第六話
......滅多に使えないが、この時代の創星と連絡を取る方法が一つだけある。
神格保持者全員に繋がる通話機能が第二現実にあるのだ。
だが使ったあとは数週間は意識をなくしてしまうし、その後も第二現実へのアクセス権を一時なくしてしまう。
狙った相手だけとの通話ではなく、神格保持者全員に繋がってしまうのも難点だ。
瑠璃も神格を持っていた。
この時代の瑠璃が自分の持つ神格に気づいているかはわからないが、間違いなく前世とは違うことになってしまうだろう。
第二現実が世に出るまではあまり過去を変えたくはなかった。
前世よりも悪い方向に進んでしまうかもしれないからだ。
もし、世界の第三現実化が早まってしまったら......?
もし、創星の過去が大幅に変わったせいで、俺の敵側にまわってしまったら......?
考え出したらきりがない。
「......創星さん」
『んぁ!?な、なんだ?』
「さっき創星さんが考えてたこと、見させてもらってたんだけど......」
『......そうか』
「助けたい人がいるんなら、助ければいいと思うよ。
それを止める人は、誰もいないよ」
『そう......か。
そうだな。もっと単純なことで良かった。
助けたいから助ける。それだけのことだな』
「うん。それには勿論僕も協力するから!」
「勿論俺も」「私もよ」
『ぼ、僕だって......協力してあげてもいいけど?』
「皆......ありがとう」
「早速、始めようと思う。
俺と蒼空の人格を完全に分ければ、影響を受けるのは俺だけになる。
状況を伝えるために体の主導権は俺が一時もらうが、俺の意識がなくなればすぐに蒼空が取り返してくれ」
『わかった』
「じゃあ、始めるぞ。
第二現実。アクセス開始」
《第二現実へのアクセスを確認しました》
《個体名......確認不可。再試行します。
......不可。
一時的に アーカイブ内の個体名:ゼロ を割り当てます。
個体名:ゼロより第二現実へのアクセスを確認》
《要件をお伝え下さい》
「緊急通話だ。神格保持者全員に繋げてくれ」
《確認しました......コード:20、『緊急通話』と判断。
あなたの神格では、数週間の昏倒、一時的な神格剥奪が予測されます。それでも開始しますか?
「ああ。開始してくれ」
《......確認しました。通話を開始します......》
「あー。あー。繋がったか?」
『......誰だ?なんだ、これは』
『......!?』
「俺は......ゼロ、と名乗っておこうか」
俺がわざわざ蒼空の体の主導権をもらったのは、声で違和感を与えないためだ。
思考をそのまま伝えることもできるが、それだと魂に刻まれた声......簡単に言うと前世の声で通話になってしまうからだ。
それだと創星と同じ声になってしまう。
それだと確実に違和感を与えてしまう。それだと話にならないだろうから、発した声そのままで通話することにした。
『ゼロ?何者だ?......これは、なんだ?どうやってこんなことをやっている?』
「質問が多いな......これは、第二現実を用いた通話だ。何者だ、という質問は......君の味方、と言っておこうか。今のところは、だけどな」
『......どうやってこの方法を知ったんだい?
このじだ......コホンッ......なんでもない』
この声は......!?瑠璃か!?
「る......ん"んっ......人に名を聞くときは、まずは自分から名乗ったらどうだ?」
『む......?
これは失礼した。ボクは月夜 瑠璃。
これでいいかい?君こそ、ゼロなんていうのじゃなくて、ちゃんとした名前を名乗ったらどうだい?』
「すまないが、俺には名乗る名がないんだ。だから便宜上俺のことはゼロと呼んでくれ」
『......わかった。ゼロ』
『それで、なんの用だ?
俺が知らない手段でわざわざ連絡してきたということは、この情報が俺に渡ったとしてでも伝えたいこと......もしくは教えてほしいことがあったんだろう?』
「答えは前者だ。
君へアドバイスがある」
『アドバイス......?』
「俺は、第二現実を経由して、未来に起きることが見えることがあるんだ」
『未来......?ふむ。面白い。それで、どんなアドバイスなんだ?
俺の未来を見たなら少しは理解していると思うが、俺は忙しいんだ』
「ああ。わかっているよ。だから手短に伝える。
数年後、君の両親が、君をかばって命を落とす」
『は......?』
『......!?』
「だが、それは必要なことだ。それがあったからこそ君は君の家の当主になり、命の危機はなくなる」
『......ならなぜそれを俺に伝えた?
必要なこと、というからには、少なくとも君にとって俺は生きていたほうが良いということだろう?
そしてそれは君が俺にこの情報を伝えなければ起こっていたことだ』
「いや、そうだとしても、両親の命を落とすのは悲しいだろう?だから、それを回避する方法を教えてあげようかと思ってね」
『......意味がわからない。俺の両親が死ぬことで、俺が死ぬことはなくなるわけだろう?
両親が生き残れば俺には命の危機がついて回ることになるんだろう?
それは君にとっても良いことではないはずだ』
「それを回避する方法だよ。表向きには死んだことになるが、絶対に見つからず、両親が死ぬこともなくなる方法だ」
『ま、まさか......』
「第二現実に、人間をデータ化して保存することができる」
『......本当か?』
「ああ。嘘を言う必要がないだろう?」
『そうか......その方法を使えば、死ぬことはないんだな?』
「データ化している時はな」
『......再び実体化させることはできるのか?』
「可能だ。それを可能にする装置を未来で君が開発する。
だが、取り扱いには十分注意してくれ。
設計図や技術のデータが入った端末を研究室においたまま遠出することは厳禁だ。
君の家の者に盗まれることになる」
『そうか......未来の俺はとても迂闊なんだな』
「うぐっ......ま、まぁ、そういうことだな。
それで、人をデータ化する方法だが......」
「——だ。理解したか?」
『ああ。
......感謝するよ。君のおかげで俺の両親の命は助かるだろう。
......それで、対価はなにがいいんだい?』
「対価......?
ああ、忘れていたよ。何もいらない。
......第一、君は俺になにか送れるのか?」
『うぐっ......無理だな。だが、情報は......未来が見えるのだからすでに持っているか。
うぅむ......』
「......だったら、数年後、君がいる研究室がある大学に天音 蒼空という青年が入るようなんだが、君の研究室に配属させてくれないか?
彼は将来君と共に研究をするんだが、現在見える未来では、配属が遅いせいで研究が滞り、とある問題が起きてしまうんだ。
その内容を伝えると未来が大幅に変わってしまう可能性があるため伝えられないが、
彼の配属が早まれば、その問題もなくなる」
『......わかった。深くは聞かない。
恩返しだ。必ずやるよ』
「助かるよ」
「さて。これで俺の用事は終わった。じゃあ、切断する」
『......はっ!待って!ゼロ!キミってもしかして——!』
ブツッ ツー ツー ツー......
......瑠璃がなにか言おうとしていたが......切ってしまった。
流石に......もう一度通話することはできないな......
「終わったぞ。そろそろ意識がなくなりそうだ。蒼空、変わってくれ」
『わかった!』
「......んっ......創星さん、大丈夫?」
『だいじょばない......ぐっ......』
「創星さん?創星さーーーんっ!!」
蒼空の声を頭の隅で聞きながら、俺は意識を失った。
本作を読んでくださり、ありがとうございます!
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