第13話 馬車にて
「大丈夫? リゼさん。騎士団の馬車だから少し小さめだけど、窮屈じゃない?」
私たちは今、ジェイドさんが用意してくれた馬車に乗って揺られている。ジェイドさんは外で御者をしてくれているので、馬車の中にはクロードさんと私、二人きり。
あれからすぐに馬車を手配してきたジェイドさんは、私たちに王都まで送るからこれに乗るようにと勧めた。ジェイドさんは見た目はどこかの貴族の落ち着いた大人な男性という雰囲気だけど、それに反してとても行動力があり、頑固な方のようだ。
「はい、平気です。馬車まで用意していただけるなんて、ジェイドさんに何かお礼をしなくては」
「ははは。貴女は律儀だなぁ。良いんだよ、そんなの。これはジェイドにとって、命を救ってくれた貴女へのお礼でもあるんだから」
声をあげて笑いながらクロードさんが少しだけ前のめりになる。
「それより、ジェイドのことばっかり気にされたら、俺、妬いちゃうよ?」
ただでさえ小さめの馬車で距離が近いのにさらに距離を詰めてからのこの発言。
慣れてる……!! この人、慣れてるんだわ!!
いやでも、まぁそうよね。こんなに綺麗なお顔だもの。
しかも聖騎士で元第二王子とか優良物件すぎるし。そりゃ女の人の1人や2人や3人や4人、同時進行で付き合ったりしちゃってるわよね。
あぁそうよ。男ってそんなもんよ。
婚約者の裏切りを経験した私は今、とてつもなく男性不信になっている気がする。
私がまた脳内で暴走を繰り広げていると──。
ギシッ──……。
私の隣へと、さっきまで目の前に座っていたクロードさんが移動して、さらに距離が近くなる。
「っ!?」
「リゼさん、また一人で暴走してるね? 大体どんなこと考えてるのか、リゼさんの顔を見たらわかるよ」
ふふっと笑いながらクロードさんは私の手を取り、その上から自身の反対の手を重ねて続けた。
「俺、今まで誰とも付き合ってないよ」
耳元で静かに呟かれるその言葉に、私は驚いて思わず隣の彼を見る。
「っ──!!」
思ったよりも近い場所にクロードさんの顔があって、どきりと鼓動が跳ねる。
「確かに婚約話はたくさんあったし、御令嬢からのアタックも激しかったけど──、誰の誘いにも乗ってない。必要以上に触れたりもしてない。じゃなきゃ、俺が令嬢連れてるだけでこんなに騒がれないよ」
確かに、私を連れているのを見た時の騎士たちの反応は皆同じだった。
まるで信じられないようなものを見ているかのように、彼らは皆一様に目を大きく見開いて驚きの表情を浮かべていた。
「無理強いはしないけど、俺の初めては全部貴女でいたいんだよ。デートするのも、キスをするのも、その先も──ね」
色気が!!
色気がダダ漏れですクロードさん!!
顔から火が出そうとはこのことだ。今自分がどんな顔色をしているのか、見なくてもわかる。
私がクロードさんに触れられていない方の手で顔を覆うと、クロードさんはまた私の耳元へと唇を寄せた。
「リゼさん、俺、リゼさんに襲われるなら本望だからね?」
「っ!? お……襲いませんからぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」




