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美味しいご飯は身を助ける 神名萬屋  作者: 毎日が日曜日
日本編
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5話 合同調査 その1

 朝食後すぐに会議が開催され社長が便利屋を開業した真意とこれまでに集まった情報を共有することになった。


「諸君、午後から合同調査を行うにあたりこれまでの経緯を味蕾君にも伝えることを昨夜決心した。今一度社員全員で共通認識を持ってこれからの調査に当たって貰いたい。


事の始まりは私の妻が食品改革(現フードジーン)のアンチエイジングサンプルを摂取し謎の症状に悩まされるようになったことだ。印刷されていた成分一覧によるアレルギーは考えられなかったので、通院しながらも食品改革に食品偽装表示による刑事告発する旨の告訴状を送り、原因究明のために厚生労働省(現消費者庁)の相談窓口に連絡を取り始め、裁判所にも訴状を提出しいよいよ口頭弁論が開始される手筈が整ったある日、通院途中に妻は暴漢に襲われ亡くなった。


生前我々とは何の接点もなかった犯人は勾留期間中に急性心不全で死亡し、事件はそのまま迷宮入りしたので、私達の裁判も一時中断し私が相続して受継したがほとんど進展していない。


そこで警察を当てにせず独自に情報を集めるために去年神名萬屋という便利屋を始めることにした。便利屋と謳ってはいるが本当の目的はフードジーンに対して正義の鉄槌を下すことだ。国家公安委員会にも探偵業の届け出を提出済みなので人探しも円滑に行える」


大鷹が立ち上がり、ここからは私が引き継ぎます、と宣言して2階フロアを消灯すると前方の大型モニターをレーザーポインターで指し示しながら話し始める。


「残念ながら社長の奥様が摂取されていたサンプルは現在では入手不可ですが、二人の依頼人より回収したサンプルは当社ラボの解析により同一であると判明し、驚くべきことに原料には人DNAの遺伝子組み換えした培養肉から抽出された成分が使用されていることが分かりました。


また、香水に含まれていた特定のフェロモンも同様の思想で成分が抽出されているようです。以上の事から本日の合同調査である毒島 菫からの浮気調査は夫の毒島 浩二氏がフードジーンの営業職とのことなので、今後の流れを左右する重要な依頼と考えられ失敗しないように充分注意願います」



 僕は底知れない恐怖を感じ暫く呼吸をすることを忘れてしまった。僕以外は既に承知しているようで改めて気合を入れなおしているようだ。


「この後機材を用意してすぐに出発します。味蕾君、青ざめているけど問題ない?」

「僕も神名萬屋の一員ですから出来ることに全力を尽くします。」

「いい返事ね。じゃあ、早速、車内待機組の為の軽食の用意をお願いします。」


 少なくとも料理をしている間は、僕の日常でコントロールできる世界なので落ち着きを取り戻すために、おにぎりとサンドイッチ、トルティーヤをバケットに詰め込み、味噌汁とクラムチャウダーをそれぞれ銅製のボトルに注ぎ込んだ。




本日の依頼人毒島 菫は高級住宅街の角地に瀟洒な欧風作りの一戸建てに住んでいる。僕と北王子は装甲車のようなワンボックスに乗り込み近場のコインパーキングで待機して、セダンに乗り込んだ大鷹と犬神が訪問する役割分担になった。


「味蕾君、私の声は聞こえますか?」

「良く聞こえますよ」

「晴天なり、感度良好、フィールソーグー」

「味蕾君、北王子君の事よろしく頼むね」

「紫陽花さん、俺っちの事無視しないで欲しいっす」



 どこかピクニックを楽しむような雰囲気の北王子であったが、大鷹と犬神が室内に招かれ姿が見えなくなり、通信が途絶えると一変して真面目な顔で僕に注意を促してくる。


「盗聴防止の電波妨害器を自宅に施すのは普通じゃないから、この依頼は一筋縄ではいかない、大丸も気を引き締めろ」




毒島邸内


玄関扉が閉まるとブツと通信が途絶えたことに内心驚きつつも顔に表情が出さないように大鷹と犬神は警戒レベルを一段上げた。1階の応接室に案内され、暫く待つと専用ポットに入ったハーブのカモミールティーと各種のお菓子が飾られているティースタンドを持ってきた家政婦らしき女性を伴って毒島 菫がやってきた。家政婦がカップにハーブティーを注ぎ込み、礼儀なのか敢えての行動かは不明だが菫が一口啜ると大鷹達にも勧めてきた。


「確認を兼ねてもう一度ご依頼内容を伺えますか?」


「夫の毒島 浩二は食品会社の営業をしており接待などの付き合いから帰宅時間もまちまちなのですが、それは仕事柄仕方が無いと思っておりました。しかし、最近は外泊することも増え、もしかしたら外に女性を囲っているのではと疑っております。行動確認と浮気であれば証拠集めをお願いします。こちらが夫の写真ですのでお持ちください」


「浮気を疑われるキッカケや根拠などお持ちでしょうか?」


「先日久しぶりに帰宅した夫の入浴中に急いで手帳のスケジュールを盗み見しましたが、まさにこれから打ち合わせのための会食が予定されていました。個室のある料亭ではなく、女性に人気の高級レストランなので接待ではなく、デートなのだとピンときました」


「ご主人の書斎や寝室も確認されて頂いても構いませんか?」

「夫はとても几帳面で他人が部屋に入ることを嫌がるので、勝手に物を触ったりしないで下されば構いません。念のためお手伝いの麻子さんについてもらい、寝室に入る際はわたくしが同行いたします」



 書斎に移動した大鷹は瞬間映像記録を発動し、犬神は三本松の依頼で香水瓶から微かに感じ取った人物の匂いと合致したので、次に菫と共に寝室へ向かった。


「ドレッサーを確認したいのですが開けてもよろしいですか?」

「どうぞ」


ネクタイハンガーには水鳥のサギが丁寧に刺繍された色とりどりのネクタイが掛けられている。


「こちらのネクタイはご主人の趣味でしょうか?」

「いえ、会社の制服替わりに支給されるネクタイで、私は鷺よりも鶴の方が好きですね」


 再度、応接間に集まり、依頼料と成功報酬の割合、調査報告は後日になることを菫に了承してもらい大鷹と犬神は毒島邸を後にした。セダンに乗りこちらに合流してきた二人はワンボックスに乗り込んできて、ざっくりと情報共有し大鷹が今後の役割分担を確認する。


「予定では毒島 浩二氏と女性がこの後レストランで会食するので、店内に潜入する私と北王子君は素早く車内で着替えてセダンに乗り込み現地に向かいます。犬神さんと味蕾君は通信可能な範囲のコインパーキングで待機してください。」

「俺っち、大丸のトルティーヤを食べすぎてこれ以上はボミットしちゃうよ」

「先輩、だから言ったじゃないですか!」

「とにかく時間が無いから早速着替える、北王子 美登里君、覗いたら分かっているわね」

「紫陽花さん、ヒドイッス。僕が愛でるのはあくまで静脈ですよ。肉体はついでです」


犬神は、俺は少し毒島家について分析をしたいから、とサンドイッチに齧り付きながらパソコンに猛スピードで入力し始め、僕は料理以外に役立てることが何かないのが歯がゆい思いをしていた。着替えを素早く終えた大鷹は僕の表情から察してくれたのか、用意したおにぎりを手早くつかむと声を掛けてくれる。


「味蕾君、このイクラのおにぎりとっても美味しいわよ。まずは焦らず出来ることにしっかり取り組んで欲しいわ。追々、出来ることが増えていくわよ」




僕は写真集から抜け出したモデルの様に見える大鷹と北王子がセダンに乗り込み目的のレストランに向かうのをワンボックスから見送る。マ〇ロとクロ〇ットか美しいな。ふと疑問が浮かんだので犬神に聞くことにした。


「人気のレストランに飛び込みで入店できるものなのでしょうか?」


「座席数によるけど、あの二人なら大した問題にはならない。むしろ、店側にとっては美男美女を持て成す方が予約客を無断キャンセルするよりもメリットがあると考えるはずだ。現に二人とも予約の心配は全く口に出していなかった。これまでも考える必要が無かった証拠だな。」


「世知辛いですね。僕の実家の食堂では考えられないです」


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