第11話 聖なるたくあんは聖女の証?
ひとしきりクロードさんや医師たちが歓喜に震え、喜びあう声がおさまってくると、ジェイドさんはあらためて私の方を見てから、ベッド上から頭を深く下げた。
「ご令嬢……!! あなたのおかげでもう一度この目で彼らを見ることができ、話すことができました。本当に……本当にありがとうございました!! あなたは聖女様、なのでしょうか?」
ジェイドさんの言葉に、騎士たちの驚きと好奇に満ちた視線が集まる。
「え……えっと……んと……」
聖女になり損ねた、なんちゃって聖女です。
顔だけ聖女とも言われました。
──なんて、口が裂けても言えない……!!
私が言葉に詰まっていると、私の前にほんのりと柑橘系の香りを広げながら出てきた背中──。
「ジェイド。この人は俺の大切な女性だよ。減るといけないからあまり見ないでくれるかな? 君たちも、ジェイドが無事だと分かったんだ。早く上に報告して、持ち場に戻るように。あぁそれと、今起こったことは他言無用だ。これは王族としての言葉と思え」
テキパキと指示を出していくクロードさんの視線が、一瞬私の瞳と交わって、彼はまるで私を安心させるかのようにニコリと微笑んだ。
クロードさんの指示により、後ろ髪をひかれながらも部屋を出て行った騎士と医師の皆さん。
今ここには患者であるジェイドさんとクロードさん、そして私しかいない。
「──さて。さっきの質問だけど、俺にも、そしてリゼさんにもよくわからない、という回答が正しいと思うよ」
急に真剣な表情で話し出したクロードさんに、ジェイドさんが息をのむ。
「そうだよね、リゼさん?」
「はい。確かに聖女が出ると言われた年に生まれましたし、最も有力な聖女候補として昨日まで生きてきましたが、昨日のスキル検査で出たのはこの──」
ポンッ──!!
弾けるような音とともに、黄色くつやつやとしたたくあんが現れる。
「──【たくあん錬成】スキルでした」
だから私は追放された。
聖女じゃなかったから。
カリッポリポリ……。
「多分このたくあんこそが、光魔法の治癒の力を持ってるんじゃないかな?」
私の手に握られたたくあんをポリポリと齧りながら、クロードさんが推察する。何勝手に食べてるのこの人。
「光魔法を……?」
そんなばかな。
こんなくさいのが?
「俺たち昨夜、これを食べて元気になっただろう? そして今はジェイドの怪我が治った。光魔法の一種だと考えるのが妥当……じゃないかな?」
確かに、ヒールで歩き続けて痛んだ私の足も、これを食べてから綺麗に痛みがなくなっていた。でも光魔法ってもっと、綺麗な光を放った神聖な魔法じゃ……?
誰が思うだろう。
こんな黄色くてクサい、得体の知れないものに聖なる力が宿っているだなんて。
「ただ、これはまだ推測に過ぎない。公表して変に騒ぎ立てられて困るのはリゼさんだ。今は俺たちの胸の中だけに留めておこう」
神妙な面持ちで声を低くして言うクロードさんに、私も、そしてジェイドさんも深く頷いた。