月明かりの誓い
瓦礫に押し潰された黒鉄兵たちを見下ろしながら、パウルは胸の奥で静かに何かを噛み締めていた。生き残った。ただそれだけのことなのに、今の自分には十分すぎるほど重い意味を持っていた。
ナナが、そっとパウルの袖を引いた。
「こっちに……休める場所、あるから」
彼女に導かれ、廃教会の奥まった部屋へと入る。石造りの壁はひび割れ、夜風が隙間から吹き込んでいる。だが、子供たちが寄せ集めた古びた毛布と藁のベッドが、そこに確かに「生」を繋ごうとしていた。
パウルはぐしゃりと地べたに座り込み、背中を壁に預けた。
「助かったぜ……ナナ」
初めて口にした少女の名前。ナナはぱちぱちと瞬きし、嬉しそうに微笑んだ。
「パウル、強かったね」
「……強くなんかねえよ」
パウルは虚ろに呟いた。もし、あの天井の支柱に気づかなければ、間違いなく死んでいた。それに、今の戦いで銃弾は残りわずか。──次は、どうなるか分からない。
彼は、スーツの故障した小さなインターフェースを取り出し、かすれた画面を見つめた。
「……サポートも救援も、来ねえ……か」
絶望が喉元までこみ上げた。だが、ふと隣を見ると、ナナが座り込んで、ぼろぼろの地図を広げていた。
「これ……ウィンザスまでの道」
パウルは目を細めて地図を覗き込んだ。荒廃したこの地域を抜け、山を越えれば、中央都市「ウィンザス」がある──そう、そこには「教皇慈恵団」が存在する。
「教団に行けば……きっと、助けてもらえる」
ナナは必死に言った。子供たちを連れて、安全な居場所へ行くために。それが、この小さな少女の願いだった。
パウルは、ゆっくりと拳を握った。
(クソ……まだ、終わりじゃねえ……!)
「ナナ」
「……なに?」
「オレが、連れてってやる」
震える声だった。だが、ナナは目を見開き、そして力強く頷いた。
「うん!」
月明かりが差し込む廃教会で、二人は静かに誓いを立てた。この地獄のような世界で、生き延びるために。そして、未来をつかみ取るために。
パウルは再び立ち上がった。ボロボロの体に鞭打ち、目を血走らせながら、それでも前を向いた。
(ウィンザス──必ず、辿り着く)
それが、自分の新しい「ミッション」だった。