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クラリオンの息吹  作者: 蒼原悠
終楽章 音楽の冗談は別れの前に
227/231

【おまけ編】『クラリオンの息吹』裏話あれこれ

おまけ編の第6弾は『クラリオンの息吹』裏話あれこれです。

本作の制作秘話や裏話、作中に山のように仕込まれた小ネタの解説など、『クラリオンの息吹』をお楽しみいただく上では絶対に欠かせない豆知識を取り揃えました! 長い内容になっていますが、最後までじっくり目を通してみてくださると嬉しいです。



以下、目次です!


① 着想の経緯

② 名前の由来(キャラ・用語)

③ 元ネタの有無

④ ClariSとの関係

⑤ モーツァルトとの関係

⑥ タイトルの意味

⑦ キャラクター作り

⑧ 別作品との関係・スターシステム

⑨ その他の裏話・小ネタ



 




■1 着想の経緯



 本編単独での文字数80万、続編やおまけ編も含むと110万文字を越えてしまった、作者史上最大のボリュームを誇る本作『クラリオンの息吹』。構想開始から連載開始までに費やした期間は3年半に及び、執筆期間も全作品中最長の21か月に及びました。登場人物数91人、続編を含む総話数201話は、いずれもかつて作者の経験したことのないほどの規模です。手探りの多い執筆だったことを今でも思い出します。

 そのような長編となった本作は、どのような経緯で着想に至ったのか?

 少しばかり字数を割き、その点について書き残しておこうと思います。


 もともと作者(蒼原悠)は、音楽を着想の源にするタイプの小説家でした。このスタンスは活動初期の頃、もっと言えばなろうで活動する以前の2次作家だった頃から変わっていません。たとえば2013年冬に公開した短編集『テガミ ──The short tales of LETTERs──』を見返すと、各話ごとに着想の源になった曲がきちんとあって、それぞれの曲の紡ぐ世界観をきちんと再現する形でストーリーが展開されてゆきます。

 この『テガミ(短編集)』の冒頭一話目では、彼方に住む幼馴染みの男の子に想いを届けるべく、女の子が手紙をしたためて投函する姿を描きました。このとき着想の源になったのは、ボーカルユニットClariSの2012年の楽曲〈zutto〉です。

 ClariSという歌手をご存知でしょうか。2011年のアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』主題歌を歌ったことで一躍有名になった、女性二人組のシンガーソングライターです。この歌手に蒼原悠がハマったのは、ちょうど『テガミ』を執筆した2013年のことでした。アニソンの王道をゆく勇気と希望にあふれた歌を放つ一方で、年齢相応の幼さと純朴さに満ちた青春も華やかに歌い上げる。そんなところに惹かれたのです(のちに惹かれすぎてファンクラブ会員になりました)。

 そんなわけで、なろうでの活動開始から半年余りが経ち、順調な執筆経験を積み上げる頃には、作者は漠然と「ClariSそのものを着想源にした作品を書きたい」と考えるようになりました。2014年の半ば頃のことだったように思います。()()()スなのだから登場人物にはクラリネットでも吹かせようかな、仮題は『クラリス!』とでもしておこうかな、などと妄想していたのが懐かしいです。ちなみに、この『クラリス!』というタイトルには、「()()()ネット奏者の複数形」というかなり無理のある意味が込められていたのですが……余談はさておき。

 そんな作者の妄想は、ある一枚のCDのリリースを契機にして、急速に具現化を辿り始めました。

 2015年、ClariSはベストアルバム『ClariS 〜SINGLE BEST 1st〜』を発売します。詳細はWikipedia等の外部記事に譲りますが、この頃ClariSはメンバー交代等の出来事もあり、大きな活動の転機を迎えていました。新メンバーを迎え入れ、心機一転とばかりに撃ち放ったベストアルバムには、初心を忘れないとの意思を込めるかのように、メジャーデビュー前に発表された楽曲が再録されていたのです。

 その一曲が〈DROP〉。春を迎えて新生活を送る子が、忙しなく過ぎる日々の中で心の支えになる憧れの存在を見出し、想いを伝えたいと叫ぶ──そんな歌です。ニコニコ動画発の歌い手として登場したClariSが初めて歌ったオリジナル曲でもある〈DROP〉には、夢を叶えて歌手の世界に飛び出し、華やかな時代の幕開けを宣言する心意気が透けているようにも聴こえます。

『クラリオンの息吹』本編をすべてごらんになった方であれば察せられるのではないでしょうか。この〈DROP〉こそが、本作の着想源です。引っ越しの片づけの済んでいない高松家の居間に多くの段ボールが放置されている光景など、〈DROP〉から着想した片鱗は現在でも本編中に見ることができます。

 〈DROP〉の曲内容をもとに作者が基本構想を固めたのが、2015年の12月。当時の作者は大学受験生で、仮題は『クラリオン』でした。その後、詳細なストーリーを決める過程でタイトルが『クラリオンの息吹』に換わり、2016年5月には実際に執筆にも手を付けてみています。この時点では主人公の高松里緒が「小学校でいじめを受けた中学一年生」になっているなど、完成版の設定とは大きく異なっていました。設定に迷走していた時期が長かったのです。現在の設定が固まったのは2017年11月のことで、これ以降、作者は本格的に『クラリオンの息吹』執筆へ邁進してゆきました。

 執筆期間が長く、かつ本編の分量も膨大であるため、本作の着想源は厳密には〈DROP〉のみではありません。他にも十曲ほど挙げることができます。また、作者自身や知り合いの経験、実際にあった事件や実在の歴史など、本作には多様な要素を散りばめたつもりです。それらを体系立てて説明することはとても難しいので、この一点だけでも念頭に置いていただければ嬉しいなと思います。

 ClariSがいなければ、本作は生まれなかったのです。




■2 名前の由来(キャラ・用語)



『クラリオンの息吹』には、(名前の設定があるだけでも)91人の登場人物、(架空のものだけでも)98の用語が登場します。もちろんこれはいずれも作者史上最多で、特に登場人物の命名法則を維持するのには苦労させられました。

 以下、それぞれの命名について語ってみようと思います。



① 登場人物(苗字)


 本作の登場人物の苗字は、すべて地名から採っています。基本的には共通の地名選びルールがあって、例外は高松(里緒)・西元(紅良)・青柳(花音)の3つだけです。例外から紹介するだなんて邪道ですが、まずはこの例外から紹介してみたいと思います。


「高松」は、主人公の里緒が暮らす東京都立川市の地名です。そして同時に、かつて里緒の暮らしていた東京都豊島区、および宮城県仙台市青葉区に実在する地名でもあります。さらには高松大祐の出身地・岡山県岡山市北区の地名でもあります。豊臣秀吉の水攻めで有名な備中()()城などに、この地名が残っていますね。松は松竹梅の中でも上等とされますし、さらにそこへ「高嶺の花」のような使われ方をする「高」の字が加わった「高松」の苗字には、飛びぬけたクラリネットの腕前を持つ天才少女という里緒の設定に沿う誇り高げなニュアンスを込めたつもりです。

 そんな里緒ですが、黒々とした地味な私服を好んでいた上、性格も暗くて鬱々としていたために、作中では中学のクラスメートから「黒松」と呼ばれ嘲笑されていました。これはもちろん「黒い高松」という意味の蔑称ですが、実はこの「黒松」は、「高松」と同じく宮城県仙台市青葉区に実在する地名でもあります。市営地下鉄の駅名にも用いられているので、もしかすると「高松」より知名度は高いかもしれません。


「西元」は、メインヒロイン・紅良のかつて暮らしていた東京都国分寺市の地名です。厳密には「西()()」で、隣に「東()()」もある(つまり本来の地名は「元町」である)ので、「西元」だけを抜き出しても地名としては成立しなかったりするのですが、それはさておき。

 実は構想初期段階の頃、本作のメインヒロインは里緒と紅良だけでした(しかも紅良の表記は「紅麗」でした)。当時はキャラの苗字を立川の地名から採ることにしていて、紅良の苗字は「西砂」だったのです(さらに初期の段階では「泉」でした)。命名のルールは変更になりましたが、「西元」の苗字は当時のルーツを今も背負っています。


「青柳」は、メインヒロイン・花音の暮らす東京都国立市の地名です。出席番号1番になるように選んだ苗字ではありますが、この苗字そのものに深い意味があるわけではありません。

 ところで花音は二つの苗字を持っています。花音は11歳で青柳家に迎えられた養子であり、出生当時の苗字は「合川」でした。この「合川」、かつて秋田県に存在した北秋田郡合川町から採った苗字です。後述する地名選びルールに則って選んだものでもあるのですが、実はこの合川町、花音のいる国立市と友好都市の関係にありました。もちろん合併前の話で、現在は合併で誕生した北秋田市が国立市と友好交流都市協定を結んでいます。

 二つの命名ルールが奇跡的に合致しているのは、作中でも「合川」ただ一つです。ただし養子縁組によって花音の苗字は「青柳」に変わったので、この苗字を使う人は作中から消えてしまったのですが……。


 上記3つの苗字が、苗字選びの例外です。

 残る数十の苗字については、原則として全国各地の市区町村名から採られています。特に選出数が多いのは、愛知県(岩倉・岡崎・瀬戸・西尾・守山)、茨城県(牛久・取手・水戸・結城)、大阪府(茨木・堺・大東・富田林・西成)、埼玉県(入間・上福岡・北本・行田・越谷・幸手・戸田・本庄)、千葉県(市原・館山・流山・成田・富津・松戸)、福岡県(飯塚・春日・小倉・城島・行橋)、北海道(恵庭・白石・滝川・芽室)あたりでしょうか。作中に地名として登場する可能性があるため東京の地名は選んでいないほか、県内の地名をすでに他作品のキャラクターの苗字に使ってしまっているため、神奈川県内の地名はほとんど選ばれていません(例外は「津久井」だけです)。

 実はこれ、「とある事件の起きた市区町村」という条件で選んでいるのですが……。説明するのが憚られる条件でもあるので、関心を持った方がいらっしゃれば何の条件か考えてみてくださるとありがたいです。分かる人には「大津」だけでも分かりますし、都市部に地名が集中している理由にも説明がつくかと思います。ちなみに現在の設定に変更される前は、仙台市の地名から苗字を選ぶ方針でした。

 なお、白石舞香の苗字は北海道札幌市白石(しろいし)区の地名から採っています。つまり読み方は「しろいし」であって「しらいし」ではありません。「しらいし」と読むと某国民的アイドルの名前そっくりになることに命名後しばらくしてから気づきました。断じて違いますのでよろしくお願いします。



② 登場人物(下の名前)


 これも例外は里緒・紅良・花音の3人だけで、残りの88人は原則となるルールに基づき命名されています。


 本作の構想にボーカルユニットのClariSが多大な影響を与えていることは、すでに前章でお話ししました。このClariS、発足当時のメンバーは「クララ」と「アリス」という二人の女の子で、現在はアリスが脱退し「カレン」がメンバー入りしています。

 もうお分かりかと思いますが、この3名が「紅良」「里緒」「花音」の名前の由来です。

「ClariS」という名前にはラテン語や著名アニメ映画のヒロインなど複数の命名理由があるそうですが、基本的には「クララ」と「アリス」を掛け合わせた名前として説明されます。これは本作においても同様で、「紅良」「里緒」「花音」の名前を掛け合わせると、本作のタイトルに含まれる単語「クラリオン」が出現します。クラリオンとはいったい何ぞや……? という方は本編184話をご覧ください。


 残る88名の命名は、立川市内を舞台やモデルとする小説・漫画・ゲーム・アニメ・ドラマ・映画の登場人物から採っています。名前をいじったり漢字を変換するなどして手を加えている子もいるので、元々の名前が分かりにくくなっている子も多いかもしれません。

 以下、元にした作品の一覧です。


(小説)「彼女がフラグをおられたら」

      ……菊乃・瑠璃・紬など

(小説)「とある魔術の禁書目録」

      ……美琴・元晴・小萌など

(小説)「パパのいうことを聞きなさい!」

      ……緋菜・佐和・亮一など

(漫画)「聖☆おにいさん」

      ……静子・勇

(漫画)「ハカイジュウ」

      ……直央・翠・拓斗など

(漫画)「まほろまてぃっく」

      ……千鶴・俊也

(ゲーム)「東亰ザナドゥ」

      ……洸・宗輔・千明など

(アニメ)「ガッチャマン クラウズ」

      ……はじめ・つばさ・丈など

(アニメ)「げんしけん 二代目」

      ……美怜・莉華・晴信など

(アニメ)「サムライフラメンコ」

      ……淳・まり・正義など

(アニメ)「世界征服〜謀略のズヴィズダー〜」

      ……京士郎・逸花・明日汰

(アニメ)「フリージング」

      ……織枝・佳穂

(ドラマ)「東京大地震マグニチュード8.1」

      ……令子・曾太郎

(映画)「シン・ゴジラ」

      ……雄介・治


「美琴」「奏良」「清音」の三人に関しては、これとは別に特殊な命名規則があるのですが、それは後の章で説明しようと思います。



③ 登場人物命名の例外


 メインヒロイン3名を除く88名の命名は、おおむね上記の規則に従って行いました。ただし、この命名規則を守りつつ、さらに例外的なルールを重ねて用いた登場人物が、本作中には合計14名います。

 一つ目は、弦国野球部の部員9名の名前です。

 東京の高校をある程度ご存知の方であれば、本作の舞台である弦巻学園国分寺高校が東京都国分寺市の某W高校をモデルにしていることはお分かりかと思います。このW高校、2017年にプロ野球選手を輩出したことで話題となりました。現在、北海道日本ハムファイターズの内野手として活躍中の彼が、本作中の野球部3年部員・宇都宮誠太郎のモデルです。名前を似せたのは意図的なものですが、果たして何人が気づいてくださったのか……。野球部の男子部員は他にも8名が登場しますが、この8名の名前とポジション・背番号は、W高校が2017年夏の西東京大会決勝に挑んだ際のスタメンに準拠しています。

 そして二つ目は、『全国学校合奏コンクール』審査員を務めた5名の名前です。

 この5名は、東京都立川市にキャンパスを持つ国立音楽大学の出身者・関係者をもとに設定された登場人物です。したがって名前も、なるべく元の名前を再現する形で設定しています。世界的に著名な指揮者をもとにした「水沢灰司」など、かなり分かりやすい例のひとつと言えるのではないでしょうか。また、「行橋俊太郎」のもとになった作曲家の方の作品は、本作作中で国立WO(ウインドオケ)の手によって演奏されているほか、「石巻雄介」のもとになったオーボエ奏者の方の執筆した本は、本作制作の参考資料のひとつになっています。



④ 用語


 用語の命名には、特にこれといった統一ルールはありません。必要に応じて名前を決めています。ただ、元ネタやモデルの用語がある場合には、原則としてこれを踏襲する形で名前を設定しました。以下にその一例を紹介します。

『弦巻学園国分寺高等学校』は、先に述べた通り、東京都国立市に実在する某W高校が実在モデルとなっています。このW高校、かつては東京都新宿区の早稲田鶴巻町に校舎がありました。「弦巻」という学校法人の名前は、この地名から採用したものです。本当なら「鶴巻学園」としたかったのですが、残念ながら鶴巻学園はすでに神奈川県に実在していました……。

 高松大祐の勤務先である『ラックタイムス(RackTimes)』は、赤丸にRの文字をくり抜いたロゴで有名な某IT大手企業が実在モデルです。名前を似せているのは言うまでもありませんが、英語のrack(ラック)には「棚」という意味があり、通信販売を手掛ける企業らしい名前にも仕上がっていると思います。さらにはこの名前、先述したボーカルユニットClariSの所属事務所・ランタイム(Runtime)の名前を盛り込んだものでもあります。

『六本木タイムズスクエア』は、六本木の象徴ともなった再開発地区・某ヒルズが実在モデルです。名前の由来は米国ニューヨークのタイムズスクエアですが、このタイムズスクエア、近隣にニューヨークタイムズの本社が立地していることから名付けられた名前なのだそう。『六本木タイムズスクエア』には上記のラックタイムス社が本社を構えているので、いちおう本家と同様の命名理由を持った愛称になっています。

 ラックタイムス社の設立したプロ野球チームの名前は『仙台ラックタイムス・ファイアバーズ』ですが、この名前は現実の某イーグルスではなく、かつて実在企業のライブドア社が仙台に設立を狙ったプロ球団の名前に基づいています。

『ひららもーる』『プリズム楽器』『立川アネモネこども園』『国分寺市立陽だまり文化会館』『ルミナス国際音楽コンクール』など多くの用語の名称には、ClariSの楽曲名が反映されています。コンクールの舞台として登場する『TACHIKAWA FAIRY HALL』の名称は、メンバー交代後のClariSがアルバムの先頭に必ず冠している単語“Fairy”を用いたものです。本庄詩が作中で愛好している小型フィギュア『ぷちどろいど』は、かつてClariSがコラボを果たした著名な2頭身フィギュアの名前を(もじ)っています。




■3 元ネタの有無



 野球部員9名やコンクールの審査員5名、そして一部用語の中に実在モデルがあることは、先に命名規則の章で述べた通りです。では、98項目に上る用語の中に、実在モデルの存在するものはどれほど含まれているのでしょうか?

 結論から言うと、明確なモデルが実在しないのは11項目だけです。残り87項目には実在のモデルが存在します。深く言及できない事情のあるものも含まれるため、どれに実在モデルがあるのかを逐一お答えすることはできないのですが、以下に実在モデルのあるものを簡単に列挙してみます。


『全国学校合奏コンクール』……モデルは類似名称の実在コンクール。ただし東京都大会は存在せず、福島県や千葉県など限られた県でのみ県大会が行われています。本作執筆にあたり、作者は2018年11月に福島で開催されたこのコンクールのグランドコンテストを実際に聴きに行きました。


『日本産業新報社』……モデルは実在の大手N新聞社。発行部数や本社の位置は実在モデルと同じですが、『立川多摩支局』という支局名は架空で、実在の多摩支局とも位置が異なります。N新聞は飛ばし記事が多い……というのはネット上の流言飛語ですが、本作では日産新報の特徴として所属記者の口から自虐的に語られています。怒らないでください。作者も愛読者の一人です。


『大多摩祭昭和記念公園花火大会』……モデルは実在の花火大会。打ち上げの規模や観覧客数も実際と同じです。ただし『大多摩祭』という祭りの名称は、一部登場人物の名前のモデルとなった「とある魔術の禁書目録」シリーズに登場する某覇星祭から採っています。


『カラフル』……モデルは実在するカタカナ三文字のファミリーレストラン。国分寺駅前にも店舗がありますが、実在の店舗はかなり狭くて、壮行会や勉強会を大人数で開けるような環境ではありません。したがって店・企業としては実在ですが、店舗そのものは架空です。




■4 ClariSとの関係



 すでに先の章でさんざん述べてきた通り、ボーカルユニットClariSの存在は様々な形で本作に影響を与えています。メンバーの名前がメインヒロインの名前に生かされていること、楽曲の名前が多数の用語に反映されていることは、すでに述べた通りです。この章では、それ以外の形で作中に反映されているClariSの要素を紹介したいと思います。


① 仮面


 かつて現役中学生ユニットとしてデビューしたClariSは、現在も覆面での活動を行っています。ライブの時には仮面ドミノマスクを装着し、素顔の目元を隠すのが定番でした。顔出しを解禁した現在でも仮面の演出は行っている上、『仮面ジュブナイル』という曲がメンバーの紹介を兼ねてライブ中に歌われるなど、仮面は彼女たちの象徴として機能しています。

 本作作中では、弦国管弦楽部の生徒たちがドミノマスクを装着し、応援演奏やコンクールでの演奏を行っています。仮面を象徴にするという弦国管弦楽部の設定は、実はClariSの活動スタイルを反映したものなのです。


② 色


 弦国管弦楽部の用意したドミノマスクの色は、ピンク、ブルー、グリーン、オレンジの4色でした。里緒はブルー、花音はグリーンを選び、紅良は管弦楽部の上級生にピンクを宛がわれていましたが、読者の皆様のお気に入りの色はどれでしょうか?

 実は、このドミノマスクの色は、それぞれの名前の由来となったメンバーのイメージカラーに準拠しています。里緒がアリス(ブルー)、花音がカレン(パステルグリーン)、紅良がクララ(パステルピンク)です。

 残るオレンジはいったい誰のイメージカラーかというと、2017年にミュージシャンの西川貴教氏がClariSと共演を果たした際、自ら「ClariSでの僕のイメージカラーはパステルオレンジ」とツイッターで発言したことに基いています。オレンジを選んだ貴方は西川兄貴カラーです、おめでとうございます。


③ 髪留め


 168話で里緒・花音・紅良の3人は買い物に出かけ、お揃いの髪留めを購入しましたが、このとき髪留めの意匠はそれぞれ太陽・星・月の形でした。

 この意匠は、それぞれの名前の由来となったメンバーのイメージに準拠しています。里緒がアリス(太陽)、花音がカレン(星)、紅良がクララ(月)で、発売されたCDのジャケットイラストではそれぞれのイメージをあしらった髪留めを着けるメンバーの姿が見られるほか、たびたびライブのタイトルにも応用されてきた過去があります。先に挙げたイメージカラー同様、ClariSにとっては重要なイメージなのです。

 この3つのイメージの出番は髪留めだけではありません。里緒の場合、所有するクラリネットの名前は『Die=Sonne』(意味は「太陽」、英語で言う“The Sun”)です。また、塞ぎ込んだ里緒の心を開かせるための行動を花音は『天岩戸作戦』と命名しましたが、天岩戸といえば太陽を司る神・天照大神が閉じこもったとされる、日本神話の岩屋のこと。天岩戸作戦は文字通り、太陽(里緒)を外へ引っ張り出すための作戦だったのです。他にも作中では里緒・紅良・花音をそれぞれ太陽・月・星になぞらえる比喩や表現が多数登場するので、時間のある方は探してみてはいかがでしょうか。118話などが一例です。

 高松里緒は、力強く華やかな演奏で未来を照らし出す『太陽』の少女。

 西元紅良は、物静かながらも美しく誰かの夜道を支える『月』の少女。

 青柳花音は、ぴかぴかと元気よく瞬いて場を盛り上げる『星』の少女。

 こんな具合に、それぞれの意匠は性格設定にも影響を与えています。


④ その他


 ・作中にカレーライスやカレイの煮つけが何度も登場する

 ・花音は中学時代テニス部で、現在でも運動全般が得意

 ・里緒の得意科目は英語で、中学1年時に英検4級を取得している

 ・紅良は3人の中でも飛び抜けて歌が上手い、しかもピアノも弾ける

 ・花音は朝に強い、紅良は割と弱い、里緒は寝癖がひどい

 ・花音の口癖は「だって花音様だから!」

 ・花音は高所恐怖症で、中途半端に高いところが怖くて苦手

 ・文化祭での女子部1年D組の演目が、『クラリス』というヒロインの登場する某怪盗映画にそっくり

 ・里緒の持つクラリネットの製造番号が『10-10-2009』


 ……これらはすべて、ClariSのメンバーにまつわる実話や噂話・トリビアを反映したものです。

 花音カレンにまつわるものが極端に多いのは、作者がメンバーの中で特にカレンを推しているせいかもしれません。多分。




■5 モーツァルトとの関係



 作中登場音楽紹介のページで書いた通り、本作『クラリオンの息吹』作中では、V.A.モーツァルトの作品が多数登場します。各章のタイトルにはモーツァルト作品のタイトルが埋め込まれているほか、各章冒頭の回には必ずモーツァルトの名言が一つ書かれていました。この名言は、各章内の本編のどこかに登場しています。

 そして、お気づきでしたでしょうか? 各話タイトルが【C.000 ■■■】となっていたのも、実はモーツァルト作品のオマージュです。

 モーツァルトが生涯で残した作品は600~1000とも言われます。後年になり、オーストリアの音楽学者ルードウィヒ・フォン・ケッヘルによって作品目録がまとめられましたが、このときケッヘルはモーツァルトの作品に「K.000」などと表記される通し番号を振りました。これはケッヘル番号と呼ばれるもので、モーツァルト作品のタイトルには必ず欠かさずに附される作品番号です(ただし作品番号そのものは珍しいものではなく、多くの名だたる作曲家たちに与えられています)。本作ではこのケッヘル番号を真似て、各話タイトルを【C.000 ■■■】の形で表記しました。ちなみにCの意味は「クラリオン」です。なお、続編部分では【E.000 ■■■】の表記になっているかと思いますが、このEは「アンコール(Encore)」を意味します。

 また、作中では高松瑠璃をモーツァルト、高松里緒を遺された友人アントン・シュタードラーに見立てる描写がありますが、瑠璃は実際にモーツァルトと同じ35歳10か月で命を落としていたりします。




■6 タイトルの意味



 このページの冒頭でも触れましたが、構想当初、本作のタイトルは『クラリオン』でした。それが具体的なストーリーを練る過程で『クラリオンの息吹』へと変化しています。執筆中の仮題は『C』でした。連載開始1年前の夏に数名の方に試読をお願いした時は、“『C』試読用”と題した作品を部分的に公開しています。……覚えてくださっている方がいたら嬉しいのですが。

 では、この名前にはどのような意味があるのでしょうか?


 まず、本編184話で触れられた「クラリオン」という単語の意味を簡単に振り返ってみます。軍隊用の信号ラッパを意味する「クラリオン」は、クラリネットの語源になった金管楽器の名称でもありました。クラリネットの音域は4つありますが、中でも明るく華やかな高音域が最も高く評価されており、それがあたかもクラリオンの音色を彷彿とさせることから、「小さなクラリオン」という意味の“Clarinet”という名前が楽器名として与えられたとされています(諸説あります)。

 第四楽章まで本編をご覧になった方は、主人公の高松里緒の演奏する音の質が、里緒の成長に伴って大きく変化したのをご存知だと思います。89話で音を失う瞬間まで、瑠璃譲りの「紙縒(こよ)りのようにか細く、儚く、寂しい音色」を得意としていたのが、129話では一転して「底無しに明るく力強い、開放的な音」を奏でるようになりました。里緒自身が作中で言及していますが、この音の変化は里緒自身の変化や成長を反映しています。腹式呼吸を体得するとともに精神的な支えを手に入れた里緒が、129話を境にして吹けるようになったのは、まさにクラリネットという楽器の最大の魅力である“明澄の音”だったのです。

 過去を乗り越えて生まれ変わった少女の放つ息は、輝かしい明澄の音色となって世界を魅了する。それこそが、「クラリオンの息吹」の第一の意味です。


 もう少し字義的な部分に目を向ける解釈もできます。そもそも「クラリオン」という単語は、英語で言うところのclearと同じ音を持つ仲間です。ラテン語の『明るく澄んでいる(clarus)』を語源に持ち、本質的には「明るい」とか「澄んでいる」といった意味を内包しています。本編184話の末尾では、あえて「明澄」の語に“クラリオン”とルビを振りました。

 では、作中を通じて「明澄」になったのは誰でしょうか。言うまでもなく、その筆頭は過酷な過去を180話で振り払った里緒ですが、同時に美琴や花音、紅良をはじめ、彼女を取り巻く多くの人々が、過去の苦痛を克服して“明るく”なっています。「クラリオンの息吹」というタイトルは、明るい未来を取り戻した彼らの息吹……つまり生きる姿そのものを形容する単語でもあるのです。

 さらに言えば、命名規則の章でも紹介した通り、「クラリオン」は主人公を含むメインヒロイン三人(紅良、里緒、花音)の名前を掛け合わせた単語でもあります。したがって「クラリオンの息吹」というタイトルは、より狭義的には「三人のヒロインたちの生き様」も意味しています。


 ところで、本作には正式タイトルとは別に“The tragédie lyrique of the isolated SOLIST”というサブタイトルがありました。Twitterの宣伝用画像などをご覧になっていた方ならばご存知かもしれません。

 このサブタイトルを直訳すると「孤独な独奏者の叙情悲劇」になります。この叙情悲劇とは、神話や叙情詩などをストーリーの下敷きとする、全5幕からなるオペラの一種です。悲劇と銘打たれてはいますが、実際のところ悲劇の結末を迎えるものは少数派だったとのこと。『クラリオンの息吹』は全5章からなる小説であり、このサブタイトルでは本作そのものを叙情悲劇に見立てているのです。




■7 キャラクター作り



 登場人物紹介のページを書くに当たり、人物相関図を作ろうかとも思いましたが断念しました。本作に登場する91人の登場人物たちの関係は、小さな画面ではとても表現しきれないほどに複雑に絡み合っています。(→※登場人物相関図、作りました! 『登場人物紹介【Ⅰ】』のページに掲載したので、気の向いた方は覗いてみてください!)

 ただし、まったく不規則かつ無秩序にキャラクターが増えていったわけではありません。この章では、『クラリオンの息吹』に登場する人間模様の構造を簡単に紹介したいと思います。


① 基本は「3」


 読んで字のごとくですが、本作では主人公の高松里緒を中心に、「3」単位で登場人物を増やしています。

 まず、里緒を中心とした「3」人の仲良しヒロインたちを設定しています。これが花音と紅良です。ここから「3」の数で括ることのできる登場人物を増やしてゆきました。里緒と両親、花音と両親、里緒と神林家の母子、紅良と国立WO仲間の二人、花音と仲良しクラスメートの芹香・美怜、里緒と同期の1年部員のうち華やかタイプの舞香・真綾、地味タイプの緋菜・小萌……といった具合に。その結果、作中で出番を持つ大半のキャラクターたちは、最低でも二人以上のキャラクターと面識や交点を持ち、その場面に応じて「3」人のグループを形成するようになっています。

 1対1の人間関係は脆く、さまざまな危険因子を抱えがちですが、これが3人になると意外に安定するのですよね。作中で3人グループが多用されているのはそのためです。

 ちなみに、作者がお気に入りの「3」人グループは、本編中にはあまり登場しない里緒・緋菜・舞香の3人組だったりします(メインヒロイン3人組は例外として)。


② 危うい関係は「2」


「3」単位の人間関係と対を成す存在と言えるのが、1対1の関係を持つアンチキャラクターです。1対1の人間関係は安定こそしませんが、強く結びつけば親友や恋人レベルの逞しい絆を生み出します。なので、ドラマを生み出す場面では「2」人の関係を構築しがちです。作中では高松里緒と神林紬の関係などが該当するでしょうか。一時的に距離が空くなど安定しない関係で推移したことを、お読みくださった皆様も覚えていることと思います。

 ただし、これだと無秩序に人間関係が広がりすぎます。さらに物語としての安定性も悪くなります。そのため「2」人の関係を生み出す場合は、間に1人を足して安定性の高い「3」人の関係へ移行させる用意をしておくこともありました。例に挙げた里緒と紬の場合、紬の息子の拓斗が加わることで「3」人単位のグループになり、一気に壊れにくい人間関係ができあがります。

 ちなみに、この「2」を「3」にする作業を実際に行ったのが、里緒と紬が和解を果たした183話の終盤です。88話で里緒が紬を突き放した時と違い、拓斗がいることで3人が丸く収まっているのがお分かりになるでしょうか。

 さらに高松家においては、母・瑠璃の自殺によって「3」が「2」になり、遺された里緒と大祐の関係が死後1年以上にわたって不安定になる変化も発生しています。


③ 「3」×「2」=「6」


「3」人単位の安定した関係と、「2」人単位の危うい関係。この上記の①と②のルールを複合的に用いて構築した人間関係が、作中にはひとつだけ登場します。

 それが、「里緒・美琴」+「紅良・奏良」+「花音・清音」の6人です。

 里緒と茨木美琴、紅良と守山奏良、花音と市原清音は、それぞれ作中で対立や不和を繰り広げるアンチキャラクターの関係にあります。名前の響きや字面を意図的に似せているのはそのためで、さらに言えば性格も極めて似ており、しかも全員がクラリネット奏者です。一見するとバラバラに対立して見えますが、中核をなす里緒・紅良・花音の3人が安定した仲良し関係を構成しているので、この6人は嫌でも有機的に結び付けられることとなります。

 また、この人間模様は様々な形でシンメトリーでもあります。

 美琴・奏良・清音の順にアンチキャラを並べると、彼女たちの年齢は里緒と比べて+1歳、±0歳、-1歳。そして彼女たちの所属校は、作中に登場する主要3校である弦国、芸文附属、都立立国です(この3校はそれぞれ私立・国立・公立だったりします)。

 さらに言えば、里緒と美琴の不和を知っているのは花音だけで、紅良はこのことを知りません。同じように、紅良と奏良の不和を里緒は知っていましたが、花音は不和の解消間際になるまで知りませんでした。花音と清音の不和を紅良は知っていましたが、花音が里緒に教えることをためらったため、里緒は最後の最後まで不和のことを知らないままです。このようにして、それぞれの直面する不和の全貌を知る人間が誰ひとりとして存在しないという、かえって釣り合いの取れた関係が出来上がっているのです。


④ 視点人物間の関係


 本作には17名の「視点人物」がいます。彼らはそれぞれの話で視点の役割を果たす、いわば部分的な主人公です。このうち本編(続編を除く)には、主人公の高松里緒を筆頭に青柳花音、西元紅良、茨木美琴、須磨京士郎、高松大祐、神林紬の7名が視点人物として登場しています。

 実は、彼らは“なるべくして視点人物になった”キャラクターたちでした。というのも里緒以外の6人には、それぞれ以下の役割が与えられているのです。

(花音) ……主人公の友人、部活仲間代表

(紅良) ……主人公の友人、クラスメート代表

(美琴) ……主人公の先輩、上下関係の代表

(京士郎)……主人公の担任、師弟関係の代表

(大祐) ……主人公の父親、血縁関係の代表

(紬)  ……主人公のご近所、隣人関係の代表

 一般的に、一個人を取り巻く人間関係は上記の「友人」「上下」「師弟」「血縁」「隣人」で構成されるものではないでしょうか(実際には「恋人」が加わることも多いですが、後述する理由で本作には恋愛関係が登場しません)。したがって、花音、紅良、美琴、京士郎、大祐、紬の6人がいれば、高松里緒という少女の生きる世界の人間模様のバリエーションをすべて網羅しながら描くことができると考えたのです。

 ちなみにこの6人にはもう一つの機能も持たせています。主人公の高松里緒は、いじめられ母を失った「過去」と、人付き合いに苦しむ「現在」の双方に難を抱える少女でしたが、この6人の中では花音・紬・大祐が「過去」、紅良・美琴・京士郎が「現在」に難を抱える登場人物になっているのです。さらに彼らの抱える難はすべて、里緒の存在をきっかけとして作中終盤までに解消します。視点人物6人の人間関係の中心に立つ里緒は、6人の抱える苦悩の象徴でもあり、なおかつ6人全員の苦悩を解決に導く希望でもあったのでした。




■8 別作品との関係・スターシステム



『クラリオンの息吹』の世界観は原則として、作者の別作品から完全に独立しています。別作品を読んでいなくとも、『クラリオンの息吹』をお楽しみいただくのに困難は生じません。

 しかし実は、別作品から拝借してきた設定が、細かなところで大量に登場しています。

 以下に挙げるものはその一例です。


 ・高松里緒や神林淳の入院先「玉州会立川ゆめのき病院」

  ……同じ医療法人・玉州会の設立した病院が、『桜の雨、ふたたび』(2017)にも登場します。

 ・合川花音や市原清音の入所していた児童養護施設「ひかりの家」

  ……『テガミ』(2014)にも登場し、準主人公の少年が入所していました。作中では少年が「ひかりの家」からの脱走騒ぎを起こし、この事件に主人公の女子高生が巻き込まれてゆきます。

 ・西成満の設立した不動産会社「東上ビル」

  ……『ザ・タワー』(2014)にも登場。市街地再開発事業で超高層ビルを建設しており、このビルが作中の事件の舞台となりました。日産新報社のライバル社として本作作中に登場する「産業建設新聞社」は、この作品の主人公の勤務先でもあります。

 ・宇都宮誠太郎の入団したプロ球団「北海道八王子製紙フライアーズ」

  ……スポンサー企業は製紙会社の「八王子製紙」です。ヒロインの父親の勤務先として、この企業が『八王子戯愛物語』(2014)に登場します。

 ・ラックタイムス本社の入居する複合施設「六本木タイムズスクエア」

  ……六本木周辺を舞台とする作品『凍京愛徒』(2018)に登場。この小説も本作と同様、ClariSの楽曲を着想元としており、作中にはClariSの曲名をもとにした店舗名が複数登場します。


 また、作中に登場する学校の中には、別作品で登場済みのものが複数あります。

 こちらも以下が一例です。


 ・コンクール金賞校の「大崎女学苑高校」

  ……『それでもここに、花が咲くから。』(2016)など。主人公の通学先として名前のみ登場するほか、さらに別作品では入試に合格した直後の受験生も登場します。

 ・コンクール金賞校の「慶興義塾高等部」

  ……『テガミ ──The short tales of LETTERs──』(2013)。主人公の通学先として描かれ、作中には演劇部が登場します。

 ・コンクールで弦国管弦楽部の直前に演奏した「都立赤羽高校」

  ……『廻る線路、巡る想い』(2014)など。この作品には同校の管弦楽部に所属する高校生カップルが登場します。

 ・野球部の西東京予選第一試合の対戦相手「都立府中南高校」

  ……『ツンデレ少女と狂恋華』(2016)。作中のヒロインたちが通学していますが、作中に校名は出てきません。

 ・川棚明日汰の進学先「多摩工業大学」

  ……『PILOTESS』(2017)。人力飛行部が作中に登場し、ヒロインたちが通学しています。


 さらに、本作の公式外伝として、『ひとりぼっち少女のひとりあそび』(2019)があります。時系列としては本編44話の直後で、本編には描かれなかった帰宅後の里緒の動向を描いた短編小説ですが、これはムーンライトに投稿されているR18作品です。つまり()()()()()()があるので、ご覧になる際は注意をお願いします……。




■9 その他の裏話・小ネタ



 以下、これまでの章には挙げきれなかった、本作の裏話やトリビアを雑多に紹介してゆきます!



 ・本作のキャラクター91名のうち、もっとも難産だったのは新聞記者の取手雅でした。実は「取手雅」に名前が決まるまでに二度の名前変更があり、しかも以前は性別が男だったこともあるんですね……。性格も今のような姉御肌チックの爽やかなキャリアウーマンではなく、もう少し高年齢の母性的な人物だったこともあり。性格や名前を変更するたびに本編中の言動を根こそぎ書き換えねばならないので、この難産は実際のところ作者にとっては過酷でした。最終的には何とか形になったことに深く安堵しています。



 ・土下座芸人キャラとして作中に登場する、管弦楽部2年男子のファゴット奏者・八代智秋。彼のモデルは、作者・蒼原悠がTwitter等で懇意にしているりゅーざき(@gmkznzngi)さんです。土下座要素以外にもゲーム好き、マグロと縁深い等の要素が彼に反映されています。どういう経緯で作中に出すことになったのかは忘れてしまった。覚えてたら教えてくれ! りゅーざき!



 ・作者は原則として、別作品の登場人物とは名前がバッティングしないように配慮していますが、さすがに今回は全キャラ合計91人とあって、バッティングを防ぎたくても防ぎきれない部分がありました。そこで思いきって、本作では作者の既存作の登場人物の多くと名前を重複させています。本作は一応、作者最後の作品と銘打っているものでもあるので、今まで登場しては消えていった人物名が最後の作品でも活躍するというドラマチックな演出にもなるかと思ったのです。

 ちなみにバッティングしているのは以下の登場人物たちです。

 ※『テガミ ──The short tales of LETTERs──』は名称が長いため、『短編集テガミ』と表記します。


 1)高松里緒と湯河原理苑

   (『DistancE-KANA』・2013)

 2)飯塚茜と松田明音

   (同上)

 3)石巻雄介と伊勢原雄介

   (同上)

 4)高松大祐と旗野大介

   (『インサイド・デザイア』・2013)

 5)富田林健二と高野研二

   (『短編集テガミ』・2013)

 6)鹿沼悟郎と赤塚吾郎

   (同上)

 7)春日恵と高幡恵美

   (同上)

 8)行田大機と中村大希と堀口大輝

   (同上 / 『ルームメイド』・2016)

 9)青柳千明と岩戸千晶

   (『星願の空際』・2014)

 10)下関佳子と業平嘉子

   (『ザ・タワー』・2014)

 11)戸田宗輔と鳥島宗祐

   (『Follow-Ween!!』・2014)

 12)流山由美と荏原由美

   (『EveningSunlight3』・2014)

 13)越谷まりと萩中真理

   (『羽田子猫物語』・2015)

 14)鳴瀬勇と矢作勇

   (『ロボコンガールズ』・2015)

 15)鴨方つばさと四万十翼

   (同上)

 16)八代智秋と信濃朋朗

   (同上)

 17)牛久咲と長良沙紀

   (同上)

 18)館山伸と野塩伸

   (『君と俺が、生きるわけ。』・2016)

 19)富津眞と野塩仁と戸倉迅

   (同上 / 『短編集テガミ』・2013)

 20)上福岡洸と前田光

   (『MOTHER』・2016)

 21)神林淳と谷下楯

   (『桜の雨、ふたたび』・2017)



 ・本作は「恋愛絶対禁止」を念頭にして執筆を行っていました。作中でも登場するのは高松夫妻や福山丈・浪江真綾のカップルの恋愛描写くらいのもので、特に里緒にまつわる部分では恋愛要素が一切登場しません。

 これは、本作が「心を病んだ孤独な少女が過去の記憶に立ち向かい、やがて救われるまでの物語」であるためです。恋愛が絡むと話がややこしくなるうえ、誰かと恋仲になると必然的に孤独が解消し、人は簡単に救われてしまいます。恋や愛の持つエネルギーは尋常ではないのです。

 本編完結後、里緒や花音や紅良がどんな恋愛をするのかは作者にも分かりませんが、なんとなく里緒は年下の後輩と、花音は同級生と、紅良は年上と恋仲になるような予感がしています。



 ・本作は以下のような執筆手順を辿りました。


 ①執筆用ガラケーで本文を執筆

 ②PCに転送、文書の体裁を整える

 ③推敲と本文への訂正の反映(これを計3回)

 ④なろうに貼り付けて投稿

 ⑤なろう上で推敲(1回)


 実は、それぞれの工程における進行ペースは偶然にも概ね一定でした。したがって、ここから本作の総制作時間を計算することができます。①は時速1,500文字、②は時速30万文字、③のうち推敲は時速8,000文字、訂正反映は時速25,000文字、④は一楽章あたり3時間、⑤は時速2話で作業が進んでいました。続編を含む本編の合計字数は90万、話数は201話です。この条件で各工程の所要時間を算出してみると……。


 ①……600時間

 ②……3時間

 ③……(112.5+36)×3時間

 ④……15時間

 ⑤……100.5時間


 なんと、合計すると1,164時間ですね! 執筆期間は21か月に及んだので、一日あたり平均1.8時間を本作の執筆に充てていたことになります。約2年間、毎日2時間はかなりきついですね……。しかもここには構想や設定組み、ストーリー構築、ロケハン、イラスト制作や宣伝、約15万文字分の番外編・おまけ編の執筆時間などがいっさい含まれていないので、実際の作業時間は1,500時間に達するものと思われます。

 ちなみに蒼原悠はこれらの作業を自宅で行うと著しく作業効率が低下します。なので執筆作業は基本、カフェや図書館などの外出先で行っているのですが、仮にカフェですべての作業を行っていた場合、アイスティー1杯につき5時間もの不当長時間滞在を行ったとしても、232.8杯の紅茶を消費する計算になります。アイスティー1杯210円の格安で知られるカフェ・ベ□ーチェを利用していたと仮定して、それでもなお支払った金額の合計は48,888円。実際には上記のような長時間滞在は少なく、かつス〇ーバックスのような高価格帯のカフェも利用していたので、諸経費がいくらに達したのかと思うと……背筋が冷えますね。アイスティーだけに。

 なお、本作の制作にあたっては度重なる資料の購入や現地ロケハンを行い、数々のイベントにも取材目的で赴き、さらに絵師様へのイラスト有償発注などもしているため、制作にかかった費用は余裕で10万円を超えると思います。このコーナーを執筆するに当たって制作関係費用の合計を計算しようかと思ったのですが、やめました。通帳を見るのが嫌になる気がしたので……。



 ・作者は「携帯のメールで執筆した小説をPCに送って編集」という執筆スタイルを取っています。その過程で、各原稿メールには簡易的なタイトル(執筆時略号と呼んでいます)をつけて作品管理を行っています。特に『クラリオンの息吹』の場合、執筆期間が長すぎて途中で別の作品に浮気したりもしているので、この執筆時略号は執筆進行管理において地味にとても大事だったりしたのですが……。

 なんと本作の執筆時略号は「短編40」でした。

 ……そうです、()()

 実は初期構想の当時、本作は数万文字程度の短編として完成する予定だったのです。具体的に何万文字で終えるつもりだったかは覚えていませんが、長編になることが見込まれる場合には「短編」などという冠詞は用いず、もう少しタイトルに沿った略号を設定しているので、少なくとも長編にする気がなかったのは確かのはずです。

 なお、2016年に執筆を一時的に開始した際、本作の予定字数は26万文字でした。これが2017年11月の本格執筆開始時には40万文字になり、さらに執筆の過程で50万文字、60万文字、70万文字と段階的に増え、結局本編は80万文字で完結し、挙げ句の果てにはおまけ編まで含めると110万文字前後に達したわけで……。作者の先読み能力の低さがつくづく感じられますね。それと蛇足ながら、本編80万文字を書き上げるために作者はなんと145通ものメールを使用しています。



 ・本編69話では音楽の授業が行われ、西元紅良がG.ホルストの組曲〈惑星〉にまつわる発表を行っています。実は、このシーンで行われた発表の元ネタは、実際に作者自身が高校1年生の時に音楽の授業で披露した発表です。当時のタイトルは【「Jupitar」に見る、楽曲のカバーについて】で、カバーやセルフカバー、訳詞ポップスなどの解説に加え、実例として多数のカバーが行われている楽曲である〈木星〉を挙げ、作中でも流されている冨田勲氏の作品を実際に音楽室で流した覚えがあります。作者が小説家になろうで創作活動を始めたのはこの発表の3か月後ですが、まさか6年後にこんな形で発表の内容が生きるとは、当時の作者もさすがに予想がつかなかったのではないかと……。いや、実際についていませんでした。



 ・本作は(続編を含め)総話数201話にのぼる長編ですが、全体としては「①里緒が破滅するまでの物語」「②里緒が過去を振り切るまでの物語」「③その後の物語」の3つに大別することができます。

 実は連載構築時に、①と②の境目が90話、②と③の境目が180話になるように調整していました。つまり本作は、前半90話で絶望した里緒が、後半90話で希望を取り戻すという構成なのです。もっと言うと本作の連載開始日が3月23日、90話の公開が6月23日、180話の公開が9月23日になっていますが、これももちろん計算して連載計画を組んでいます。

 さらに言えば、続編201話で里緒たち3人はふたたび入学式の日を迎え、弦国の校門に立ちますが、ちょうど200話前の本編1話でも同じ情景が描かれています。

 ちなみに作者が9月23日に180話を持ってくる構成にしたのは、この日が作者の活動開始日(=作家・蒼原悠としての誕生日)だからです。高松里緒の性格設定には作者自身の持つ要素も多く反映されていますが、里緒が9月23日生まれであることもこうした部分に影響を受けた設定だったりします。



 ・本作のカレンダーは2019年のものを用いています。連載期間は2019年3月~9月で、本編が描く時系列は4月~10月なので、実は読んでいる最中にもリアルタイムで高松里緒たちが生きているといった演出になっていたのです! ……と言いたいのですが、作中では平成⇒令和の改元に伴う10連休などがいっさい反映されていないので、作中の西暦は厳密には2019年ではありません。これ、いつ読み返してもリアルな「今」の作品として読めるようにという配慮なのですが、果たして来年も再来年も読んでくださる方はいるのだろうか。

 ちなみに作中時間がリアルタイムを追い越していたのは1~28話と31~34話、46~99話、168~179話、183~201話の、合計117話分だったようです。今回このコーナーを書くに当たって初めて調べました。



 ・2019年7月3日の仕様変更により、小説家になろうではルビ、ルビ記号(|《》)を文字数としてカウントしないようになりました。これが本作にどの程度の影響をもたらしたかというと、なんと文字数が12,326も減りました。もう一度書きます、「「1万2千文字の大減少」」です。短編であれば一作品まるごと消滅する勢いです。それだけルビの数が多かったということでもあるかと思いますが、文字数の多さを予想外の形で思い知らされました。やっぱり多すぎますね……。



 ・ここをご覧になっている皆様は、本作冒頭のPrelude(=プロローグ)のタイトルが「TRUE END」(真実の結末)だったことを覚えていらっしゃるでしょうか? 複数の結末が用意されているゲームにおいて正史となる結末がこの名前で呼ばれますが、物語の冒頭に持ってくるにはやや不自然なタイトルでもあります。

 実はこれは、「高松瑠璃の本当の最期」を意味する言葉でした。瑠璃の死の真相については作中でもたびたび情報が錯綜し、里緒など瑠璃に恨まれているのではないかと心を病んだりもしていますが、実際の瑠璃が家族を恨むことなく死んでいったことは「TRUE END」を読み返していただければ分かると思います。真実は初めから提示されていたのです。

 さて、本作ではあとがきの後にPostlude(=エピローグ)を公開し、作品全体の締めとする予定ですが、そちらのタイトルは一体何かというと……?









▶▶▶次回 【おまけ編】 『クラリオンの息吹』なんでもランキング!

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