第30話 あなた……誰!?
あれから呼びにきたクララさんに声をかけられるまで、私は呆然としたままソファに溶けていた。
ランチタイムからの営業も、自分が何を作って何を話していたか、あまり覚えていない。
その日はクララさんに呆れられながらも、大きなミスはすることなく一日を終えた。
そして翌日。
食堂は休みの日。
クロードさんは“また明日”と言っていたけれど、どうすれば良いんだろう。
特にやることもないので、とりあえずクロードさんの知らせを待ちながら、部屋でレシピ案を書く。
保存の効くような。
ショコリエたくあんのように、どこででも気軽につまめるようなもの。
「水分があるから、なかなか持ち帰っていつでもどこでも食べるって難しいのよね」
サンプルを作ろうと出してみた、皿の上の一本のたくあんを見てボヤく私。
ガーリルオイルにでも漬けてみようかしら。
いや、そんなことしたらまた凄まじい臭いになってしまう。
【ロールDEスクランブルたくあん】も店で売り出したところ大人気で、持ち帰りにして家や職場で食べるという人もいるほどだ。
きっと他の料理も、持ち帰って食べたいって人は多いのよね。
持ち帰りで、食べやすくて、臭いも気にせずどこでも食べてもらえるもの……。
そういえば、東の方の国に【米】という穀物があると聞いたことがある。
その味はほんのりと甘みがあって、臭みもないらしい。
それと合わせたりできないかしら。
たくあんをその【米】で包んでみたら……。
臭いの気にならないたくあん料理ができそうな気がする。
うん。
今度クララさんに相談してみよう。
あの人、なぜかいろんなところに顔がきくから【米】もすぐに取り寄せてくれそうな気がする。
よし。
くっきりと見えてきたビジョンをメモにまとめて、何か飲んで一息つこうと立ち上がったその時だった──。
バンッ──!!
「リゼー!! 出かけるわよぉ〜!!」
野太い声と共に勢いよく扉が開け放たれ、声の主は私の部屋へズカズカと足を踏み入れた。
「もう!! なんなんですかクララさんいきな……り……」
へ……?
何この人。
「何よ。私の顔が何か変だっての?」
「いや……変っていうか……」
声や口調でクララさんだと決めつけていたけれど……。
違う。
クララさんには無い、ふさふさの黒髪。
黒いサングラスも無く、力強い青の瞳が剥き出しになっているし、口髭もなくツルッツルだ。
シックな紺色のジャケットスーツにはキラキラと輝く小粒の宝石が縫い付けられていて、胸にはいくつもの勲章がぶら下がって、各々主張しあっている。
ワイルド系キラキライケメン……。
「あなた──誰?」