第28話 クロードのお願い
「さぁ、今日もしっかり売るわヨォ〜!!」
「はい!! クララさん!!」
この間、たくあんとショコリエを合わせたお菓子を開発した私。
店で持ち帰り用に売り出したところ大盛況で、これを目当てにこの店に訪れるお客さんもいると言うくらい大人気商品になった。
そしてもうひとつ。
大繁盛しているのは、アイネのおかげでもある。
彼女がこの食堂についての記事を書いて、宣伝してくれたのだ。美味しそうなたくあん料理のイラスト付きで。
記事は瞬く間に完売。
旅の資金を手に入れたアイネは、
「ちょっと隣の街に行って宣伝がてら稼いでくるわ」
と言ってまた旅に出てしまった。
少し寂しいけれど、拠点は資金が貯まるまではこの国にするみたいだし、またすぐに帰ってくるらしい。
「リゼさん、おはよう」
いつものごとく出勤前の朝の挨拶をしにクロードさんが食堂を訪れる。
彼は朝昼夜、必ず私の顔を見ないと落ち着かないらしい。
奇特な人だ。
でもいつも優しくて、ドロドロに甘やかしてくれる彼に絆されているだなんて、言えない。絶対に。
だって私はまだ、彼と釣り合うほどの功績をあげていないから。
「おはようございます、クロードさん」
私は笑顔で挨拶を返す。
「ん。今日も可愛いよ、リゼさん」
これもルーティーン。
いつものごとく飽きもせず甘い言葉を囁いてくる。
この人慣れてない!?
本当に今まで女気なかったのかしら……?
はっ!!
やっぱりあの馬鹿王太子みたいに裏ではかなり遊んでるとか……?
馬鹿王太子のせいでかなりの男性不信に陥っている私。
「あのね、前にも言ったと思うけど、俺は遊んでもいないし、他に懇意にしてる女性もいないからね? リゼさん一筋なんだから。そこは誤解のないように」
じとっとした目をこちらに向けながらクロードさんが言った。
この人、なんでいつも私が考えてることわかるんだろう?
そういうスキルでも持ち合わせているのかしら?
いや、彼は聖魔法スキルだったからその線は無いか。
「どうして口にしてないことがわかるのか不思議に思ってる? そんなの、リゼさんの顔を見てればわかるよ。すぐ顔に出ちゃうんだから」
ニンマリと笑うクロードさんに、私は自分の顔をペチペチと両手で触る。
私、そんなに顔に出るかしら?
あ、でも昔、元お父様とカードゲームをした時も毎回負けて“お前は顔に出るからわかりやすい”って言われたっけ。
うわぁ……私の顔、どんまい。
「本当、リゼさんは可愛いな。肝心なことは顔に出さないくせにこういう時だけは顔に全てが表れちゃうんだから」
「うっ……!! そ、それより、聖騎士のお仕事はそろそろ行かなくても良いんですか?」
私は恥ずかしさを誤魔化すように無理矢理に話題を変える。
すると彼は何故か食堂の椅子に腰掛け、ゆったりモードに入ってしまった。
「それがねぇ……、ちょっとリゼさんに依頼があってさ」
「依頼?」
神妙な顔つき。
何かあったのかしら?
すると目の前のテーブルにさっと紅茶入りのカップが2つ乗せられたトレイが差し出された。
「神殿連中のご飯は私がするから、それ持って奥で殿下の話聞いてあげなさい」
そう言ってニッと笑ったクララさんは、言うだけ言うと厨房へと戻っていった。
「さすがだな、クラウスは。意外に気が利くやつだ」
奥で、ということは、おおっぴらには話せないこと、ということだろうか。
「じゃぁ、とりあえずいきましょうか」
私が言ってトレイを持つと「俺が持つよ」とさりげなく取っていくクロードさん。
私はそれに対して「ありがとうございます」と礼を言うと、彼を奥の休憩室へと案内した。
休憩室には長方形の大きな机とソファだけが鎮座して、カーテンから浸透してくる光が部屋全体を照らす。
私とクロードさんは向かい合ってソファへと座った。
「で、なにがあったんでしょう?」
トレイを受け取り紅茶を彼の前に並べながら私がたずねると、クロードさんはものすごく良い笑顔で答えた。
「リゼさん、ちょっとお願いなんだけどさ……。1週間ぐらい城に住んでくれないかな?」
──は?
「俺のそばで、毎日寝起きしてくれない?」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
休憩室いっぱいに、私の声が轟いた。