第14話 神殿食堂の主!?
「ここだよ」
「ここは──」
────神殿?
連れてこられたのは、フルティア王国、王都ドリアネスにある大きな神殿。
あ、あれか。
お前とりあえず神殿直轄の修道院に入ってろってやつですね?
うん、そんなことだろうと思った。追放されてこんな美形な第二王子殿下に出会ったうえ、あんな上手い話、あるわけないものね。
「……何かまた脳内で暴走してる? 貴女の思ってることは多分違うよ」
笑いを堪えながらクロードさんは私の手を引いて馬車から降りた。
「では殿下。私はこれで」
ジェイドさんが騎士の礼の姿勢をとる。
「あぁ。ここまでありがとう、ジェイド」
「いえ、それは私のセリフです。リゼ殿。殿下に何かされたら、私に言ってくださいね。すぐに駆けつけますので」
ジェイドさんは冗談めかしてそう言うと、目を細めて薄く笑い、私の手の甲へと小さなリップ音を立てて口付けた。
「んなっ!?」
「ジェイド!!」
「ハハッ。ではお二人とも、また会う日までお元気で」
爽やかにそう言うと、ジェイドさんは馬に乗り、そのまま騎士団本部へと走っていった。……爽やかな嵐だったな。
「まったく、油断も隙もない」
ぷりぷりしながら彼の後ろ姿を睨みつけるクロードさん。余裕のある雰囲気も、ジェイドさんの前ではまるで子どものようで、少し可愛い。
そんなことを考えていると私の頭の中に気づいたクロードさんがむくれっ面で「子どもっぽいって思ってるでしょ」と私に顔をずいっと近づけた。
近い近い近い!!
綺麗なお顔がすぐ間近に迫った私は話題を変えようと口を開いた。
「は、はは……。あ、あの、クロードさん。それで、ここは?」
「あぁ、この国の神殿だよ。貴女には、この神殿の隣の食堂で働いてもらおうと思ってね」
そう言って、目の前の大きな神殿横の、カントリー系で落ち着いた雰囲気の建物へと視線を移した。
「食堂?」
「うん。一般の人も入れるけど、主に神殿で働く人がここでご飯を食べていくね。あとは神殿に併設されている孤児院の子供たちの食事を作って持っていったり、だね。結構やることあるのに、今一人で切り盛りしていてね。人手が欲しいってうるさかったんだ」
クロードさんが私の手を引いて、食堂の大きな扉の前へと誘導する。
扉には看板がかかっていて、それには【仕込み中】の文字が──。
にもかかわらずクロードさんはそれを無視して「お邪魔するよー」と声をあげ、大きな扉を勢いよく開いた。
すると──。
「ちょぉぉぉぉぉぉっとぉ!! 表の看板見えなかったの!? ランチタイムまでまだあるんだから、大人しく待ってなさいよぉぉぉぉぉぉ!!」
バリトンボイスは確実に男性のものなのに、それとはおよそかけ離れた口調で声が飛んでくる。
何この不協和音。
「忙しい時間に悪いね、クラウス」
悪いを悪いと思っていないような声色でクロードさんが声をかける。私は恐る恐るクロードさんの肩越しに中の様子を覗いてみると──。
「んもう!! 忙しいってわかってて来るなんてっ!! あと一品……あと一品が勝負なのよぉぉぉぉぉぉ!!」
黒いサングラス。
口周りに黒い髭。
つるりと輝きを放つ頭。
なんとも厳つい大男がそこにいた──。