第3話「久しぶりの人里」
私の名前はシャータ。今は色々あってゴーストとしてカーティス坊ちゃんと暮らしていますが、元は双剣流の剣士でした。
私は貴族の娘として生まれ、比較的裕福な生活を送っていたのですが、3歳の時に、両親が他家との政争に巻き込まれ、私を愛娘としてかわいがっていたお父様は私を守るために孤児院へ送ったのです。
その政争に敗れた両親は逃亡し、それ以降連絡が取れなくなりました。こうなることは覚悟していたのですが、幼かった私は受け入れるのに時間がかかりました。
そこに現れたのは師匠であり、実の親のように接してくれたバーナー師匠でした。彼は冒険者をする傍ら孤児院へよく顔を出しては、冒険の話を聞かせてくれました。
私は師匠に憧れ、剣を持ちました。私は魔法の才能は無かったのですが、剣の才能はあり、師匠の流派である双剣流を身につけました。
そして15歳となり、成人し、孤児院を出ることになった私に、師匠はレオナルド領リーデニヒで剣を教える仕事を貰ってきてくれました。レオナルド辺境伯様は師匠の親友ということだったので、快く私を受け入れてくれました。
「バーナーの愛弟子と聞いているので期待しているぞ」
私はレオナルド様に、長男であるカーティス坊ちゃんの剣の師匠を任されました。
このカーティス坊ちゃんというのが、何というかとても不思議な方なのです。勇者の卵という肩書きもありますが、とても大人びていて、とても幼児とは思えないのです。
剣技を教えていても吸収力が良く、疑問に思ったことは素直に質問してくるので、戸惑った時期もありました。
しかし坊ちゃんが5歳になるころには、その性格にも慣れて、楽しく教えることが出来ていました。
でも…坊ちゃんの調子に乗る癖によって酷い目にあって、最初は憎んでしまいました。この若さで命を失ってしまうなんて…。ここで坊ちゃんに啖呵を切っても大人気ないだけですので、我慢してこの状態でどう生きるかを模索して、1年が経ちました。
坊ちゃんは魔法に興味があるらしく、ずっと入門書を手に入れたい、街に行きたいと我儘を言っていました。そのために気配遮断能力を高めることまでして…やはり変わったお方です。
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「さて、行ってくるよ、シャータ」
「周りに気をつけて、気づかれたら身体強化を使って全力で逃げてください。聖魔法を喰らえば一溜りもありません」
「十分注意しておく」
今日は待ちに待った遠足、ではなく近くの村に魔法入門書を買いに行く日だ。お金は申し訳ないが亡くなった冒険者のものを頂いた。それと元々持っていた双剣は成長とアンデット化のおかげで使い物にならなくなったので、武器も買いに行く。
拠点にしている森からは歩いて2時間の所にある村に行くのだが、街道は冒険者が多いので通れず、森を迂回するため倍近くかかってしまう。途中襲ってくる魔物には目もくれず、走り続ける。
4時間ほど走っただろうか、ようやく見えてきた。久しぶりの人里、ルーラ村である。
見た所、護衛の騎士はおらず、簡易的な魔物感知の魔道具があるくらいだ。忍び足EXを使ったら感知はされないだろう。
そうして村には苦労せずに入ることが出来た。
周りを田んぼに囲まれたルーラ村は人口150人程度の小さな村だ。街の中心部には鍛冶屋や本屋、八百屋まであり、生活に必要な物はそろえることが出来るようだ。
まずは本屋に立ち寄り、魔法入門書を探す。すると以外にも少し奥にあり、手に取り、店主のおじさんの所に持っていく。
「おじさん、これください」
「おう、坊やいたのかい、いいぞ、これは銅貨10枚だ」
おれは銅貨10枚を手渡し、本を受け取った。ちなみにこの世界の金銭は石貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨がありそれぞれ日本円に換算すると10円、100円、1万円、100万円、1億円くらいっぽい。貨幣は大陸毎に違うようだが、この大陸ではアリタニア王国貨幣が使われており、それぞれに魔法がかけられており、偽造などは出来ない。
次は鍛冶屋だ。さすがに小さな村の鍛冶屋なので、いい品揃えとは言えないが、今の俺には十分だ。最も安い鉄の双剣を買った。銀貨20枚は安いのか高いのか分からないが、残りの金は銀貨1枚と石貨が数枚だ。
いるものは揃ったのだが、他にもゴーストや魔物の情報を知りたかったので、本屋に戻り、おじさんに聞いてみる。
「おじさん、魔物について書いてある本ってない?」
「おお、坊やか、魔物図鑑かい?それなら奥の方に1冊あるよ、とってきてやろうか」
そう言っておじさんは奥の方に図鑑を取りに行ってくれた。優しいおじさんで良かった。
「坊やこれかい?これなら魔物について詳しく書いてあるぞ」
「うんおじさんありがとう。ちょっと見せてもらってもいいかな?」
「ああ、構わないよ」
図鑑を開いてみると、ランク別に魔物についての情報が詳しく書いてある。ちなみにゴーストナイトの欄にはこれまで確認されてる個体能力が書いてあった。そこにある中では…
憑依・・・生身の人間に憑依することで、能力は下がるがゴーストとして認知されなくなる
浮遊・・・魔力を使わずに浮遊することが出来る
呪縛・・・多量の魔力を要するが、対象に死の呪いをかけることが出来る。解呪には上級以上の解呪魔法が必要
透明化・・・物理攻撃が不可能となるが、気配遮断と併用すると、目視による認知が出来なくなる
など、俺も知らなかった能力があった。訓練方法、はさすがに書いてなかったが、知識として持っておいてもいいだろう。
またゴーストナイトの進化の条件としては、100人分の人間の魂を集めることすなわち100人殺すことらしいが、それはルールに反するので、ルールを守る限りは進化は出来ないようだ。
「おじさん、ありがとう。買ってもいいかな?」
「これは3年前のやつだぞ、買うなら最新版にしとけ、まけといてやるから」
おじさんの言葉に甘えて銅貨50枚で図鑑を買った。持ってきたリュックサックに入れて背負うと重さで転びそうになった。さすがに買いすぎたか。
村を出ようと出口に向かおうとして、一応周りを確認しておこうと、後ろに振り返った。すると冒険者のパーティーだろうか、こちらを向いて話し込んでいる。
まずい、バレたかと思って走り出した瞬間、脇腹を抉るような痛みを感じた。
「くはぁっっ!」
すぐさま身体強化を掛けてダッシュで逃げる。振り返ると魔法使いだろうか、初級の聖魔法であるホーリーボールを打ち出していた。身体強化のおかげで間一髪避けることが出来たが、さっき脇腹にくらったホーリーボールは7割くらい体力を削ったことを考えるとかすることも許されないだろう。
「あいつはゴーストだ、みんな魔道具の呪文を唱えろ!」
後ろで魔法使いの叫び声が聞こえる。さすがに聖魔法の魔道具を使われたら終わりだ。全力で何とか村の出口まで来て森に隠れると、さすがに追って来なかったようだ。
「いや、助かった。アイツらがもっと確実に倒そうとしていたら死んでいたな」
そのまま身体強化の状態で森を駆け抜けて、いつもの拠点に着いた頃には心身ともにボロボロになっていた。
「坊!どうしたのですか、見つかってしまいましたか
?」
「ああ、冒険者のパーティーに見つかってしまった。忍び足EXでも認識出来るほどの気配察知能力を持ったやつがいたのだと思う」
そうしておれは洞穴のベットに倒れて、それから数日寝込んでしまうのだった。