後編 そして異世界へ
──【ベン side:魔法国家アルバート】──
ジリジリと、二つの太陽が肌を焼く。
Player:ベン(意識を取り戻す):「……くそっ、重てぇ……!」
ガバッと起き上がろうとした瞬間、背中に鋭い痛みが走った。
呼吸するだけで肺が軋む。
筋肉という筋肉が、鉛のように重い。
ベン(呻きながら心の声):「……? ……何だ、この感覚」
違和感。
スーツの中なら、多少のダメージもオートリカバリーが働いて痛みを感じることはなかったはず。
それが今、全身がバキバキに痛い。呼吸さえ苦しい。
ベン(青ざめながら):「システムエラーか……?」
必死にステータスウィンドウを開こうとする。
だが、ゲーム特有のクイックコマンドが使えない。
手をかざしてようやく、にじむように小さなウィンドウが現れた。
≪システムメッセージ:転移による影響でステータスが低下しました≫
≪現在レベル:5≫
ベン(動揺しながら):「レベル5……? これ……バグか……?」
よく分からないが、とにかくここは”クリアリングプレイヤーワールド”だと信じたかった。
バグでレベルが下がり、スーツのシステムが使えなくなっただけ――そう考えようとした。
ベン(重すぎる大剣を地面に引きずりながら):「くそ、ログアウトして一回サポートに……」
だが。
≪ログアウトコマンドは現在利用できません≫
ベン(眉をひそめながら):「……まあ、よくあるか」
不具合だ、不具合だ――
そう言い聞かせながら、フラフラと荒野を進む。
だが、数歩歩くだけで気づいた。
喉が、からからに乾いている。
足の裏が、石ころに踏み抜かれて地味に痛い。
そして、何よりも、空気が”生々しい”。
(……こんな、リアルな匂い、あったか……?)
違和感の小さな種が、心の片隅に根を張り始めた。
Player:パウル(瓦礫から這い出す):「イテテ……」
ふらふらと立ち上がり、2丁拳銃を構える。
だが、銃身が、重い。
両腕が震えて、まともに照準が定まらない。
パウル(苦笑しながら):「……チュートリアルみたいだな、これ……」
脳裏にちらつく。
ゲームの最初期、ろくに魔法も弾も使えなかったころの記憶。
だが、それとは明らかに違った。
そして表通りに出てみた。
陽は傾き、赤黒い空が瓦礫とスモッグに染まっていた。
Player:パウル(路地裏を歩きながら):「……くっそ……どこだよここ……」
肌寒い風。
身体のだるさを感じていた。
パウル(眉をひそめながら):「スーツの感覚とは違う……やっぱ変だよな……」
街の通りに出ると、見たことのない”人間たち”が行き交っていた。
獣耳の商人、魔導書を抱えた老爺、義肢の少年兵──
人種も、服装も、技術も、バラバラだった。
(やっぱ、クリアリングとは違う……)
そう確信しかけたその時、背後から怒声が響いた。
???:「止まれ!武器を所持している者を発見した!」
振り向くと、全身を黒い装甲服で固めた警備兵が数人、こちらに向かって駆けてくる。
Player:パウル(即座に構えながら):「マズッ……!!」
咄嗟に、2丁拳銃を抜いた。
パウルは本能的に感じていた。
この世界では、“撃たれる前に撃て”と。
バンッ!! バンッ!!
銃声が、重く世界に響く。
警備兵の一人が脚を撃たれ、悲鳴を上げて倒れる。
だが、その直後――
街全体に、警報が鳴り響いた。
≪警報発令≫
≪違法武器発砲者を発見。周辺地区、封鎖開始≫
パウル(青ざめながら):「やべぇ……!!」
路地を走る。
鋭いサイレンと、追跡ドローンの羽音が後ろから迫る。
パウル(息を切らしながら):「チートも魔法もねぇ、レベル5じゃ……くそったれ!!」
四方八方から警備兵たちが迫る。
逃げ道は少ない。
絶望しかけたその時だった。
???:「こっち!!」
か細い声が聞こえた。
目を向けると、瓦礫の影に、少女がいた。
ボロボロのローブをまとい、肩に大きな荷物を背負った小柄な子供。
目は真剣だった。
???:「早く!捕まるよ!」
パウル(歯を食いしばりながら):「……クソ、賭けるか!!」
少女の指す路地に飛び込んだ。
すぐ背後では、警備兵たちが通り過ぎていく音がする。
少女は手際よく、パウルを瓦礫の下に隠した。
パウル(息を潜めながら):「……誰だ、お前」
少女(小声で):「……“ナナ”。ここで生まれたの。あんた、外の人でしょ?」
パウル(内心で警戒しながら):「……どうして助けた」
少女・ナナは、一瞬だけ哀しそうな顔をした。
ナナ:「……私も、昔、助けてもらったから」
パウル(黙ったまま):「……」
心臓の鼓動が、耳の中で爆発しそうだった。
銃の感触も、呼吸の辛さも、恐怖も、痛いほどリアルだった。
(こんなリアルなゲーム、あるかよ……?)
小さな違和感が、確信に変わりつつあった。
だが、今は考えている暇はない。
まずは生き延びること。
パウル(伏せたまま、ナナに):「……わかった。少しだけ……頼らせてもらう」
ナナ(にっと笑って):「じゃ、付いてきて。ここ、めちゃくちゃヤバいから!」
警報の音が遠ざかるのを待ち、二人は暗い裏路地を走り出した。
行き先も知らぬまま、ただ、逃げる。
パウルの中で、“ゲーム”という言葉が、少しずつ色褪せていった。
──その頃、ベンもまた、別の地で「違和感」に苦しんでいた──