レベル5の反撃
◇黄昏の裏路地◇
瓦礫に隠れたパウルは、少女ナナの手に引かれながら、人気のない路地を必死に走った。
どこかで警報のサイレンがまだ鳴り響いている。心臓が痛いほど脈打ち、肺は燃えるようだった。
ナナ(振り返りながら小声で):「もうすぐ、安全な場所……!」
パウルは黙って頷いた。スーツのサポートも、回復ポーションもない。
生身での「走る」という行為が、これほど辛いものだったとは知らなかった。
(……ちくしょう、レベル5って……こんな無力だったか)
ようやく、崩れかけたレンガ塀の隙間に潜り込む。
ナナが小さな手で扉を開き、パウルを中に押し込んだ。
そこは、廃教会のような場所だった。天井は穴だらけで、月明かりが床に滲んでいる。
パウル(息を整えながら):「ここは……」
ナナ(にっと笑って):「“シェルター”って呼んでる。外よりマシだよ」
少女が灯す小さな魔法の光が、薄暗い空間をぼんやり照らす。
そこには、同じように身を潜める子供たちが数人、怯えた目でこちらを見ていた。
(子供たちだけ……? 大人は……?)
パウルの胸に、嫌な予感が広がった。
◇初めてのバトル◇
しかし、休む間もなく、外から重い足音が近づいてくる。
ナナ(さっと顔を強張らせ):「……追っ手だ」
パウルは、すぐに腰のホルスターに手を伸ばした。
だが、銃弾は残り5発しかない。リロードもできない。
その時──壁が破壊され、大柄な異形の兵士たちが雪崩れ込んできた。
黒鉄のような装甲に、魔力で強化された重武装。
パウルは直感した。
(……あいつら、ただの警備兵じゃねぇ)
ナナ(震えた声で):「“黒鉄“兵だ……!」
異世界特有のテクノロジーと魔法を掛け合わせた軍隊。
正面から撃ち合えば、パウルの今のレベルでは絶対に勝てない。
パウル(拳を固めながら心の声):「……だったら……」
瓦礫を足場に、低く身を滑らせながら接近する。
1発、至近距離で膝関節に撃ち込んだ。
バンッ!!
黒鉄兵の一体がバランスを崩し、膝をつく。
その隙に、パウルは背後に回り込み、背中の装甲の隙間を撃ち抜いた。
ズドン!!
火花が散り、黒鉄兵がのたうつ。
パウル(息を荒げながら):「……重てぇ……でも、動きは鈍い……!」
だが、残りの黒鉄兵たちは容赦なくこちらに銃口を向ける。
ナナが叫んだ。
ナナ:「パウル、避けて!!」
彼女の声に反応し、パウルは本能で横に飛び退った。
直後、着弾と共に床が爆ぜた。
(クソッ、このままじゃ押し切られる……!)
ふと、崩れかけた天井に目が行った。
──使える。
パウルは片方の拳銃を空中に向け、支柱を撃ち抜いた。
パアンッ!!
グラリと傾いた瓦礫の天井が、黒鉄兵たちに雪崩れ落ちる。
鈍い音と共に、敵は瓦礫の下に押し潰された。
静寂が訪れる。
パウル(膝に手をつきながら):「……っ、はぁ……はぁ……」
初めて”生身”で戦い抜いた恐怖と興奮が、体中を駆け巡った。
ナナ(駆け寄りながら):「すごい……!」
パウル(苦笑しながら):「……こんな泥臭い戦い、久しぶりだ」
そして、背後の子供たちの歓声が、わずかに聞こえた。
この小さな勝利が、誰かを救ったのだと、ようやく実感する。
(まだ、終わっちゃいねぇ……)
パウルは、血に濡れた拳銃を静かにホルスターに戻した。