ケンカ後
店内に静けさが戻り、ベンはカウンターに腰掛け直した。
パウルは相変わらず、ゲーム内資料作成ツールでカタカタと忙しそうにキーボードを叩いている。
Player:ベン「ったく……女勇者っていうから、もうちょいロマンあるかと思ったのにな。おっさん2人組とか誰得だよ。」
ベンがぼやくと、後ろのテーブル席から声が飛んできた。
客D「なあ、兄ちゃん!よかったら一杯奢らせてくれよ!ネームドに会えた記念ってことでさ!」
Player:ベン「ははっ、悪いな。でも今はちょっと……」
ベンが断ろうとした瞬間、パウルが目を離さずに言った。
Player:パウル「兄貴、せっかくだから受けとけよ。どうせこのあと”シティクエスト”に参加するんだろ?少しでも交友ポイント稼いでおかないと不利になるぜ?」
Player:ベン「……あー、そうだったな」
ベンは軽く手を挙げ、客たちに礼を言った。
Player:ベン「じゃあ、もらっとくわ!ついでに、この店で一番強い酒持ってきてくれ!」
店主NPCがにこやかに頷き、奥から巨大な樽を抱えてきた。
Player:店主NPC「へい、お待ち!伝説級酒『ドワーフの涙』だ!」
店内がどよめく。
それはゲーム内でも**飲めば即座にバフ効果+大ダメージ無効(30秒間)**という超レアアイテム扱いの酒だった。
Player:パウル「……兄貴、やりすぎんなよ。飲みすぎたらデバフで泥酔状態になるからな。」
Player:ベン「知ってるって」
と笑いながら、ベンはドワーフの涙を一気にあおった。
――次の瞬間。
≪システムメッセージ:Player:ベンが「ドワーフの涙」を飲み干しました。特別イベント『幻影の王の来訪』が発生します≫
店内の空気が急に凍りついた。
Player:パウル「おい……兄貴、まさか……」
Player:ベン「……知らねぇぞ、こんな仕様!!!」
目の前に、深紅のマントを纏った巨大な影が、黒い煙と共に出現した。
???「我が名は幻影の王。貴様、我が涙を飲み干したな……!」
客A「ま、マジでヤバいやつ出たぁぁぁ!!」
客B「うわ、逃げろ逃げろ!!」
客C「こんなの、都市崩壊イベントレベルだろ!!」
プレイヤーたちが次々とログアウトし、NPCたちもどこかへ逃げ出す。
Player:ベン「……パウル、これ、もしかして」
Player:パウル「うん。たぶん、サーバー全体ボスイベント、強制発生だ」
Player:ベン「マジかよ~~~!!」
ベンは剣を肩に担ぎながら、にやりと笑った。
Player:ベン「……ま、いっか。ちょうど退屈してたとこだ」
次回、
「ベン&パウルvs幻影の王 ~サケマル食堂防衛戦~」
開幕――!!