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第17話 ピンクの巨大うさぎ拾いました


 食堂の朝は早い。


 神殿で部屋を借りて寝泊まりさせていただいている私は、毎朝起きてすぐに隣の食堂へと行き、鍵を開けて窓を全開にしてから空気を入れ替えるという作業を行う。


 それがいつものルーティーン。

 ──のはずだったのに──。


「何……あれ……」

 食堂の扉の前には大きなピンクの塊。いや──大きなピンク色のうさぎさんが私を待っていた。


 フルティア王国の隣国には、ベジタル王国の他にもう一つ国がある。ベジタル王国とは反対隣国にある獣人の国ベアロボス。

 実際お会いしたことはなかったけれど、もしやこれが獣人、という種族なのかしら?


「あ、あの……うさぎさん?」

 私が意を決してそっと声をかけてみると、ピンクのうさぎはぴくりと反応を示した。


 えっと……こ、ここはひとまず、今のところ万能な働きを見せてくれているたくあんを出しとくべき?

 あぁ、でも言葉通じるのかしら?

 獣人の方は濃い匂いが苦手だと聞くし、たくあんは苦手かも……。


 どうしようかと考えていると、むくり……とピンクの大きなうさぎが私の視界まで浮上した。


「うさぎじゃないわよ失礼ね」

「うさぎが喋ったぁぁぁぁぁ!?」

 発せられた高く幼さを帯びた声に驚き思わず後ずさる。


「あんたバカなの?」


 辛辣な言葉が飛んできた方を見ると──。


「あ、あれ?」

 私の目の前には、巨大うさぎを抱えた幼女が立ってこちらを睨むように見つめていた。


 金髪のツインテールに大きな青い瞳。

 そして存在感抜群の巨大ピンクのうさぎ。

 どうやら座り込んでいたから巨大なうさぎに隠れて見えなかったようだ。


「あ……あの……お嬢さん、一人ですか?」

 恐る恐る目の前の女の子に声をかけてみる。


「ムーンと一緒」

「ムーン?」

「この子に決まってるでしょ? 理解力、ママのお腹の中に置いてきたの?」


 くじけていいですか……!?

 この子、辛辣すぎる……!!

 今まであったどんな子どもよりも大人びてるし、本当に幼女なのかしら。まさかこのピンクの威圧感たっぷりのうさぎが本体!?


「あ、あの、なんでここに?」

「こんな子どもを、こんな場所にずっといさせる気?」

 うさぎを片腕で抱きしめ、もう片方の手で腰に手を当て、見下ろすように女の子が言う。ものすごい上から目線……!!

 でも確かにまだ冷える早朝の屋外にいつまでもいさせるのもよろしくない。


「そうですね、じゃぁ、とりあえず中へどうぞ」


 そう言って私は扉の鍵を開け、女の子を食堂の中へと迎え入れた。





「はい、どうぞ」

 私は食堂の椅子にちょこんと座った、見た目は可愛らしい女の子へと出来立てのホットミルクを手渡す。


「あら、意外と気がきくのね」

 そう言ってから女の子はふぅふぅと息をかけて湯気を散らし、ズズッとホットミルクを啜った。


 どこの高飛車貴族令嬢よ!?

 そう突っ込みたい気持ちを抑えて、彼女の隣の椅子へと腰を下ろすと、私はなるべく彼女と同じ目線になるように少しかがんでから、ゆっくりと落ち着いた口調で声をかける。


「私はリゼと申します。あなたのお名前は?」

「レジネラ。レジィって皆呼ぶわ。こっちは私の友達のムーンよ」


 そう言ってピンクの巨大うさぎを私の目の前に差し出し、紹介してくれるレジィに思わず頬が緩む。


「レジィとムーンですね。よろしくお願いします。で、なんでうちの店の前に?」

 私が本題に入るとすぐにレジィの顔が強張った。


「言いたくない」

「え?」

 ぎゅっとムーンを自身の胸に抱きしめると、フカフカのピンクの頭に顔を埋めるレジィ。


「出会ったばかりの人に、そんな個人的な情報言いたくない。個人情報は教えすぎちゃダメなんだから」


 あれ?

 もしかして不審者だと思われてる?

 確かに初対面で色々聞くのはまずいのかもしれない。……初対面の美形聖騎士と野宿した上、隣国にまで一緒に来ちゃった私が言うのもなんだけど。


 でもどうしたら……。

 困惑していたその時。


 カランカラン──。


「おっはよぉ〜」

 ベルの可愛らしい音とともに、野太い声を無理矢理高くしたような声が乗って響く。


「クララさん、おはようございます!!」

 今日もフリッフリのエプロン、よくお似合いです。その姿を見慣れた私にもはや怖いものなど何もない。


「あら、この子だぁれ? なかなか可愛いじゃなぁい」

 すぐにレジィを見つけたクララさんは、ズイズイと進みレジィにぐいっとその厳ついお顔を寄せた。


「ひぃっ!!」

 軽い悲鳴とともに涙目になって後ずさるレジィ。

 あぁ……まだ耐性のない子どもにそんなご無体な……。


「どぉしたの? あなたお名前は?」

 もう一段階顔を近づけたクララさんに、レジィは限界を超えた。


「いやぁ〜〜〜〜!! 海坊主ぅ〜〜〜〜〜!!」

「だぁれが海坊主よぉ〜〜〜〜〜!?」



 二人の声が朝の食堂内に木霊した。木霊した。

 

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