第10話 最終手段はたくあんです
クロードさんの顔は俯いていてよく見えないけれど、必死に涙を堪えようとしているんだろう。肩が小刻みに震えている。
こんな……。こんなこと……。
視線を目の前で横たわるジェイドさんへと移すと、私はあることに気がついた。──まだ僅かに、息がある……!!
そうだ意識を……意識をとりあえず回復させないと!!
でもどうすればいいの?
あぁ、私に光魔法スキルが出て、聖女としての力があったなら──。
──ん?
スキル──?
……そうだ……これなら!!
一つの可能性に思い至った私は、すぐさま口を大きく開き、声をあげる。
「【たくあん錬成】!!」
「!? リゼさん何を!?」
私は声をあげるクロードさんに反応することなく、手のひらにポンッと現れた黄色く長いたくあんを、ずいっとジェイドさんの整った鼻先へとくっつけた。
「起きてぇぇぇぇぇ!!」
ピクリ──。
眉がわずかに反応を示す。
よし、反応がある!!
なら…….!!
私は最終手段として、周りが騒然となるのも気にすることなく、そのたくあんを彼の口の中へと突っ込み、顎を掴んで強制的に咀嚼させるという暴挙に出た。
我ながらかなりの強硬手段だとは思う。
でもこうすればなんとかなる。漠然とそんな気がしたのだ。
すると──。
「うぁぁぁぁ!?」
大きな叫び声をあげて飛び起きたのは、先ほどまで青白い顔をして横たわっていたジェイドさん。
「ジェイド!?」
「な、何が……!! っ……痛みがない……? 私は……生きているのか?」
何が起きたのかわからない様子で、目をパチパチさせながらジェイドさんが確かめるように自身の胸部に触れる。
うそ……助かった、みたい。
よかったぁ……。
「ジェイド、どこか痛みは!?」
「あ、いえ……痛みが……引いていまして……」
口に残ったたくあんの残りをポリポリと咀嚼させながら、不思議そうな表情で傷のあった胸を摩るジェイドさん。すぐに医師たちが彼の包帯を外して、じっくりと傷口の確認をしていく。
「すごい……傷が塞がっている……」
医師の一人が呟いた。
彼のちょうど心臓あたりには大きな傷痕のみが生々しく存在している。血の痕があるということは、さっきまでここから血が流れていたのだろう。
それがしっかりと塞がっているのだ。
え……まさか……このたくあんが?
いやいやいやいや……え? 本当に?
意識が戻ればと思って突っ込んでみたものの、傷まで塞がるなんて……。
「触るとまだ少し痛みますが塞がっている……ようです」
曖昧な返答を返しながらも、はは、と笑ってみせるジェイドさん。
「あぁ……ジェイド……!! 本当によかった……!!」
涙を浮かべながらも安堵の笑みを浮かべるクロードさんに、私も一緒に安堵する。
「隊長が……隊長が目覚めたぞぉぉぉ!!」
誰かが声をあげて、医務室は騎士たちの歓声に満ちた。
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