第二話
それから数分後。
「......ねぇお父さん、お母さん」
「ん、なに?」「どうしたの?」
「実は、大切な話があるんだ」
「......それって、さっき言ってた話?」
「うん。そう」
「え?え?何の話?」
「それが......」
そして俺は、学校から帰るときに突然自分とは違う人間の記憶が頭の中に入ってきたこと、
それが今から20年後の未来の人間の記憶だということを話した。
こんな荒唐無稽な話、信じてもらえるわけがないとどこかで思っていたが、それでも、両親を信じ、待っていた。
「......そ...う。蒼空、この事を私達に話してくれたこと、本当に嬉しいわ。
......あなたがそのことを話すことは、私達にはわからないほど勇気のいることだと思う。
蒼空と、その記憶の人、かしら。あなた達が私達のことを、まだ親として見てくれるのなら......
一緒に居たいと思ってくれているのなら、
......今まで通り、一緒にいてほしいわ。
いくら他人の記憶があったとしても、私達にとっては、たった一人の大事な息子なんだもの。
......それに、このことを話してくれたってことは、貴方は子供だっていう立場を利用して悪いことをしようとする人じゃないってことでしょう?」
「......殆ど悠衣さんに言われちゃったけど...
俺も、俺としても蒼空は大切な息子だ。
いくら他人の記憶を持っていようと、それを理由に疎んだりはしない。絶対にだ。
その記憶も、蒼空が自ら望んだわけじゃないんだろう?
まぁ、蒼空がその記憶を自ら望んでいたとしても、俺たちには他人の記憶を求めるほどのその環境を改善する義務はあれど、責める権利はないだろう?」
「それに、他でもない自分の息子よ?息子を信じないで誰を信じるのよ?」
とのことだ。
それを聞いたお父さんは悲しそうな顔をし、それに気づいたお母さんが慰めてイチャイチャしていた。
信じてくれて、こんな他人とは違う"僕"を受け入れてくれて本当に嬉しい。
......けど、両親のイチャイチャを見るのはなんだかなぁ......
微笑ましさも感じるし、またかという呆れもある、微妙な感情。
これから、こんな日常になれる日が来るんだろうか。
......ほんの少し不安だ。
でも、こんな日常が続くことを、信じたい。
......だが、信じるだけでは駄目だろう。
"僕"が、止めなければいけないんだ。
あの事件を。
......とりあえず、今日はこの日常を楽しむとする。
明日からは夏休みだ。時間はたっぷりとある。
「ん?蒼空、ちゃんと食べてるの?
しっかり食べないと大きくなれないわよー?」
「そうだぞー。
......あ、蒼空、あのさ」
ん?どうしたんだろうか?
「なに?」
「未来ではさ、須藤愛結って結婚してた?」
須藤愛結というのは......アイドルのことだ。
"俺"はアイドルに興味はなかったが、同じ研究室にいた"あいつ"は熱狂的な大ファンだった。
「うーん......してたよ。
一般の人と」
「えっ?本当に!?」
「なんか、ファンの人が握手会に行ったときに身分証を落としちゃったらしくて。
それに書いてた名前が、須藤愛結さんの中学生の頃の初恋の人だったらしいよ。
握手のときも見た目殆ど変わってなくてびっくりしたらしい」
「へー......なんでそんなことまで知ってるの?」
「まぁ......そいつ仕事仲間だし」
「えっ......えーーーっ!!!」
「うるさいわね......ご飯ぐらい静かに食べなさいよ!!」
「「はいっ!!」」
......まぁ相手は想像つくかもしれないが、さっき言った"あいつ"だ。
"あいつ"も須藤愛結が同じ学校出身だったとは気づいてなかったようだ。
それに"あいつ"も、中学生の頃の甘酸っぱい初恋の思い出をことあるごとに聞かせてきた。
その相手が須藤愛結だとは知らずに。
まぁ、両片思いだったってわけだ。
......第三現実でも、あいつと須藤は拠点を管理したり、拠点で歌やダンスを披露して人々を癒やしていた。
"俺"が死ぬときまでは、生き残ってくれていたよ。
今度はあいつらには、普通の夫婦として生活してほしい。
そのためにも、頑張ろう。
......まぁまずはご飯だ。
お母さんが、早く食べろという意味を込めて、鋭い目でこちらを見つめてくる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして翌日。
ついに今日から夏休みだ。
さて、何からしたものか......
「蒼空ー」
「んー?何ー?」
なにかあったのか?
「宿題早めに済ましときなさいよー?」
......あ、夏休みの宿題があったんだった。
「わ、わかってるよ」
「......ん?まさか別のことするつもりだったの?」
「い、いやそんなことなくはないですよ?」
「あるんじゃない......ほんと早めに済ましときなさいよー。
今年も来月に皆で旅行に行くんだから。
......あ、創星さん?は初めてね。
蒼空の記憶から把握しといてねー」
『うーん。我が母ながら適応力が半端ない......』
『すごいな悠衣さん......自分の息子の記憶が他人に見られることに対して不快感は抱かないのか?』
『まぁそれがお母さんだし......?』
『それで納得していいのか......?』
因みに"俺"は蒼空と脳内で会話ができる。
普段は一つに混ざった人格で思考、会話ができ、記憶もお互いに共有できているが、
脳内で集中すればお互いの人格に別れ、意思疎通ができる。
俺と記憶を共有したからか、蒼空も俺と同程度の知識はあるため、以前に比べて脳年齢が上がっているといえばいいのか......大人びた言動をするようになった。
それでも年齢に応じた思考をしているので、突然膨大な知識を与えてしまった俺は、責任を取って支え、悪い道に行きそうになれば元の道に直してあげよう。
それが俺なりの、巻き込んでしまったことの罪滅ぼしだ。
蒼空も俺の記憶を見たからか、あの事件の防止には積極的に協力しようとしてくれている。
......記憶を共有するのだからすぐにバレてしまうとは思うが、一つの小さなサプライズプレゼントをしよう。
友達という、プレゼントを。
本作を読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも、
「面白い!」
「続き早く書け!」
「友達って......?」
と思った方は、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えてくださると幸いです!
それだけで私のやる気はどしどし湧いてきますので!!
......皆さんよろしくお願いしますね!