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第16話 神殿食堂は今日も平和です


「リゼちゃーん!! こっち、たくポテ2人前!!」

「はーい!!」」

 パタパタパタパタ……

「リゼちゃんこっち、エビフライ!! たくタル多めで!!」

「はいはーい!!」

 パタパタパタパタ……

「リゼさんたくあん一本!! ノースライスでお願いします!!」

「はいはいはーい!!」

 バタバタバタバタ……



 ここにきて1ヶ月。



 食堂はランチタイムの忙しい時間帯になって、私も休む間もなく食堂と厨房を行ったり来たりしている。


 最初は包丁の使い方も、火の起こし方もわからない、文字通り役立たずだった私に、クラウスさん──いや、クララさんは丁寧に1から教え込んでくれた。

 そして通常のメニューにたくあんをプラスしてアレンジした料理が大好評になり、客足が絶えない。


 ポテトサラダという野菜をマッシュしたものに味付けをし混ぜたものに、たくあんをさらに混ぜ込んだたくあんポテトサラダ──たくポテ。


 私がこの国に来て初めて食べたエビフライにかけるソースにたくあんを刻んで混ぜたたくあんタルタルソース──たくタル。


 つうな常連は、たくあんを一本丸々ノースライス、つまり切らずに食べていく方もいる。


 基本この食堂は、朝は孤児院と神殿で働く人のみに解放され、昼と夜は一般にも解放されることになっている。

 朝の2時間、昼は3時間、夜は4時間のみ開店していて、間の時間は仕込み中として閉店していて、その僅かな時間にクララさんと賄いを食べ、大量に料理の仕込みをしているのだ。

 毎日汗水垂らして働いて、公爵令嬢時代からじゃ考えられないほどの運動量だと思う。


「リゼちゃんが来てくれて、この店も華やいだよ」

「ほんとだよなぁ。この店、飯は美味いんだけど、いるのは海坊主だけだったし」

 あぁ……お二人、背後に海坊主──いや、クララさんがいますよぉ……。


「リゼちゃんは美人さんだし、優しいし、天使だよなぁ」

 あぁ……お二人、背後に鬼も──ゴホン、クロードさんもいますよぉ……。

 黒い。オーラが黒すぎる。


「ねぇねぇリゼちゃん、フリーならさ、俺の嫁になんて──」


「ほぉ? 俺の────なんだって?」

「海坊主って────誰のことぉ?」


 地を這うような二つの低い声がお客さん方の背後から飛び出して、ビクッと肩を揺らすお客さん二人組。


 あぁ……。


「クラウスさん!?」

「殿下!?」

 飛び跳ねるように席から立ち上がるお二人。

 そりゃそうだ。

 背後にこんなドス黒いオーラ垂れ流して来られたら……。


「この看板娘に向かって何いってんのヨォッ!!」

「俺のリゼさん口説こうなんて100年、いや1000年以上早いんだよ!!」


「「うぁ〜〜〜〜〜!! 失礼しましたぁ〜〜〜!!」」

 鬼もびっくりな形相のクララさんとクロードさんに責められ、お客さんたちは料理もそのままに走って逃げて行ってしまった。

 お代はしっかりと机の上に置いて。


 あぁ……せっかくのお客さんが……。


「リゼさん大丈夫だった? 変なこと《《してない》》?」

「なんで私がする前提なんですか!?」

 まだ痴女扱いする気か、このキラキラ王子。


「はは、ごめんごめん。冗談だよ。変なことされてない?」

 楽しそうに笑いながら私の髪をさらりと撫でるクロードさん。今日も安定の距離感のおかしなスキンシップですね。


「されてませんよ」

「本当に? 朝はともかく、夜の営業とかさ、雰囲気に呑まれて手出してくるやつとかいたりしない? 夜遅くに帰る時とか、襲われそうになったりは?」

 クロードさんは神殿への勤務の前に毎朝必ず私の顔を見にきてくれる。

 そして昼には討伐がない限りここでご飯を食べ、夜は城へ帰る前に必ず挨拶に来て「おやすみ」を言ってから帰っていく。


 それがくすぐったくもあり、嬉しくもある。

 異性にこんなに大切にされた経験がないから舞い上がるのも仕方ないだろう。何気に毎日彼に会えるのを楽しみにしているなんていうのは内緒だ。


「私は大丈夫ですって。住んでいるのもすぐ隣の神殿ですし、危険なことなんて何一つないですよ。クロードさんは心配性ですね」

 ふふっと笑みをこぼしながら言うと、突然腕をクロードさんに引かれ、私の身体は彼の腕の中へと閉じ込められた。


 温かい。

 そして彼のとても早い鼓動の音が耳に響く。


「あ、あの?」

「本当ならずっとリゼさんのそばにいたいんだからね?」

 静かに頭上から声が降ってくる。

「危なくなったら絶対に俺を呼んでね。すぐに駆けつけるから」

 とても真剣な声色に大人しく「わかりました」と答えると、私の身体はさらにキツく抱きしめられることになった。


 何?

 なんなのこの状況。

 甘い。甘くて胸焼けしそうなんですけれど……!!


「ちょっとあんたたち、まだ営業中よ。イチャイチャすんなら休憩中か、夜に自室でイチャイチャしなさい」


 クララさんの言葉に我にかえり、あたりを見回すと、私たちは食堂のど真ん中で注目の的になっていた。


「ここで思う存分イチャイチャしてくれていいぞー」

「でんかー、がんばってー」

「応援してるぞー」


 お客さんの順応具合が怖い……!!


「ありがとう!! きっとリゼさんを落としてみせるよ!!」

 キラキラとした爽やかな笑顔でお客さんたちに手を振って応えるクロードさん。


 外堀から埋められている気がするのは気のせいでしょうか。

 

 そんなこんなで、今日も神殿食堂は平和です。


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