神よりもサンタ
子供だったら誰でも神様や仏様以上に崇拝する絶対的存在。
――サンタクロース!
年が経つにつれ、少しずつその存在が怪しいと感じ始めていた。なぜ、一夜のうちに世界中の家々を回れるのか。家に煙突がないのに、どこからどうやって入って来たのか。不法侵入ではないのか。
本当は……ママがサンタじゃないのか?
だが僕はこの歳になり初めて、サンタが本当にいると確信した――。クリスマスの朝、目覚めると枕元にソレが置いてあったのだ。
灰色27センチの靴下に入っていた。入っていたというよりは、無理やり詰め込んであった。木の棒に靴下が被せてあると言った方がいいかもしれない。
なんの面白みもないただの木の杖に見えるが、これは正真正銘最強の杖、「何でも出せる最強の杖」なのだ――。なぜならば、昨日の夜、クリスマスツリーにこっそりとお願いを短冊に書いて吊るしておいたのだ。「サンタさん。何でも出せる最強の杖をください」と。
昨日の夜から今日の朝までにママが棍棒のような木の杖をこっそり準備できるはずがない。まさか、「何でも出せる最強の杖」なんかをこっそり準備できるはずがない――。
……むかし、クリスマスツリーに、「パパ」と短冊に書いて吊るしたのが、ビッリビリに破られてゴミ箱に捨てられていた……。
トラウマの思い出だ。あれはママの仕業だ――。その証拠に、その年プレゼントはなかった。
細くもなく太くもない。決していやらしい形でもない木の杖。色は黄土色。ニスが塗ってあるようなツヤツヤ感。でも、いやらしくない。ベトベトしてもいない。
匂いを嗅いでみる。木の持つ独特の甘い匂いが心を癒してくれる。学校の机も同じような匂いがしたかもしれない。杉の臭いとはぜんぜん違う。酸っぱ臭くもない。
想像していた通りの物が枕元に置いてあったからといって……本当に、「何でも出せる最強の杖」の効果なんか……ある訳がないよな。半信半疑で杖を高く掲げて見ると、狭い部屋の低い天井にぶつかりそうになる。
自分で自分にある訳がないと暗示をかけつつ、どこか期待し過ぎている高揚感が……たまらない。まるで超高額のガチャガチャを回すか回さないかのような高揚感が……たまらない! 出るのか、出ないのか、いや出るのか……。あー出る出る出る……ってやつだ。アドレナリンが惜しまずにドックンドックン出ている――。
口の中にヨダレもタップリ溜まっていくのが分かる。ジュルリ。
「じゃあとりあえず……一億円出ろ」
杖を掲げてそう叫ぶと、ポンッとコミカルな音とともに見た事のないくらい札束がバサバサと床に零れ落ちてくる。
バサバサ……バサバサバサバサ……。
――しまった! 僕としたことが――!
……何でも欲しい物が出せる杖ならば……わざわざお金なんかを出す必要はなかったのに……。体の隅々まで染み付いた庶民の血が抜けきれない――!
手に入れたい物をいつでも手に入れられるのなら……金など持つ必要がない。これはただの紙切れだ。
「ハーッハッハッハ!」
でも、大金を見ると笑いが止まらないのも……ザ・庶民! そうさ、僕は庶民の中の庶民なのさ!
このお金でママと二人っきりの貧乏生活ともおさらばさ。古家の賃貸暮らしともおさらばできる!
ニート引きこもり生活とも綺麗さっぱりおさらばできる!
パパだって欲しい数だけ出せる――! 兄弟姉妹だって、欲しい数だけ出せる――!
「ケタケタケタケター!」
笑いが止まらない~。初めてケタケタ笑った人って……僕なのかもしれない!
ありがとう、サンタクロースよ!
この年になるまであなたを信じ続けていてよかった。――本当によかった。
読んでいただきありがとうございます!
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