プロローグ
1度は誰もが感じたことがあるだろう。「生まれ変わりたい」と。人生やり直したいだの、別世界に転生して無双したいだの。俺は特にその気持ちが強かった。
別に今の自分のステータスに嫌気がさしているわけではないが、幼い頃から勇者やヒーローといったものに憧れており、社会人になった今でも特撮や勇者ものの創作物に浸っては妄想する、というなかなかに男を満喫していたのだ。
ただニートしているわけではない。ある程度勉強も出来たしそこそこいい大学を出て、高校の教師をしている。我ながら若手としてはそこそこ人気のある、頑張り屋な教師だと思っているのだ。
その日は成績締切間近の金曜日で、担当しているクラスの成績をつけ終わり、帰路に着く所だった。好きなアニソンを口ずさみながら安全運転。前の車を右車線から加速して追い抜く。
するとその車は後方からやけに詰めてきた。瞬時にこれアカンやつやと思い、スマホを取り出して置き、路肩に停車した。よりによって煽り運転に自分が遭うとは。まあ止まって無視しとけばどっか行くやろ、と考えてたが一向に去る気配もなく、後方に停車したままだ。結局また走り出したら追いかけ回されるハメに。
するといきなり横スレスレを通過すると思われた問題の車だがそのままガードレールとサンドイッチするように詰めてきたのだ。寸止めするわけでもなくそのままガードレールとぶつかり、そこで満足したのか去っていった。
ナンバーをメモしておこうとした瞬間とてつもない衝撃を後ろから受けて頭を強打した。気を抜いてシートベルトを外していたのが良くなかったのだろう。俺、坂谷龍一は呆気なく人生を終えてしまったのだった。
目を開けるとそこは病院なのか?見知らぬ天井だが。やけに身体が動きにくいが、多分事故の影響だろう。だがやけに綺麗な病院だな、まんま中世貴族の部屋みたいな感じだ。
ん?待ってくれこれベビーベットじゃないか?気づかなかったが柵もあるし周りの物の大きさを考えるとどうしてもベビーベットにしか見えない。ということは俺はベビーベットに寝かされてるのか? ということは…転生でもしたのか?
そこでおれはようやく納得がいった。あ、そういうことですか俺の妄想癖が死に際に来ても発揮されてるのか、それならしばらく妄想に浸っておこうではないか。いやしかしリアルな妄想だな。おしめにあれを垂れ流す感覚が妙にリアルだ。とりあえず赤ちゃんらしく大泣きして訴えかけよう。
すると40歳くらいのメイド服を着たおばさんが来てブツを変えてくれた。なんだか新鮮だな…と思いつつ眠りに落ちてしまった。
そうしておれは5歳になっていた。一瞬で時が過ぎたわけではなく、普通に5年間を過ごしていた。ここまで来ると俺の妄想って片付けることはできない。
恐らくおれは転生したのだろう。この世界のことは大体理解出来た。まず俺の名前はカーティス・フォン・レオナルド。俺の住むアリタニア王国の南部を統括するレオナルド辺境伯の長男だ。魔法も存在し、いわゆるRPGやゲームの中の世界とあまり違いはなかった。
俺だが前世の望み通りと言うのか、まさに勇者の卵といった能力だった。人間は本来スキルを持たないが1万人に1人、スキルを持つ勇者の卵と言われる人間が存在し、その中でも鍛錬された強者を勇者と呼ぶらしい。おれも勇者になるべく、努力は惜しまない。ちなみに能力は5歳でこんな感じ
カーティス・フォン・レオナルド(5歳)
種族・ヒト
属性・光
攻撃力(筋力) 78 (成人一般男性 100)
体力(持久力) 67 (100)
俊敏性 89 (100)
魔力 190 (100)
スキル:模倣・・・相手の技を見ただけである程度再現出来る(攻撃レベルは2段階降下)
身体強化・・・一時的に全ステータス2倍。魔力の消費量に応じて効果時間持続。一定時間経つと効果が切れ、消費魔力に応じてステータス低下
と言ったように、まあ自分でもなかなかチートな5歳だと思う。ココ最近は訓練の後にも街の外の森に剣の師匠であるシャータについてきてもらって簡単な狩りをしている。
模倣というスキルのおかげで楽に獲物が狩れるようになっていたので、調子に乗っていた。森の奥にまで行こうとしてシャータに止められる。
「カーティス坊ちゃん、それ以上は危険です、もう少し街に近い方で狩りをしましょう」
「大丈夫だよシャータ、動物くらい大したことないって」
そう言って森の奥に向かって走り出した。シャータが追いかけてくるが気にせず狩りをしようと考えてたが、それは目の前に現れた奴に阻まれてしまった。
「坊!逃げてください!そいつは動物じゃありませんよ!!」
シャータに言われるまま逃げようとするがそうはいかなかった。見た感じゴーストのような魔物だったと思う。退路を塞いできて、持っている鎌を振りかぶって…切られることは無かったがシャータが必死に受け止めている。
「坊!首にかけてる十字架に『我らに神の加護あらんことを 』と唱えて、それは聖魔法を発動できる魔道具だから」
言われるまま唱えようとしたが背中に激痛が走る。そのまま前に倒れ込んでしまう。
「っ!なんでこんな所にアンデットの上位種が2体もいるの??」
懸命に戦ったシャータだったが、2体のゴースト相手には聖魔法を発動する隙すら与えられず、最後は力尽きてしまった。
こうしてカーティスとしての人生は終わりを迎えたのだった。のだがやけに死んだにしてはなかなか意識を失わないな、と思っていると自分の体が幽霊になっているのだ。もちろんアンデットに殺されたらアンデットになるのはお約束、シャータも同じ状態にあった。
「シャータさん、大丈夫?」
「坊、どうやら私たちはアンデットになったようですね、もう過ぎたことなのでしょうがないですが、あれほど危険だと教えてきた森の奥になぜ行ったのです?行かなければこのようなことにはなりませんでしたよ」
何も言えなかった。俺のせいでシャータの命まで奪ってしまったのだ。しばらくは落ち込んでいたが、もう二度と調子に乗らないことを誓い、新たな生活を歩むことにした。