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美味しいご飯は身を助ける 神名萬屋  作者: 毎日が日曜日
日本編
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1話 上京とアルバイト

この物語はフィクションであり作中に登場する人物、団体は全て架空の物で、実際の人物、団体とは一切関係がありません。

僕の名前は味蕾 大丸(みらい だいまる)19歳


去年高校を卒業して以来、家業の薬膳食堂で働いている。ある日、引き出しのアルバムで僕によく似ている、いや、僕と並んでいる女の子と男の人の写真を見つけて母親の味蕾 凛子(みらい りんこ)に問い質した。


「母さん、この写真に僕と一緒に映っているのは誰?僕らは二人家族だったと思うけど?違うの?」

「事情があって別れることになった大丸の双子の妹の夏海(なつみ)と元旦那の橙一二三(だいだい ひふみ)さん。現在の居場所は不明」


幼い頃からあった漠然とした喪失感の原因が分かり、双子の妹は勿論、父親とも会いたいと思ったので次の日には迷わず電車に飛び乗って仙台から東京へ上京した。東京なら人探しの会社がたくさんあると勝手に想像したからである。


一番初めに目についた不動産屋でワンルーム5万のオンボロアパートを契約し、次の日にはアルバイト情報誌で見つけた社食の給仕に応募した。


求人誌では、自営業の便利屋で仲良く楽しい職場です、と誰の笑顔もない肩を組んだ写真が掲載されていたのでもっとこじんまりしていると思ったが、面接の為に予定より少し早く到着すると、見上げるぐらいの高さのあるビルに、神名萬屋(かみなよろずや)、と申し訳程度の大きさでロゴが掲げられている。気を取り直してインターホンを押した。


「面接予定の味蕾 大丸です」


 どうぞ、と女性の案内音声で扉が開閉しそのままエレベーターに乗り2階の事務所兼応接間にやってきたはずだった。目の前にはわずかな数の机と広大な空間には食堂と娯楽の為なのか様々な機器が設置されている。すぐに先ほどの声の主であろうライトブルーのタイトスーツで身を包んだ秘書風の銀髪美女が何故かワインボトルとワイングラスが用意してある応接セットに案内してくれる。


「私は秘書の大鷹(おおたか)と申します。直ぐに社長が参りますので掛けてお待ちください。」


暫くするとロマンスグレーの良く日焼けした、いかにも健康そうな中年男性がやってきた。


「儂が社長だ」

「社長、面接の時くらい、ご自分のお名前を名乗ってください。」

「失敬した。佐藤だ。よし、これからは社長と呼んでくれ。一応、志望動機を聞いときたいな」

「味蕾 大丸19歳です。家業の食堂を手伝っていたので料理には自信があります。個人的な理由は生き別れの妹と父親の存在を最近知り、便利屋なら何か手掛かりを見つけられるかもと思い応募しました」

「父親と妹さんの名前は分かっているのか?」

「橙 一二三と橙 夏海です」




社長はボトルからワイングラスに溢れる程注ぐと豪快にグイグイと飲み干し、直ぐに娯楽スペースで寛いでいた残りの社員らしき男性二人がやってくる。


「俺っち、北王子 美登里(きたおうじ みどり)、24歳、チース」


随分フランクな人のようだ。大柄で茶髪を掻き上げ立ちながらハンバーガーをバニラシェイクで押し込んでいる。


「俺は犬神 剣(いぬがみ つるぎ)、31歳、宜しく」


 こちらの男性は打って変わって沈着冷静を絵でかいたような長身、痩身で少し神経質そうな雰囲気が漂っている。犬神は席に戻ると丁寧にナプキンで包まれたサンドイッチを取り出して食べ始めた。


「私は大鷹 紫陽花(おおたか あじさい)です。ロシア人母と日本人父とのハーフ。社長の自己紹介があったので味蕾君は採用となります。」


えっと、状況が良く呑み込めないが採用ならいいか。


「あなたにお願いしたいのは福利厚生の一環としての社員食堂で食事の準備をお願いします。勿論、便利屋としての業務が優先ですが。正式採用は初依頼の評価後になります。」

「アルバイトですけど正式採用になると違いがありますか?」

「我が神名萬屋は福利厚生には特に力を入れておりますので、社員寮に入居頂けます」


社長は、これから宜しく、と言って僕の肩を叩くと立ち上がり、自分の机に向かい分厚いステーキを食べ始めた。僕の背後で電話の呼び出し音が鳴り大鷹がすかさず受話器をとる。


「神名萬屋です。ご用件をどうぞ。・・・・・承りました。直ぐにお伺います。味蕾君、早速依頼がきたのでお願いします。初回なので付き添いは北王子君お願い」


地下駐車場に止めてある数多の高級車からスポーツタイプのツーシーターに乗り込み、途中ファーストフードのマスに寄りあっという間に現場に到着した。オートロックのインターホンに向かって北王子は丁寧に告げる。


「ご依頼により神名萬屋より参りました北王子と味蕾と申します。」


自動ドアを潜り依頼人の部屋に到着し、再度インターホンを押すと直ぐに小柄なご婦人が、お待ちしておりました、と部屋へ案内してくれた。


「マスセットバーガーとマスシェイクとマスチキンをお持ちしました。」


北王子は自信満々に途中に寄ったドライブスルー産の昼食を取り出すと満面の笑みを浮かべる。ご婦人、一 百合子(にのまえ ゆりこ)は不満を隠すことなく口を尖らせる。


「勿論、アメリカンジョークですよね。北王子先輩!」


実は道中で、依頼内容は昼食の準備をして欲しい、と言うことだったので、ファーストフードでは不安になり、どうしてもと主張してある程度の食材を購入しクーラーボックスに詰め込んで来たのだ。


「早速、用意させていただきます。台所をお借りしますね」


荷物を片手に北王子と一緒に昼食の準備に取り掛かる。メインの献立は筑前煮なので里芋の用意を先輩に頼むことにする。


「先輩、この里芋は、、」

「俺っち、包丁は持てないよ。」

「そうですか、では、依頼人のお相手をお願いします。」

「ムリムリ、あの顔を見たかい?」

「じゃあ、使った調理器具の片付けをお願いします。」

「かしこまりー。」



 手早く料理してご婦人の待つ食卓にお盆を持っていく。


「お待たせいたしました。本日のメインは筑前煮で、ほうれん草のお浸し、浅漬けと卵黄のしょうゆ漬け、あさりの味噌汁とご飯になります。筑前煮は余分にご用意しましたのでお代わりをお召し上がりください。明日にはもっと味が染みて美味しくなります。」


一 百合子は六方むきにした里芋の角がキチンと立っていることを確認して気を良くしたのか、ゆっくりとだが噛みしめるように残さず全てを平らげた。残った筑前煮は明日以降に大事に食べるそうで喜んでもらえて何よりだ。


「お客様、宜しければマッサージを致しますが?」


チャラいのは同僚同士だけのようで、依頼人にはまともな対応をしている北王子は両腕のストレッチを軽くすると黒い手袋を両手にはめて提案する。


「こちらのお兄さんは体が大きくて力が強そうだけど大丈夫かい?」

「お任せください。以前はあん摩マッサージ指圧師をしておりましたのでご安心ください」


暫くすると食後の満腹感もあってか一 百合子は直ぐに寝息を立て始めたので、僕は食器の片付けを済ませ、お茶の準備をして待つことにした。北王子が一通りのマッサージを終え休憩していると、やっと目が覚めたようだ。


「とっても美味しい昼食に気持ちの良いマッサージで、頼んでみて本当に良かったわ。この年になると外食も億劫になるけど自分一人の為の食事の用意も時々嫌になるのよね。」


これはお駄賃よ、と財布からお札を差し出すので、断るには何でもいいから受け取った方が良さそうだ。食卓の隅に置かれているサンプル商品を頂くことにする。


「このアンチエイジングサンプルを頂いてもよろしいでしょうか?」

「こんなもので良ければ。先日駅前で配っているから頂いたけれど私には必要ないわ。」


既定の料金を受け取った北王子は帰社するまでに僕が作った筑前煮がどれほど素晴らしいのか滔々と話し続けた。


スポーツカーは登録済みのようでビルに近づくと自動でシャッターが開き、北王子は華麗に空いているスペースに駐車した。


「社長、大丸はグレイトな出来でした。俺っちもですけど」

「よし、では正式採用とするので今日からうちの社員寮で生活するように!」

「えっ、アパートも契約してしまいましたが」

「先ほど依頼者からお礼を兼ねての次回の予約を頂いた時点で大鷹君が契約解除してくれた。違約金込みでね。今夜はすき焼きだ。希望の和牛はあるかい?」

「では、仙台牛A5をお願いします。締めはうどんでいいですか?」


まずは醤油と砂糖だけで牛肉だけをすき焼き鍋で加熱し、卵を通して頬張る。食堂の一角でひときわ大きなテーブルを5人で囲み皆のお腹が少し落ち着いたみたいなので野菜などを追加してすき焼きに移行する。残ったすき焼きダレを絡めただけの締めのうどんを口にすると社長までも唸りながら声を上げた。


「味蕾君。来てくれて本当に助かった。大鷹君は完璧なのだ。飯以外はな」

「社長、名前で呼びますよ。全く、お箸が止まらないじゃない」

「俺っち、啜っちゃいまーす。ズルズル」

「サンドイッチもいいけどうどんも負けていないよ」



こうして僕、味蕾 大丸は神名萬屋の一員になった。


作品が気に入った、続きが気になるなど星一つでも評価いただけたら嬉しいですし、続けるモチベーションにもつながりますのでよろしくお願いします。

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