【おまけ編】作中楽曲解説
おまけ編の第4弾は作中楽曲解説です。
このコーナーでは『クラリオンの息吹』作中で演奏、または名前の登場した36の楽曲を、それぞれの成立背景や本作への採用理由なども交えながら紹介してみたいと思います!
なお、本作に登場する36曲の選定に当たっては、以下の条件をもとに選びました。
【1】モーツァルトの作品 ……モーツァルトの〈クラリネット協奏曲〉が本作の根幹に大きく影響しているため
【2】国立音大出身者が関与している曲 ……作中の主要舞台である立川市に国立音楽大学がキャンパスを有しているため
【3】立川ゆかりの曲 ……立川市が作中の主要舞台であるため
【4】中央線沿線のご当地メロディ ……作中の主要舞台である立川市を貫く主要路線であり、作中にも頻繁に登場するため
これらの条件を満たさない特殊な曲も複数ありますが、それらは【5】その他としてまとめて紹介しています。
【1】モーツァルトの作曲した楽曲
〈K.596『春への憧れ』〉──歌曲
作曲:V.A.モーツァルト
初出:1話(登場順は2番)
……第一楽章『春への憧れ、明日への焦がれ』の表題曲。
1791年作曲。「三つのドイツ歌曲」と称される作品群の一角を占める、子どものための歌です。姉妹曲の中では最も愛されているとされ、ドイツでは児童の愛唱曲になっています。C.A.オヴァーベックの詩に自ら複数節を足して歌詞とし、これにピアノの伴奏を添える形で制作されました。歌詞では緑の溢れる5月を心待ちにする子どもの明るい感情が描かれ、曲の雰囲気全体もまろやかで可愛らしいです。この旋律をよほど気に入っていたのか、モーツァルトは九日前に作曲した〈K.595 ピアノ協奏曲27番〉の第三楽章開始主題でも、この曲の主題と同じメロディを用いています(K.595のフィナーレは『春への憧れ』の完成後に作曲されているため、こちらの曲の影響をK.595が受けているともいえます)。
〈きらきら星〉──童謡
作曲:不明
初出:9話(登場順は4番)
……9話で管弦楽部の見学に来た青柳花音・高松里緒に向け、茨木美琴が練習の成果として吹奏した曲。
「きらきら星」は日本における名称で、作曲されたフランスでの名称は「Ah, vous dirais-je, Maman(あのね、お母さん)」。元は18世紀末のフランスで流行したシャンソンで、恋の楽しさや苦しさを母親に吐露する少女の語りを歌詞に持つ恋の歌でした。この曲をもとにイギリス詩人ジェーン・テイラーが作詞した替え歌「Twinkle, twinkle, little star(きらめく小さなお星様)」が童謡として世界各地に広まり、大正時代に日本でも紹介されて邦訳されたことで、「きらきら星」として定着するに至っています。
なお、モーツァルトは1778年に、この曲を変奏する形で〈K.265 きらきら星変奏曲〉を作曲しています。演奏時間は12分で、冒頭で主題を提示した後、拍子の変更や転調を伴いながら12の変奏が繰り広げられます。子どもらしいユーモアを意図的に持たせた曲として評価が高いものです。
〈K.331 ピアノソナタ第11番(トルコ行進曲)〉──器楽曲
作曲:V.A.モーツァルト
初出:11話(登場順は5番)
……『立川アネモネこども園』の発表会で演奏された曲。神林拓斗はこの演奏でシンバルを担当しました。39話では拓斗にせがまれ、里緒がクラリネットでの独奏も披露しています。
モーツァルトのピアノソナタの中で最も有名、かつ名作とされる作品です。1780年代に制作されたと推定されます。変奏曲の第一楽章、メヌエットの第二楽章、トルコ風ロンドの第三楽章からなる全三楽章の曲であり、このうち第三楽章のみが「トルコ行進曲」として知られています。第三楽章のみ非常に人気が高いため、単独で演奏されることも多いのが特徴です。なお、一般的に古典派ソナタは「急・緩・舞・急」の全四楽章構成からなっており、このK.331は古典的ソナタの構成を踏襲していない点で珍しい曲でもあります。
〈K.492『フィガロの結婚』序曲〉──歌劇
作曲:V.A.モーツァルト
初出:25話(登場順は8番)
……取手雅がお気に入りのモーツァルト作品として作中で言及した曲。
1780年代に作曲され、1786年5月に初演を迎えたオペラ『フィガロの結婚』の序曲です。一楽章からなるニ長調の曲で、演奏時間は第一楽章も含め約1時間、単独では15分ほどになります。18世紀のイタリア風オペラ・ブッファにおける序曲の代表例とされ、しばしば単独で演奏されるほどに人気が高く、2006年のウィーンフィル・ニューイヤーコンサートではモーツァルト生誕250年を記念して序曲のみが演奏されました。なお、自筆楽譜が現存していますが、そこには序曲を数小節ほど延長して全三楽章構成の古典的なオペラ序曲に仕立てようとした痕跡が遺されています(該当部は斜線で消され、なかったことになっています)。
〈K.620『魔笛』〉──歌劇
作曲:V.A.モーツァルト
初出:27話(登場順は9番)
……第二楽章『漆黒の魔笛は哀を歌う』の表題曲。
晩年の1791年に作曲され、同年9月末に初演を迎えたオペラ『魔笛』の曲です。全49の場によって構成され、序曲(7分)、第一幕(1時間)、第二幕(1時間10分)の合計2時間17分におよぶ大作でした。モーツァルト最後のオペラとして著名であり、極めて高い人気を誇ります。
このオペラは、上流階級でイタリア風オペラが依然として人気を保っているなか、庶民の間に流行を始めていたドイツ語による歌芝居“ジングシュピール”として制作され、のちのドイツ・ロマン派の隆盛に先鞭をつけた作品として知られるものです。作曲に当たり、作曲依頼者の座主エマーヌエル・シカネーダーはモーツァルトの仕事を捗らせるため、劇場近くに建設した木造小屋に彼を缶詰めにしたと言われています(現在この小屋はモーツァルトの故郷ザルツブルクに移築され「魔笛の家」と名付けられています)。作曲当時、すでにモーツァルトは生活苦に伴って体調を崩しており、この作曲行為はモーツァルトの心身にとって大きな負担となっていたことが伺えます。なお、序曲と第2幕の完成をもってモーツァルトが全ての作曲を終了したのは、初演のわずか二日前でした。
タイトルの「魔笛」とは、作中に登場する魔法の笛です。第1幕第8場で侍女が王子タミーノに女王からの贈り物として手渡したもので、第2幕第28場でタミーノはこの魔笛を用い、神官ザラストロによって与えられた火と水の試練を乗り越えています。
〈K.622 クラリネット協奏曲〉──協奏曲
作曲:V.A.モーツァルト
初出:43話(登場順は13番)
……弦国管弦楽部が『全国学校合奏コンクール』自由曲として演奏した曲。独奏クラリネットパートの里緒以下、全15名の部員が参加し、第2楽章を演奏しました。56話では須磨京士郎の口から曲の成立背景が語られ、その後も練習風景がたびたび登場しているほか、178話・179話ではコンクール舞台での演奏が描写されています。なお、演奏に当たって弦国管弦楽部は「死にゆく作曲家が大切な友人に贈った別れの曲」というコンセプトを定め、また本来の楽譜にはないピアノパートを独自の編曲によって組み込みました。78話では矢巾千鶴が「コンクール向きの曲ではない」と指摘を加えています。
晩年の1791年に作曲された、モーツァルト最後の協奏曲です。自筆譜が残っていないため正確な完成の日付は不明ですが、モーツァルト自身による作品目録の書き付けから、親しい友人で会ったクラリネット奏者アントン・シュタードラーのために制作された作品であることが判明しています。2年前の1789年に作曲された〈K.581 クラリネット五重奏曲〉も、同様にシュタードラーを念頭に置いて制作されたものと考えられます。「天国的」とまで言われるほどの類まれなる美しさから極めて評価が高く、2006年の英国クラシックFMにおいてはモーツァルトの人気曲ランキングで第1位に選ばれました。
第一楽章「アレグロ」、第二楽章「アダージョ」、第三楽章「ロンド・アレグロ」の全三楽章からなり、演奏時間は約30分。このうち第一楽章は、直前に制作されていたとされるバセットホルンのための協奏曲(K.621bと称される)を改良する形で作曲されており、これに第二楽章と第三楽章を新規追加する形で完成を迎えました。音域に応じて独特の音色を持つクラリネットの楽器的特性と表現力を存分に生かすべく、最低音近くの音域を十分に鳴り響かせて高音域との対照効果を巧みに弾き出しているなど、モーツァルトのクラリネットに対する造詣の深さが各所に伺える作品に仕上がっていることが大きな特徴です。また、第二楽章の1か所を覗いてカデンツァがなく、クラリネット奏者に名人芸を要求していないことも特徴として挙げられます。加えて、クラリネット協奏曲ではあるもののクラリネットばかりが主役を担ってはおらず、随伴するオーケストラの役割が大きいことも、この曲の魅力のひとつです。
なお、作曲に当たってはシュタードラーによる独奏が想定されており、オリジナルの楽譜はシュタードラーの持つ低音拡張型の特殊楽器「バセットクラリネット」に合わせて作られていたと考えられています。1801年に楽譜が出版された際、通常のソプラノクラリネットで演奏できるよう何者かの手で編曲が行われており、現在流通している楽譜はこのソプラノ向けか、もしくは当時の編曲譜等を用いて制作された復元版です。
〈K.465『不協和音』〉──室内楽曲
作曲:V.A.モーツァルト
初出:63話(登場順は16番)
……第三楽章『不協和音の波に打たれて』の表題曲。
1785年作曲。全四楽章で構成される弦楽四重奏曲です。この曲の前後や1773年に作曲された複数作品を含む、合計十曲からなる「ウィーン四重奏曲」のひとつであり、大作曲家ハイドンに対して献上されたと伝えられています。冒頭の序奏において大胆に不協和音を奏でるという特殊な楽曲であることから「不協和音」の名前がついており、このためモーツァルト研究の進んでいない段階ではあまり評価の高くない曲でした。
〈スター・パズル・マーチ〉──吹奏楽曲
作曲:小長谷宗一
初出:80話(登場順は19番)
……芸文附属吹奏楽部が『東京都吹奏楽コンクール』課題曲として演奏した曲。
1993年の全日本吹奏楽コンクール課題曲です。吹奏楽作品を多数手がけることで知られる作曲家・小長谷宗一が作曲を手掛け、公募により課題曲となりました。全体を通じて〈きらきら星〉のメロディを下敷きにした変奏曲となっているほか、〈星に願いを〉〈Stardust〉〈星はなんでも知っている〉〈組曲惑星より『火星』〉〈帝国のマーチ(Star Wars)〉〈Moon River〉〈星のフラメンコ〉〈7人の刑事〉の8曲が曲中に盛り込まれています。これらはメロディの主たる部分にはあまり現れず、たとえば〈星に願いを〉は冒頭5小節以降の低音を聴かないと分からないなど、特定の箇所で特定のパートにのみ注目することで聴くことができる仕様になっているのも興味深いポイント。知名度の高い曲を随所にちりばめた、ポップで明るい曲調の作品です。
なお、作曲者の名前は「こながや」と読みます。
〈K.525『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』〉──管弦楽曲
作曲:V.A.モーツァルト
初出:96話(登場順は22番)
……第四楽章『蒼の涙とアイネクライネ』の表題曲。
1787年作曲。モーツァルトの全作品の中で最も著名な一曲です。恋人や女性を称えるために歌われる楽曲ジャンル「セレナーデ(小夜曲)」のひとつであり、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」という名前そのものが「小さな夜の歌(a little nightmusic)」を意味します(この曲名はモーツァルト自身が自作品目録に書きつけていました)。全四楽章からなる曲ですが、作曲当初は一般的なセレナーデと同じ全五楽章構成でした。冒頭の印象的なメロディはとりわけ知名度が高く、また全体を通して冠婚葬祭での演奏を想定しているかのような華麗さを備えた曲です。そのため、「小さな夜の曲」と思って視聴すると非常にギャップが大きく感じられます。加えて、何を目的として作曲されたのか判明しておらず、楽譜の一部も欠損しているなど、超有名曲でありながら謎の多い作品でもあります。
〈K.626『レクイエム』〉──ミサ曲
作曲:V.A.モーツァルト
初出:130話(登場順は24番)
……第五楽章『奏でよ、悠久のレクイエム』の表題曲。
晩年の1791年に作曲された、モーツァルト最期の作品です。ヴェルディ、フォーレと並び「三大レクイエム」と呼ばれて名高いとされます。匿名依頼主フランツ・フォン・ヴァルゼック伯爵からの発注で制作されましたが、制作中にモーツァルトが死亡したため絶筆となり、弟子のフランツ・ジュースマイヤー等によって補筆完成しました。全体を通してモーツァルトの自筆と補筆の入り混じったパッチワークさながらの状態になっていますが、弟子の増補部分については「モーツァルトの意図を再現しきれていない」として評価が低いのが現状です。なお、モーツァルトは病床にありながら死の寸前まで作曲を続けていたといい、臨終の瞬間さえ「まるで口で自分の〈レクイエム〉のティンパニをあらわそうとしていたかのよう」だったと、義妹のゾフィーが証言しています。
〈K.522『音楽の冗談』〉──管弦楽曲
作曲:V.A.モーツァルト
初出:185話(登場順は33番)
……終楽章『音楽の冗談は別れの前に』の表題曲。
1787年作曲、作曲の目的は不明です。全四楽章からなる18分の曲で、天才作曲家モーツァルトの作品にもかかわらず全曲にわたって音楽的な誤りや統一性のなさにあふれています。素人作曲家の知識・技量不足、もしくは演奏する側の下手さを(意図的に)演出し茶化すためのパロディ作品であると考えられており、ユーモアやアイロニーを好んだと言われるモーツァルトの性格が色濃く表れている一曲です(「音楽の冗談」という曲名もモーツァルト自身が命名したものでした)。
〈K.304 ヴァイオリンソナタ第21番〉──室内楽曲
作曲:V.A.モーツァルト
初出:198話(登場順は36番)
……弦国管弦楽部が『ルミナス国際音楽コンクール』室内楽部門Ⅰ・自由曲として演奏した曲。演奏は美琴がピアノパート、松戸佐和がヴァイオリンパートを担当しました。
1778年に作曲されたと推定される、パリで書かれた二つの短調ソナタの一曲です。同年7月に母アンナ・マリアが死去しており、この曲はモーツァルトの人生の中でも最も不遇な時期に制作されました。そうした不遇な身の上への悲しみがどの程度影響しているのかは不明ですが、全二楽章からなるこの曲はモーツァルト作品としては珍しく短調を採用しており、異様な緊張感と暗さが漂っています。
【2】国立音大の出身者が関与している楽曲
〈Oriental Wind〉──管弦楽曲・協奏曲
作曲:久石譲
初出:5話(登場順は3番)
……弦国管弦楽部が入学式の入場曲として演奏した曲。茨木美琴がピアノソロを担当しました。
スタジオジブリ作品等でなじみの深い名作曲家・久石譲の作品です。タイトルを直訳すると「東方の風」となり、迫力あるオーケストラ曲でありながら日本的な美や風景を感じられる旋律が特徴的と言えるでしょう。サントリー株式会社の緑茶「伊右衛門」のCMとタイアップしていることから巷間での知名度は抜群に高く、またピアノソロやオーケストラアレンジ版も含めて十数に及ぶバージョンが存在します。本作作中で演奏されているものは、2005年に発売されたCD「FREEDOM PIANO STORIES 4」に収録されている、弦楽器やピアノを中心とした室内楽編成によるバージョンがモデルとなっています。
なお、作曲者の久石譲は国立音楽大学の出身者です。
〈『天地人』オープニングテーマ〉──交響曲
作曲:大島ミチル
初出:46話(登場順は14番)
……弦国管弦楽部が『立川音楽まつり』学生楽団演奏枠で演奏した曲。緊張しすぎた里緒はこの曲の演奏中に失敗を犯し、以降のトラウマの原因になってしまいます。
戦国武将・直江兼続の生涯を描いた2009年のNHK大河ドラマ「天地人」の主題曲です。テレビ・映画業界で数々の劇伴を手掛ける実力派の女性作曲家・大島ミチルが作曲を行い、NHK交響楽団が演奏を行っています。大島ミチルは女性作曲家とは思えないほどのパワフルな作品作りで有名な作曲家であり、本曲もその前評判に違わず、主題を彩る金管楽器のファンファーレや力強い打楽器など、交響曲であるにもかかわらず吹奏楽のオリジナル曲と聴き違えるほどの迫力あるサウンドが特徴です。
なお、作曲者の大島ミチルは国立音楽大学の出身者です。
〈鼓響・・・故郷〉──吹奏楽曲
作曲:天野正道
初出:80話(登場順は20番)
……芸文附属吹奏楽部が『東京都吹奏楽コンクール』自由曲として演奏した曲。113話と114話ではこの曲のCDを探しに守山奏良が立川の楽器店を訪れ、里緒と初めて対面しています。
秋田出身の作曲家・天野正道が、秋田吹奏楽団の創立30周年を記念して委嘱を受け、作曲した曲です。2005年の第27回定期演奏会で初演されました。「童歌」「奏春」「鼓響」の全三楽章からなり、曲中には秋田市の土崎地区に伝わる土崎港囃子をはじめ、わらべうたなどの多様な民俗音楽が織り込まれています。さらに第三楽章の祭囃子は、演奏者(演奏校)自身の地元に伝わる囃子に変更して演奏することも可能です。全体を通して伝統的な日本のふるさとの在り方を体現した曲であり、大楽団での演奏によって表現される静かな不気味さや柔らかな喜び、はたまた祭りの熱狂の中に、確かな命の灯を感じさせる仕上がりとなっています。
なお、作曲者の天野正道は国立音楽大学の出身者です。
〈ロマンスの神様〉──ポップソング
作曲:広瀬香美(作詞と歌唱も担当)
初出:130話(登場順は25番)
……弦国管弦楽部が野球部応援演奏で演奏した曲。
広瀬香美の3枚目のシングルとして1993年に発売された、「明るくノリのよい曲調のラブポップチューン」です。合コンでのロマンチックな出会いを求める本音丸出しのユーモラスな歌詞がアップテンポな楽曲と高く調和している曲ですが、もとは広瀬香美が中学1年時にピアノとヴァイオリンのための室内楽曲として作曲したもの。スキー用品を販売する株式会社アルペンのCM曲として採用されたほか、スキーゲレンデで流されることが多いため、冬の恋を歌う内容でないにもかかわらず冬のラブソングとして不動の地位を築いています。この曲をはじめとした数々のウィンターソングのヒットのために、広瀬香美はのちに「冬の女王」とまで呼ばれるようになりました。
なお、作曲者の広瀬香美は国立音楽大学の出身者です。
〈あすという日が〉──ポップソング
歌 :秋川雅史
初出:142話(登場順は26番)
……弦国管弦楽部が野球部応援演奏で演奏した曲。この曲の演奏中、熱中症を患った里緒が意識を失って倒れ、演奏の中断する騒ぎに発展しました。
2006年に開催された第30回全日本合唱教育研究会全国大会のために制作された曲で、詩人の山本瓔子が作詞、作曲家の八木澤教司が作曲を担当。2011年の東日本大震災で声楽アンサンブルコンテスト全国大会が中止に追い込まれた際、出場予定だった仙台市内の中学校が復興祈念として避難所内でこの曲を歌ったことで、同震災の復興支援ソングとして話題になりました。同年9月に秋川雅史と夏川りみが競作の形で同時にCDを発売し、この年のNHK紅白歌合戦でも歌唱されています。合唱向けに制作された曲だけあって歌いやすい言葉選びや音の運びとなっており、共感を呼ぶ歌詞も併せて高い評価を得た曲です。
なお、歌い手の秋川雅史は国立音楽大学の出身者です。
〈吹奏楽のための『ランナー・オブ・ザ・スピリット』〉──吹奏楽曲
作曲:久石譲
初出:161話(登場順は27番)
……国立WOが『サマーコンサート』第一部の最初に演奏した曲。コンサートの冒頭であるにもかかわらず「エンディング」が演奏されました。
毎年1月に日本テレビ系列で放送される東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)の中継番組、「新春スポーツスペシャル箱根駅伝」の主題歌です。オープニング・エンディングの2種類が存在し、久石譲が作曲を担当、演奏は東京佼成ウインドオーケストラが行い、2009年から番組内で使用されています。久石譲が吹奏楽の曲を作曲するのは初めてであり、なおかつテレビ番組の主題歌に吹奏楽曲が起用されるのも珍しいですが、これは学校の吹奏楽部でも広く演奏できるようにとの配慮によるそう。タイトルを直訳すると「魂の走者」となり、その名の通り選手たちの崇高な孤軍奮闘を強く想起させる、躍動感のあるドラマチックな曲です。また、大会実況中に流されるオープニングと、全大学がゴールに到着した後に流されるエンディングでは、曲の趣が大きく変わっています。
なお前述の通り、作曲者の久石譲は国立音楽大学の出身者です。
〈輝〉──ポップソング
作曲:佐橋俊彦
初出:161話(登場順は29番)
……国立WOが『サマーコンサート』第一部で演奏した曲。
2005年の特撮テレビドラマ「仮面ライダー響鬼」前期主題歌です。佐橋俊彦が作曲を担当。仮面ライダーシリーズの主題歌では珍しくインストゥルメンタル曲のため、歌詞はありません。同ドラマは「鬼」と称される仮面ライダーたちが楽器をモチーフとした武器で悪と対峙するストーリーとなっており、作品全体として和の要素や民俗的要素、さらには音楽をモチーフに組み込んでいます。そうした番組のオープニングとして制作されたこの曲は、各所に和太鼓の演奏による重低音をふんだんに散りばめ、覚えやすく親しみやすいテンポとメロディが特徴的であり、名曲として高評価する向きも多くあります。
なお、作曲者の佐橋俊彦は国立音楽大学の出身者です。
〈Circulating Ocean(循環する海)〉──現代音楽
作曲:細川俊夫
初出:165話(登場順は31番)
……国立WOが『サマーコンサート』第二部で演奏した曲。花音はこの曲の名前を読めませんでした。
ザルツブルク音楽祭の委嘱により作曲され、2005年の同音楽祭期間中、ワレリー・ゲルギエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団により世界初演された曲です。細川俊夫が作曲を担当し、日本では2007年にフランス国立リヨン管弦楽団によって初演されました。大海原をうねり沈みながら漂う海水の流れを表現したような大迫力の曲であり、激しく弾き奏でられる音の波は不気味にすら響きます。全九楽章で構成され、総演奏時間は24分にも及ぶもので、日本を代表する現代音楽作家・細川俊夫の代表作として評価が高いです。
なお、作曲者の細川俊夫は国立音楽大学の出身者です。またザルツブルクは、本作中たびたび言及のあるモーツァルトの出身都市でもあります。
〈韓国幻想曲〉──管弦楽曲
作曲:安益泰
初出:195話(登場順は34番)
……西成満が私設コンサートで演奏した曲。
1936年、大韓帝国出身の作曲家・安益泰によって作曲された曲です。総演奏時間30分に及ぶ管弦楽曲で、朝鮮半島の自然や文化をモチーフに据えたとみられる、民俗的な風情をまとった雄大な旋律と演奏が特徴に挙げられます。1948年以降、この曲の終曲部分のメロディに従前の国歌の歌詞を乗せたものが大韓民国新国歌「愛國歌(Aegukga)」として歌われるようになり、これが定着して現在に至っています。
なお、作曲者の安益泰は国立音楽大学(の前身にあたる東京高等音楽学院)の出身者です。
〈ピアノ協奏曲第5番『皇帝』〉──協奏曲
作曲:L.V.ベートーヴェン
初出:195話(登場順は35番)
……西成満が私設コンサートで演奏した曲。
名作曲家ベートーヴェンの絶頂期に当たる1810年に作曲された作品です。ベートーヴェンのピアノ協奏曲としては最後、かつ最大の規模を誇る作品であり、全三楽章からなり、演奏時間は40分にも及びます。一台の独奏ピアノが管弦楽の伴奏を力強く牽引する、非常に壮大で威風堂々とした曲で、その威容から同年代の作曲家ヨハン・バプティスト・クラーマーによって「皇帝」と称されるようになりました。当時は1809年オーストリア戦役の真っただ中であり、作曲中に皇帝ナポレオン率いるフランス軍によるウィーン侵攻が行われ、戦火を逃れながらの作曲活動となったことでも知られています。
なお、この曲は国立音楽大学出身の音楽評論家・宇野功芳が世界的ピアニストのエリック・ハイドシェック来日公演の際、自ら指揮棒をとって指揮を行った曲です。また、宇野功芳・エリックのいずれも、モーツァルトへの造詣が深い人物として知られます。
【3】立川ゆかりの曲
〈ルート66〉──ジャズ
作曲:ボビー・トゥループ
初出:27話(登場順は11番)
……弦国管弦楽部が『春季定期演奏会』で演奏した曲。
1946年、米国ペンシルバニア州生まれのジャズピアニスト、ボビー・トゥループによって作曲されたポップソングです。かつて広大なアメリカ合衆国の中東部と西部を結んでいた国道66号線(U.S.Route66)の沿道情景をモチーフとしており、観光案内的でコミカルな歌詞とシンプルで親しみやすいメロディが印象的な一曲。同じくジャズピアニストのナット・キング・コールによって歌われたことから一躍人気となり、米国を代表する定番ポップソングのひとつとなりました。また、本来はポップソングですが、ジャズナンバーとしての人気も高いです。
なお、東京都立川市と姉妹都市提携を結んでいる米国カリフォルニア州サンバーナディーノ市は、この国道66号線沿いに位置する交通の要衝でした。同市の国道66号線沿道はマクドナルド発祥の地として知られているほか、上述の〈ルート66〉歌詞中にもサンバーナディーノ市の名前が登場します。
〈BWV1068 管弦楽組曲第3番ニ長調〉──管弦楽曲
作曲:J.S.バッハ
初出:61話(登場順は15番)
……国立WOが『サマーコンサート』第三部で演奏した曲。
作曲家バッハが1730年頃に作曲した、当時の舞曲や宮廷音楽などの文化の集大成をなす作品です。バッハの生前にはそれほど注目されることはなかったものの、死後、後述する経緯で一躍著名な曲となりました。
序曲を含む全五曲で構成され、総演奏時間は20分から25分。このうち第二曲「アリア(エール)」の部分は弦楽器と通奏低音のみで演奏されています。この第二曲を、ヴァイオリニストのアウグスト・ヴィルヘルミがヴァイオリンのG線と呼ばれる弦のみで演奏できるように編曲した結果、この部分は〈G線上のアリア〉と呼ばれて世界屈指の著名クラシック曲として名を馳せるようになりました。非常にスローテンポで荘重なメロディが高い人気の要因であり、特に葬送や追悼などの場面での演奏が多いです。
なお、この〈G線上のアリア〉は地球の音楽文化を代表する一曲として、太陽系外探査を行っている米国NASAの宇宙探査機「ボイジャー」に搭載されたゴールデンレコードに収録されています。ボイジャー計画において2機打ち上げられた探査機のうち、2018年に太陽系を離脱したことが発表されて話題となった「ボイジャー2号」の開発には、立川市出身の米国人天文学者アラン・ヘールが参加していたことが知られています。
〈Electric Eye〉──ヘヴィメタル
作曲:ジューダス・プリースト
初出:161話(登場順は28番)
……国立WOが『サマーコンサート』第一部で演奏した曲。
イングランド出身のヘヴィメタルバンド、ジューダス・プリーストが1982年に発表したアルバム「復讐の叫び」の冒頭に収録された曲です。直前に収録されているインストゥルメンタル曲〈The Hellion〉と一体化しており、地続きに聴けるようになっています。管理社会の抑圧性を巧みに表現したSF的な歌詞と、歌詞に引けを取らない勇ましさと疾走感を持つメロディがファンの心を掴み、現在でもジューダス・プリーストの代表曲のひとつとして挙げられます。今日に至るまで多数のアーティストによってカバーされており、またジューダス・プリースト自身もライブの冒頭に高頻度でこの曲を持ってきます。
なお、立川市出身の女子プロレスラーであるアジャ・コングは、〈The Hellion〉およびこの〈Electric Eye〉を入場テーマ曲に用いています。
〈コンドルは飛んでいく〉──ペルー民族音楽
作曲:ダニエル・アロミア=ロブレス
初出:161話(登場順は30番)
……国立WOが『サマーコンサート』第一部で演奏した曲。
1913年、ペルー人の作曲家・民俗音楽研究家ダニエル・アロミア=ロブレスが伝承曲のメロディをモチーフにして制作した、サルスエラと呼ばれる歌劇の序曲です。フォルクローレ(中南米の民俗音楽)の代表例であり、インカ帝国の王女を主人公としたサルスエラの冒頭を彩ります。たいへん美しい旋律を持つことから、サルスエラが廃れたのちも序曲だけが単独で民俗音楽として定着し続け、多数のカバーを受けて少しずつ姿を変えながら、1960年代に米国のポピュラーデュエット歌手サイモン&ガーファンクルがカバーしたことで一躍有名になりました。
なお、この〈コンドルは飛んでゆく〉は前述の〈G線上のアリア〉同様、地球の音楽文化を代表する一曲として、太陽系外探査を行っている米国NASAの宇宙探査機「ボイジャー」に搭載されたゴールデンレコードに収録されています。
【4】中央線沿線のご当地メロディ
〈めだかの学校〉──童謡
作曲:中田喜直
初出:11話(登場順は6番)
……里緒がたびたび吹奏している曲。11話では多摩川の土手で、13話ではD組の教室で演奏しました。
1951年にNHKのラジオ番組で発表された童謡です。中田喜直作曲、茶木滋作詞。小川のなかを自由に泳ぎ回るめだかたちを学校の先生や生徒に例えて歌う歌詞が有名で、非常に歌いやすく配慮された作曲がなされていることから定番の童謡として現在でも人気があり、2007年には文化庁によって「日本の歌百選」に選ばれました。モデルとなっているのは、茶木滋が作詞当時に住んでいた神奈川県小田原市内を流れる荻窪用水です。『3歳になる息子が川の中のめだかを「めだかの学校」と例えたことが作品作りに繋がった』との逸話がありますが、本人の証言によればこれは事実ではありません。
なお、中田喜直が東京都三鷹市にゆかりを持つ人物であることから、JR中央線の三鷹駅では2010年からこの曲を発車メロディに用いています。
〈さくらさくら〉──歌曲
作曲:不明
初出:19話(登場順は7番)
……「腹式呼吸の出来を確認する」との名目で、京士郎が音楽の授業で生徒全員に歌わせた曲。里緒は力み、花音は音を外し、西元紅良は見事な歌唱を披露して喝采を受けました。
箏(琴)の練習曲として、幕末期に江戸で制作された曲です。作曲者は不明。主な歌詞は2種類あり、「やよいの空は~」から始まる歌詞の方が作曲当初のバージョンに当たります。いずれも桜の咲き誇る景観を詠んでおり、和の美を散りばめた旋律と歌詞が美しい曲です。また、昭和16年には文部省唱歌として国民学校の音楽教科書に記載されて普及したほか、現在に至るまで無数の替え歌が誕生するなど、童謡としても幅広い年代に支持され続けています。
なお、市内各所に桜の名所があることにちなみ、JR中央線の武蔵小金井駅では2006年からこの曲を発車メロディに用いています。
〈ユーミン・ポートレート〉──吹奏楽曲
編曲:真島俊夫
初出:27話(登場順は10番)
……弦国管弦楽部が『春季定期演奏会』で演奏した曲。
ポップシンガー松任谷由実の人気楽曲を作曲家の真島俊夫がメドレー形式で編曲し、吹奏楽の曲に仕立てたものです。「翳りゆく部屋」「あの日に帰りたい」「リフレインが叫んでいる」「朝陽の中で微笑んで」「卒業写真」「中央フリーウェイ」「雨のステイション」の7曲から構成され、総演奏時間は約8分。しんみりと郷愁を誘う曲から賑やかに盛り上がる曲までを見事に詰め込み、滑らかに繋いでいます。「演奏が楽しい」との声がよく聞かれますが、テンポや曲調がひっきりなしに変化するため、曲としてはやや高難度です。
なお、7曲目の「雨のステイション」のモデルとされるJR青梅線の西立川駅では、2006年からこの曲を発車メロディに用いています。また、6曲目の「中央フリーウェイ」は、JR中央線同様に東京都多摩地区を横断して山梨方面へ向かう中央自動車道をモチーフとしており、歌詞中には府中市など多摩地区の風景が登場します。
〈夕焼小焼〉──童謡
作曲:草川信
初出:38話(登場順は12番)
……里緒が多摩川の土手で吹奏した曲。
1919年に発表された中村雨紅の詩に、1923年に草川信が音楽を添えたことで完成した童謡です。古き良き田舎の家路の光景を詠んだ美しい歌詞と切ないメロディが調和し、国内でも最も親しまれている童謡のひとつとなっています。出版直後に関東大震災が発生し、楽譜の紙型を焼失するなど甚大な被害を受けたものの、奇跡的に13部の譜面が焼損を免れ、後世にまで歌として残り続けたという逸話があります。歌詞中にも現れる「小焼け」という単語の意味には複数の説があり、はっきりしていません。
作詞者の中村雨紅が東京都八王子市恩方村の出身で、恩方村の夕暮れの光景が〈夕焼小焼〉のモチーフになっていることから、JR中央線の八王子駅では2005年からこの曲を発車メロディに用いています。
〈闘魂こめて(巨人軍の歌)〉──球団歌
作曲:古関裕而
初出:74話(登場順は18番)
……弦国管弦楽部が野球部応援演奏で演奏した曲。74話では里緒が拓斗にせがまれ、個人的に演奏して聴かせています。
1963年に発表・制定された、プロ野球球団・読売ジャイアンツの公式球団歌「巨人軍の歌」3代目です。作詞は椿三平および西條八十によります。全国にファンを持つ球団の応援歌であることから全国的に知名度が高く、長嶋茂雄や王貞治などの名選手を抱えた巨人軍の黄金期を象徴する楽曲として、制定後50年が経過した現在もファンによって盛んに歌われ続けています。
読売ジャイアンツの本拠地・東京ドームの最寄り駅であることから、JR中央線の水道橋駅では2006年からこの曲を発車メロディに用いています。
〈『和声と創意の試み』〉──協奏曲
作曲:A.L.ヴィヴァルディ
初出:第三楽章Interlude(登場順は21番)
……弦国管弦楽部が一年前の文化祭で演奏した曲。第3曲(四季・秋)を演奏しました。演奏開始直前に芸文附属の生徒から酷評されたことで一年生部員の気が乱れ、演奏は失敗に終わっています。
1725年に作曲家ヴィヴァルディが発表した12曲のヴァイオリン協奏曲の総称です。このうち第1番~第4番までの四曲は一般に〈四季〉と呼ばれ、それぞれ「春」「夏」「秋」「冬」をテーマとした曲になっています。これらはすべて全三楽章から構成され、〈四季〉全体での演奏時間は40分間に及ぶという長大な作品です。作中に登場した「秋」においては、収穫の喜びに沸きながらブドウ酒を酌み交わす農民たちの姿や狩猟の光景などがリズミカルな弦楽の音色によって表現され、季節感の演出が非常に巧みです。
JR中央線の高尾駅では、この曲が一部のホームの発車メロディとして用いられています。
【5】その他
〈アメイジング・グレイス〉──讃美歌
作曲:不明
初出:Prelude(登場順は1番)
……高松瑠璃の愛好していた曲。作中冒頭で自殺直前の瑠璃が口ずさんでいるほか、10話および100話では里緒の“空耳”として登場し、自宅に閉じこもっていた里緒を多摩川の土手へと誘導する役割を果たしました。
英国牧師ジョン・ニュートンによって18世紀に作詞された讃美歌です。スコットランド民謡などを参考にして作曲されたと考えられているものの、作曲者は分かっていません。作詞者のジョン・ニュートンはかつて奴隷貿易に携わっていましたが、嵐で難破の危機に瀕し、必死に神に祈りを捧げたことから、やがて敬虔なクリスチャンとなって奴隷貿易への加担を後悔するようになり、この曲を作詞するに至ったと言われています。神に下賜された恩寵や命の崇高さを歌う歌詞の内容から、欧米(特にアメリカ)では葬送や追悼の際に歌われることが多いです。また、古今東西を問わず多くの歌手によってカバーされ、高い人気を裏付けています。
〈惑星〉──電子音楽
作曲:冨田勲
初出:69話(登場順は17番)
……紅良が音楽の授業の発表で扱った曲。授業中に実際にCDを再生し、「木星」を生徒たちに聴かせました。
1976年、世界的シンセサイザー奏者の冨田勲が発表した電子音楽作品です。世界的に有名なクラシック曲のひとつであるG.ホルストの〈組曲『惑星』〉をもとに、独自の解釈やストーリー要素を介在させながら制作されました。制作当時はホルストの死から日が浅く、〈『惑星』〉の著作権が失効していなかったため、ホルストの遺族を説き伏せるために関係者が奔走したと言われています。一貫して電子音や雑音のみを用い、全体を通じてSFチックな仕上がりになっているのが特徴。原曲の雰囲気を大きく崩すことなく電子音を束ねてひとつの曲群に仕立て上げた冨田勲のアレンジ力は国内外で称賛され、アメリカでは全米ビルボード・クラシックチャートで(電子音楽にもかかわらず)1位にランクインしたという破格の実績を持ちます。
〈クラリネットをこわしちゃった〉──童謡
作曲:不明
初出:118話(登場順は23番)
……クラリネットを吹くことができず焦る里緒を励まそうと、長浜香織が話のネタにした曲。本編連載開始半年前に作者のTwitterで公開された『クラリオンの息吹』連載開始予告画像でも、この歌の歌詞が引用されています。
ナポレオン施政下のフランスの行進曲〈La chanson de l'oignon(玉葱の歌)〉をもとにフランスで作詞・作曲された童謡です。作詞者・作曲者のいずれも不明で、制作された年や発祥の地さえ判明していません。日本には戦後にもたらされ、シャンソン歌手の石井好子による翻訳歌詞が有名です。父親にもらった楽器の音が出なくなるという深刻な状況を描く歌詞でありながら、サビの「オーパキャマラド」などコミカルな楽曲に仕上がっており、人気曲のひとつとして現在でも多くの人々に歌われています。また、フランス語版の歌詞の内容が日本語版と大きく異なっていることも有名です。
〈シェヘラザード〉──交響組曲
作曲:R.コルサコフ
初出:177話(登場順は32番)
……都立赤羽高校管弦楽部が『全国学校合奏コンクール』自由曲として演奏した曲。
1888年、作曲家コルサコフが完成させた交響組曲です。イスラム世界の逸話集「千夜一夜物語(または「アラビアンナイト」)」の語り手を務める国王の側近の娘・シェヘラザードの物語をテーマとしています。全四楽章、演奏時間45分にも及ぶ大曲ですが、コルサコフの作品の中では知名度が抜群のうえ、ロシアのオーケストラ作品としては最もポピュラーな存在でもあり、初心者向けのオーケストラ作品として広く知られています。
【本項の参考文献】
宇野功芳「モーツァルト 奇跡の音楽を聴く」(ブックマン社・2006)
福島章恭「モーツァルト百科全書 名曲と人生を旅する」(毎日新聞社・2006)
後藤真理子「図説モーツァルト その生涯とミステリー」(ふくろうの本・2006)
属啓成「モーツァルト《声楽篇》」(音楽之友社・1975)
アルフレート・アインシュタイン「モーツァルト その人間と作品」(白水社・1961)
ジル・カンタグレル「モーツァルトの人生 天才の自筆楽譜と手紙」(西村書店・2017)
ジャン=ヴィクトル・オカール「比類なきモーツァルト」(白水社・1991)
吉井亜彦「名盤鑑定百科 管弦楽曲篇」(春秋社・2007)
渡辺千栄子ほか「名曲解説全集4 管弦楽曲Ⅰ」(音楽之友社・1980)
小林緑ほか「名曲解説全集9 協奏曲Ⅱ」(音楽之友社・1980)
大久保一ほか「名曲解説全集11 室内楽曲Ⅰ」(音楽之友社・1980)
海老沢敏ほか「名曲解説全集18 歌劇Ⅰ」(音楽之友社・1980)
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