第4話「帯魔術」
聖魔法を受けた部分が完全復活するまで2週間ほどかかっただろうか、いかにアンデットが聖魔法に弱いかを思い知った。
前世のゲームの知識をもとに聖魔法をレジストすることを考えたこともあったが、そう甘くないのが現実、レジストは不可能だと結論づけた。
しかし街で得た魔法入門書と魔物図鑑は役に立ちそうだ。傷が治るまでの間、シャータと一緒に入門書の初級闇魔法についての記述を読み漁っていたおかげで…
初級闇魔法
魔力弾・・・魔力を圧縮し、放出し命中させダメージ(小)及び爆発ダメージ(微小)を与える。
黒霧・・・魔力を拡散させ黒霧を生じさせる。目視および魔力による気配察知を無効化できる。
この2つを習得していた。というより魔力弾は元々適性の関係でそれらしいものは撃てたし、黒霧は妨害魔法でイメージもしやすいから直ぐに習得できた。
この世界での魔法の習得には魔力量もそうだが、イメージの具現化も重要なようだ。
傷が完全に癒えたので、訓練も再開し、加えて闇魔法の修練を始めた。ちなみに闇魔法以外は属性適性が無かったため中級以上の魔法が習得出来なかった。
とはいえ水魔法のヒールや実生活で使いやすい火魔法や風魔法は初級魔法でも十分だったのだ。
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同じ頃、レオナルド辺境伯はと言うと。
息子を失った悲しみからは抜け出すことが出来たが、忘れることは決してなかった。もしかしたら…という淡い期待も抱いているが、遺品も回収されているのでその可能性はゼロだったのだ。
とはいえここ1年で駆け出し冒険者の神隠しが増えているという問題もある。息子を失った時期と重なることもあり、レオナルド辺境伯は大きな規模での調査に踏み込もうとしていた。
「レオナルド様、冒険者ギルドへの依頼要項をお持ちしましたので、確認とサインをお願いします」
「ああ、わかった。直ぐに確認する」
内容としては、リーデニヒ付近の魔物の森に置ける魔物の実態についての調査、並びに怪しい物がいた場合は報告するようにということであった。対象は中堅冒険者以上とすることにした。
ちなみにこの世界の冒険者のランクは3ランクに別れていて、ベテラン冒険者の「金剛」、中堅冒険者の「紅玉」、駆け出し冒険者の「翠玉」となっており、それぞれの冒険者のステータスを示すギルドカードはそれぞれのランクを表す宝石の色になっている。
特にベテラン冒険者の中でも実力の通るものには2つ名が与えられる。
今回の場合紅玉以上の冒険者がレオナルド辺境伯の依頼に参加できる。早速募集をしたところ、2パーティーが合同で調査に乗り出すこととなった。
1つ目のパーティーは紅玉の「シックスナイツ」だ。リーデニヒを拠点とする6人の冒険者パーティーで、なんでもリーダーの従兄弟が神隠し事件に遭ったということで参加を決めた。
2つ目のパーティー、と言うよりは個人での参加だが、この人は金剛ランクだ。それも2つ名持ち。その名も「双竜」のバーナー。シャータの師匠だ。
シャータが孤児院を出たと同時に東の方へと赴いたが、シャータとカーティスの訃報とその直後から起きている神隠し事件に興味をもって、1年かけてリーデニヒに戻ってきたのだ。
「双竜」の2つ名はその名の通り双剣流の使い手の冒険者としてアリタニア王国では知らないものは居ないくらいのパワーを持っていた。
「シックスナイツ」のメンバーの面々はバーナーに会えたことに歓喜しており、サインを求めている。
「バーナーさんに会えるなんて、もう感激ですよ!」
「まあまあ、おれも神隠し事件には興味があったから参加したんだし、早いとこ調査に行こうぜ」
そうして7人は魔の森に入って行ったのだった。
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脅威が近づいているとはいざ知らず、シャータとカーティスはいつもの様に訓練に励んでいた。
「アンデットの体だったらこの重さの剣でも問題なく振れるね」
「そうですね、坊ちゃん。本来なら12歳くらいから教えようと思ってたのですが、いまの実力なら双剣流の帯魔術を使いこなせるかもしれないですね」
「え、帯魔術って何?」
「帯魔術とは剣に魔力を纏わせることで物理攻撃に加えて魔法攻撃も加えることが出来るようになる術です。例えば闇魔法の『黒霧』を剣に纏わせることによって物理攻撃だけですが、剣筋を見えないようにすることも出来ます」
帯魔術は上級魔法も対応でき、シャータは初級魔法しか使えないので実演はしてくれなかったが、シャータの師匠であるバーナーさんは水上級魔法の「雷雨」を纏わせることが出来たらしい。
その名の通り当たれば電気によるダメージに加えて、水しぶきによる斬撃ダメージが与えられるのだ。
「まずは練習からです、黒霧から練習しましょう。とりあえず黒霧を発動…っ!!坊、隠れて、忍び足発動!」
「シャータ…?…っっ!!」
シャータの視線の先を見ると、7人の人間が歩いていた。練習に夢中になっていて気づくのに遅れてしまった。しかしシャータを見ていると様子がおかしい。どこかソワソワして落ち着かない雰囲気を出している。
「(シャータ?どうしたの、様子がおかしいよ)」
「(いや、坊ちゃん。なんでもありません)」
「(絶対何か隠しているだろう?言ってくれよ)」
「(実は…、あの中に私の師匠がいます)」
こんな形でシャータとバーナーは再会を果たすのだった。