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美味しいご飯は身を助ける 神名萬屋  作者: 毎日が日曜日
日本編
7/26

7話 合同調査 その3

《次は終点フードジーン前、お忘れ物なきようにご注意下さい。本日も・・・》


都営バスの最後尾に座っていた僕は焦っている。車内には数人の男性客と赤城 彩芽しか残っていないが、男性客が着用しているネクタイからワンポイントの鷺を見て取れるので全て会社の関係者だろう。悪足搔きとして最後に降車することにした。


 赤城は最初にバスから降りると一本道の前方にある建物群に向かって歩き始め、男性客の集団は反対方向に向かっている。覚悟を決めるしかないので、赤城を追うように後に続く。


「あの、」

「あんた、私の後を追ってきているようだけど、何、ストーカー?怖いわね」

「いえ、スニーカーです。珍しい靴を見たのでついつい気になって。それってジュ〇ッペの限定モデルですよね」

「そうなのよ、入手するのに苦労したわよってなるかー。こんな辺鄙なところまで追ってきて。まあ、あんたの履いている旧モデルのドル〇バを見るとあながち嘘とは思えなくはないけど。とにかくこれ以上付きまとうと会社に連絡して警備員が飛んでくるけどどうするの?」

「ごめんなさい。僕は時々他の人の迷惑を考えずに好きな靴を見ていたくなっちゃうので直ぐに帰ります」


 赤城は胡散臭い物をみるように暫く僕をにらんでいたが、気を取り直したのか歩き出し門扉を通り過ぎそのうち姿が見えなくなったので、僕は道路を横切り帰りのバス時刻表を確認した。1時間ほど待たないといけないようだ。


幹線道路に合流するまでフードジーン用と思われる一本道を歩いて戻っていると、道の反対側には先ほどまで同じバスに乗っていただろうフードジーン関係者の姿が見て取れた。何だか見られている気がする。せき込むような振りをしながら大鷹と連絡をとる。


「ごほ、うこく、おごほに、おわれそうではっくしゅん」

「味蕾君、大丈夫?イェスなら1回、ノウなら2回、咳込んで!」

「ごほん、ごほん」

「通信機をとにかく隠して」

「ごほん」


僕は靴紐を結びなおすように屈むと素早く通信機を耳から外して靴下に隠した。立ち上がるといつの間にか3人の男は前方を塞ぐように並んでいる。


「兄さん、ここは民地内通路だから勝手に歩き回られると困る」

「都営バスでここまで入れたので知りませんでした。直ぐに出ていきます」

「チョット待ちな、おいお前ら」


 二人の男が近づいてきて、気が付くと浮遊感を感じ数秒遅れて背中に痛みを感じた。


「兄さん、いきなり殴りかかってくるとはいい度胸だな」

「そうだな、これは正当防衛だな」


 僕は亀のように丸まるが容赦なく蹴り続ける二人の男に、リーダー格の男が指示を出す。


「スマホがあるはずだ、回収しとけ」


 余りの痛みに気を失いそうになったその時に、遠くから高速回転特有のエンジン音が次第に近づいてきた。キキー、ダン。


「遅くなったわね、直ぐに終わるから待っててね」


セダンからゆっくり現れた大鷹が凶悪な笑みを浮かべ、ヒールを脱ぎ両手に持つと恐ろしい事を呟いた。


「ゴミは踏みつぶすことにしているから体に穴が空いたらごめんね」




「怪我は大丈夫?」

「大鷹さん、助かりました。ヒールは大丈夫ですか?」

「味蕾君、心配する順番が違うでしょ」

「あの立ち回りをみれば大鷹さんはノーダメージなのは分かり切っていますから。逆にあの人たちが少し可哀そうになりましたよ。3人とも穴だらけの両腕から出血していたのですから」

「これでも手加減はしているのよ、顔に余計な傷をつけると相手からの恨みが段違いに深いものになるから」


 この日から大鷹は僕にとって怒らせてはいけない人リストの2位にランクインした。




 4人とも帰社したので全体報告を兼ねて社長の待つラボ室に初めて入室する。2階の事務所とは打って変わってセキュリティは厳重で虹彩認証から荷重パネルにより歩行パターン認証と呼気成分認証まであるので、クローンじゃない限り偽装は出来ないくらい厳重だ。


 フロアは大きく2分され、一つは大型メインモニターと多数の計器類が見て取れる会議用の部屋のようで、円卓と3Dビジョンモニターが併設されている。もう一方はクリーンルームと最新の3Dプリンターが所狭しと並べられまるで試作品工場のようだ。


 円卓で社長を中心に他の社員は既に着席しており、空いている席に近づいくと、隣には初めて見る黒髪の女の子が僕の顔をまじまじと覗き込んできたので、社長が窘めるように言った。


「こら、鈴蘭、初対面の味蕾君に失礼だろ」

「だって、面白そうだもん」

「初めまして、味蕾 大丸です。社長、他の社員さんもいらっしゃったのですね」

「たっちゃんの事無視しない」

「この子は技術開発専門スタッフ。ほら、自分で自己紹介しなさい」

「海馬 鈴蘭。たっちゃんと呼んで」

「どこからたっちゃんになったの?」

「海馬はタツノオトシゴに形が似ているから」

「僕より若く見えるけど年下なの?」

「16歳。ねえねえ、味蕾君の味蕾はいくつあるの?解剖したいな、知りたいな、ワクワク」

「怖い事言わないでよ」

「社長、そろそろ会議を始めましょう」



 大鷹の一言で今日の合同調査の情報共有を済ませると社長が最後に何か必要なものがあれば申し出てほしいと意見を求めるので、僕は立ち上がって訴えた。


「今日の調査で僕は料理以外に力になれないと痛感しました。最後には大鷹さんに助けてもらう始末です。せめて護身のために何か身に付けたいのですが、いい方法はありますか?」

「大丸は体が小さいから打撃系じゃない方が無難っすね」

「たっちゃんもそう思う」

「僕より小さい海馬さんには言われたくないです」

「たっちゃんは内勤だからいいの。いざとなったらこれだから」


 引き金を引くような動作をしたかと思うと僕の体は複数のレーザーポインターにさらされていていたので慌てて海馬に謝罪した。


「どうも、すいませんでした」

「オホン、味蕾君の護身術の件は手配することにするよ。他には何かあるかね?」

「味蕾君を助ける際に車で乗り付けたので、セダンのオールペイントをお願いします」

「俺からは新型の通信機の開発を提案します。本日の自称毒島邸では使えませんでしたから」

「ケンちゃん」

「つるぎだ」

「ケンちゃんの言うことは分かるけど高出力の物は体にかかる負荷を考慮すると限界だからこれ以上はむり」

「俺っちは胃薬を」

「大体済んだようだな。大鷹君、経過報告を後で毒島邸に送っておいてくれ。後は味蕾君の家族に関する話で思い出したことがあったので、君たちが外出中に色々確認し、急遽、沖縄に行くことになった。せっかくなので慰安旅行も兼ねるので皆参加するように。」

「たっちゃんはパス、外は怖いし日焼けしたくない」

「社長、僕の家族の情報はどこから手に入ったのですか?」


「うむ、運用会社をしていたころから五代という名の記者に伝手があってな、儂の妻の裁判の最中も随分と世話になった。当時から、五代が自分の身に何かあったら橙と言う名の記者を頼れと言付かっていた。ここまで聞けば分かると思うが彼は突然消息を絶った。


味蕾君の面接時に橙という名の家族探をしている話を聞き、今朝五代の家族に連絡を取ったところだ。相変わらず、何の連絡もないようだが、書斎から橙 一二三という人物から毎年贈られてくる年賀状を見つけたそうなので連絡先を聞いておいた」




翌日、プライベートジェットを使用し社長を含め5人で羽田から沖縄にやってきた。


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