『54』
『54』
「俺はイカットを襲っていなくて、すでに死んでいたのだが。残念ながら俺には助けてやれなかった。アスティの言うのは違う」
俺が襲って殺したと勝手に決めつけてきたので、アスティに説明はしたが、アスティがどこまで俺を信じてくれるかは、わからないな。
こういう一方的に論じてくる奴は、人の意見を聞かないのがあるからで、説明しても無駄に終わるだろうが、一応説明した。
これで理解してくれたらなと俺は思うが、果たしてどうかな。
予想通りに冷静な状態ではないのは伝わった。
もう何を言っても俺がイカットから奪い去ったとしか言わないだろう。
「何が死んでいただ、ふざけるな、ギルドもギルドだ、なぜ報酬を出したのだ、インチキ野郎に報酬を与えるべきかよ、俺は認めねえ!」
「そうだ、そうだ、詐欺師だ!」
「詐欺師!」
「詐欺師!」
いきなり俺を詐欺師呼ばわりときたか。
信じないとは思ったが、まさか詐欺師までくるとは、俺も思っていなくて、仲間も文句を言い出して、俺には手がつけられない感じだ。
人は集団に弱い部分があり、大勢の意見に逆らうのは難しいのだ。
そのため関係ない冒険者達も、俺が横取りしたのだと思い始めていて、怪しんで見ている。
集団心理ってのもある。
自分一人が違う意見をいうのは嫌う傾向があるのだ。
アスティもこのギルドではかなりの冒険者なのだろうことは、誰もアスティに意見を言わないことから推測でき、Aランクくらいには認定されていそうだな。
それにしても面倒になってきていて、俺が一番苦手なタイプの人間にからまれた。
そもそもオリオンから勇者パーティーを追放されて、この王都でゆったり暮らそうとしていたのに、逆に以前よりも面倒になるのは俺にはやりきれない感じだ。
こういうタイプの人の連中には、俺がどれだけ説明しても無駄に終わりそうだし、言えば言うほどに逆に反感を買うのもある。
それが当たっているのが、すでにアスティと仲間は、俺を完全に信用していないのは明らかだし、もはや何を言ってもだめか。
ただアスティをかばうとしたら、彼は器用富豪スキルを知らないし、見たことがないのがあった。
器用富豪の凄さ、規格外さ、次元の違いは見たものにしか伝わらないところもある。
アスティが俺の本来の力を知らないからには、俺のことを信じてくれないのかもだし、信じさせるのも難しいか。




