの頭!!」
「だから私がクララだっつってんでしょ!?」
見慣れた見事なスキンヘッドだ。
「ひ……髭は?」
「剃った」
「サングラスは?」
「外した」
「あの黒髪は?」
「つけた」
「……」
何そのカスタマイズ自由な感じ。
「で、でもなんで?」
「あら、私、この姿であなたに会うの、実は二度目よ?」
クララさんだと主張する男は再びカツラを装着し、いたずらっぽく笑う。
二度目!?
いや、全然記憶にない。
外交でお会いした他国の要人は大体記憶しているんだけど……。
まさかクロードさんの時みたいに、余裕のない王妃教育時代に!?
記憶を辿ると、ふと目の前の自称クララさんと、あるお方の目が重なった。
「!! ……フルティア国王と同じ目!!」
今のフルティア国王と同じ綺麗な深い青色の瞳。そういえばどことなくクロードさんや王太子殿下にも似ている。
「ピンポーン!! 現王の弟なのよ、私」
……はぁっ!?
軽い……。
いや、でもこれだけ似ていれば確かに間違いなさそうだ。
私はすぐに臣下の礼を取り、深く首を垂れた。
「お、王弟殿下。知らなかったとはいえ、ご無礼をお許しくださいませ」
「さすが元公爵令嬢、綺麗な礼ね。なら、最初くらいはきちんとさせてもらおうかしら」
そう言うとクララさん、もとい、クラウス殿下は背筋をピッと伸ばし、しっかりとその深い青で私を見つめた。
「王弟、クラウス・ラッセンディル公爵だ。リゼリア嬢、こちらこそ突然の来訪の無礼、お許し願う」
突然の男らしい物言いと、堂々たる態度に、ピリリと空気が張り詰める。
「リゼリア嬢。私と共に王城へ」
そう言ってごく自然に手を差し出し、エスコートの意を示すクララ……クラウス殿下に、私は戸惑いを隠せぬまま「え、でも」とためらう。
すると──。
「いいから来なさいっつってんの!! んもう!! グズねっ!!」
ドスのきいたクララ節が炸裂して、私は半ば強引に部屋から引き摺り出されるのであった。
あぁ、いつものクララさんだ。