第25話 ロールDE スクランブルたくあん
さて、勢いでキッチンに来たものの、何を作ろう。
私はとりあえず、今ある食材を確認することにした。
結果。
ケイメスの卵4個。
フリスの葉6枚。
ロールパン6つ。
調味料が数種類。
そしてモーモーのミルク。
…………生活感0!!
まぁそうよね。
だって基本朝以外は食堂で賄いをいただいてるから、こっちでちゃんと料理することなんてほとんどないし。
で、何を作れと!?
いや、作らねば!!
アイネさんのお腹のためにも!!
でもこのロールパン。
中にバターが入っているわけでもなければ、ショコリエみたいな甘味が練り込んでいるわけでもない。
いつもジャムをつけて食べているけれど、あいにく今は切らしている。
さて、どうすべきか。
卵やミルクもあるし、フレンティでも作る?
いやいや、ロールパンは厚みがあるから卵液ミルクの染み込みに時間がかかるし、中まで火を通すにも火加減が難しいだろう。
クララさんのような熟練されたプロならまだしも、ちょっと前まで料理の【り】の字も知らなかった私が人に出すものとしてチャレンジするには、ハードルが高すぎる。
浸すのも焼くのも厳しいようなら……う〜ん……。
いっそ挟む?
ぁ、イケるかも。
考えのまとまってきた私は、すぐに調理に取り掛かる。
まずは卵をボールへと割り入れ、熱々のフライパンへと流し込み混ぜる。
そう、スクランブルエッグだ。
私がここに来て初めてクララさんに教わった料理。
本当は少し味付けをするのだけれど、後々のことを考えて敢えて味付けはしない。
そして出来上がったものをペーパーの上へと移し、一旦油を切るために置いておく。
そして次。
「【たくあん錬成】!!」
一本のたくあんを錬成する。
流石に一本まるまるは使わないので、少量を切り取ってあとは容器で保存。
「欲しい量だけ錬成できたらいいのに。全く、融通の効かないスキルね」
悪態をつきながら小さく細かくたくあんを刻んでいく。
「さて、あとは……」
取り出したのはマヨソース。
最初に作ったスクランブルエッグとたくあん、そしてマヨソースを全て一緒くたに混ぜ合わせ、黄色と白が混ざったモッテリとした具材が完成。
「最後はパンね」
私はロールパンの真ん中に一本、軽く切り込みを入れていく。
その切り込みの中に、フリスの葉を三等分にしたものと、先程のモッテリとしたクリーム状の具材を挟み込んで出来上がり!!
題して【ロール DE スクランブルたくあん 】よ!!
トレイの上にそれらを乗せた皿を並べ、急いでアイネさんの元へと持っていく。
「お待たせしました〜!!」
私はロールDEスクランブルたくあんを6つ乗せた大皿をテーブルの真ん中へ置き、小皿を彼女の前へと置いた。
「何、この料理。初めて見る料理だ」
「先ほど話したスキルで作り出したたくあんと、スクランブルエッグ、それにマヨソースを混ぜて挟んでみました。どうぞ、召し上がれ」
アイネさんが恐る恐る大皿へと手を伸ばし、まじまじとそれを眺めた後に、ゆっくりと口へと運んだ。
ぱくり。
ボリボリボリボリ……。
時々たくあんの硬い音を響かせてながら、ゆっくりと味わうように咀嚼する。
「……美味しい!! 美味しいよこれ!! 初めて食べる味だけど、柔らかいパンにたくあんの食感がアクセントになって美味しいし、ちょうどいい塩加減。いろんな国を渡り歩いてるけどさ、こんなの初めて食べたよ!!」
目を大きく輝かせながら、アイネさんが身を乗り出して興奮したように感想を述べてくれた。
よかった。
気に入ってもらえて。
これもレシピに書き起こしておかなきゃ。
今まで編み出したたくあん料理は、メモ帳に書いた修正点などもまとめて、全て一つのノートへと書き起こしている。
私の、私だけのたくあんレシピ集だ。
「ふふ、よかったです。アイネさんのお口に合って」
「ぁ、それだけどさ、あたしのことは呼び捨てでいいし、敬語もいらないよ。ていうか、敬語使うな。くすぐったいから」
少しだけ照れを含んだむすりとした顔で食べながらそう言ったアイネさんに、先日レジィにも同じことを言われたなぁと思い出す。
“友達に敬語とか使わなくていいから”
そう言った彼女も、今のアイネさんと同じような表情をしていたっけ。
「ふふ、わかったわ。ありがとう、アイネ」
確かにそうだ。
レジィやアイネは、私が今まで相手にしてきた腹の探り合いがいるような相手でもなければ、食堂のお客さんというわけでもない。
偶然私が拾って。
偶然関わることになった。
偶然で結ばれた人たち。
少し気を抜いてもいいのかもしれない。
「ん、それにしてもほんと美味しい!! 最高よ!! リゼ天才!!」
もしゃもしゃと食べ進めながら褒めちぎるアイネに、今度は私が顔を染めることになった。
「なんか力も湧いてくるし、こんなすごいもの作れる美人をみすみす手放すなんて、ベジタルの王太子もバカなことしたね」
冗談めかして笑いながらそう言ってくれるアイネに、少し心が軽くなる。
「ふふ。後悔してももう遅いんだからね」
と私もそれに応えるように冗談めかして言う。
こんなふうにあの人のことを言える日が来るなんて思ってもみなかった。
二人で顔を見合わせて笑い合ったその時──。
バンッ!!
「リゼさん無事!?」