登場人物紹介【Ⅰ】 主人公・準主人公・高松家
おまけ編の第1弾は登場人物紹介です。全5回をかけ、91名の作中登場人物全員の詳細な紹介をしてゆきたいと思います!
なお、以下に簡単な登場人物相関図を用意しました。とても全員は網羅できていませんが、キャラクターたちのある程度の関係性が読み取れるかと思います。
第1回は主人公・準主人公・高松家。
メインヒロイン(里緒・紅良・花音)、高松家(大祐・瑠璃・雅影・織枝)の合計6人を紹介します。
■主人公
高松里緒〈たかまつりお〉
15歳(16歳)・女子 【木管セクション】
本作の主人公。一人称は「私」。東京都立川市の南部、多摩川沿いの都営団地に住む、高校1年生の少女。誕生日は9月23日で、作中冒頭では15歳だったが、終盤で16歳を迎えた。
弦巻学園国分寺高等学校女子部1年D組22番。管弦楽部のクラリネットパートに属し、美化係として活躍。高校2年からは楽譜管理係を務める。コンクール組での担当は独奏クラリネットパート。
【容姿】
黒いセミロングの髪をした女の子。もとは髪を長く伸ばしていたが、母・瑠璃の自殺を契機に彼女の髪形を真似て自分で切り、以来この長さを維持している。布団の中で身体を丸めて眠るなど寝相が悪く、寝癖がひどい。
高校1年4月の時点で身長は163cm、体重は(服を着こんだ状態で)44㎏であり、BMIを算出すると「痩せすぎ」の判定をされるほどに貧相な身体をしている。胸も真っ平らで、本人も「もう少し脂肪がついてもいい」と現状を憂えている。ただし食生活の改善された結果、作中終盤では多少なりとも肉のついた健康な身体を取り戻しつつある。
後述する理由から地味な格好を好み、私服のカラーバリエーションはモノトーンが基本。常に黒タイツやチラ見え防止の短パンを着用するほど徹底して露出を嫌がっており、丈の短い青柳花音の私服を着せられた際はしきりに周囲の視線を気にしていた。あまり可愛い方の顔立ちではなく、本人も魅力の乏しい平凡な容姿であることを自覚している。しかし終盤では意識改革が進み、可愛らしい服装にも手を出す姿が見られる。
物語終盤では西元紅良や花音とお揃いの髪留め(太陽の形)を着用しているほか、父・大祐が誕生日プレゼントに贈ったネックレスを外出時に愛用するようになっている。
【能力】
勉強は人並みにできる程度であり、総じて得意ではない。唯一の得意科目は英語で、中学1年時に英語検定4級を取得しているが、これは少なくとも弦国においては「人より多少テストの点が取れる」程度のアドバンテージでしかない。その一方で運動能力は皆無に等しく、後述する理由から乏しい食生活を送っていたので体力もない。そのため炎天下の演奏で激しく体力を消耗し、熱中症で倒れたこともある。また、自主練の中でブレストレーニングを重視してこなかったため、当初は肺活量も多くはなく、さらに作中では精神的な要因からたびたび過呼吸にも陥っていた。一方で事実上の一人暮らしを長く続けてきたことから、料理をはじめとした家事の能力は一通り備わっている。
最大の特技はクラリネットを吹奏できること。中学3年時に不登校になって以来、暇な時間の大半を練習に充ててきたため、その腕前は数々の生徒や大人たちを唸らせ、コンクールへの出場経験がなかったにもかかわらず独奏パートに名指しで抜擢されるほどの卓越さを誇る。
主に使用する楽器は、瑠璃の形見でもあるA管バセットクラリネット『Die=Sonne』。瑠璃の手ほどきを受けて楽器を吹くようになったため、当初の音は瑠璃譲りの「紙縒りのようにか細く、儚く、寂しい音色」だった。作中中盤、精神的に追い詰められたために一度は音を発することができなくなるが、合宿中にブレストレーニングに励んだことで肺が拡張され、また精神的な安定も取り戻し、結果として現在は「底無しに明るく力強い、開放的な音」を吹く能力を獲得している。
膨大な量の努力で実力を身につけた秀才型で、音色や音程に関しては文句のつけようがない。その一方で、周囲とテンポを合わせるのはやや苦手。これは、長らく孤独な練習に没頭し続けてきたために周囲と合わせるテクニックが磨かれなかったためでもあるが、暗譜に自信が持てないために指揮者ではなく楽譜を熱心に見てしまうことも大きな原因であり、このことから自他ともに「高松里緒は合奏より独奏向き」と認識している。
なお、使用するクラリネットが一般的な楽器よりも大型で重いことから、演奏時には必ず藍色のネックストラップを装着している。
【性格・趣味・趣向】
臆病な性格の持ち主で、重度の人見知りかつ対人恐怖症。基本的には「怖がり」の一言で説明できる人格を持つ。
怖がるものの対象は、怪奇現象やジェットコースターのように一般的なものから、友達や先輩のような人間関係、性、周囲の視線、大きな音、不意の声掛けに至るまで極めて多岐にわたる。驚くと奇声を上げて硬直し、場合によっては泣き出してしまう。また母・瑠璃の遺体の第一発見者でもあり、天井から首を吊って無惨にぶら下がる母親の死骸を間近に見てしまったことがトラウマとなった結果、自殺を企んでもフラッシュバックに襲われて最後まで遂行できないなど、強烈なまでの「死ねない呪い」に囚われている。
自尊心は皆無に等しい。目の前の相手に嫌われることを極端に恐れ、相手の気に障ったと感じると謝罪の言葉を連発する癖がある(作中での謝罪発言は延べ68回にも上る)。また自己主張も弱く、油断すると他人の意見に簡単に流されてしまう。中学時代にいじめに遭った経験から、当初は自分も含めた周囲の人間にほとんど期待を抱いておらず、常に分厚い心の壁の中に閉じこもり、苦しみや悲しみをひとりで溜め込みながら生きていた。こうした里緒の後ろ向きな性格は、父の大祐や母の瑠璃から受け継いでいる部分が非常に多い。
生来、傷つきやすく泣き虫な少女である。瑠璃の死去を機に「何があっても泣かない」という誓いを立て、実践してきた過去があるが、紅良や花音のように涙を見せられる親友を得たことで、作中中盤以降はふたたび泣き虫に戻っている。その反面「いくら泣いて助けを求めようとも、他人にできることには限界がある」という考え方も持っており、それゆえに本質的には生真面目で非常な努力家である。さらには思い込みが激しいために周囲の諫める声も耳に入らず、作中でも時おり自分の能力の限界を超えた無茶な努力をしては心身を壊しているほか、一度「自分はおしまいだ」と思い込むと自力で再起を図ることができないなどの重大な欠点も有する。しかしながら、平凡な成績の里緒が進学校の弦国に合格し、天才とまで称されるクラリネットの腕前を発揮しているのは、その盲目的な努力の結果でもあると言える。
上記のように社交性は悲惨だが、本来は優しい性根の持ち主。友人や知人が苦しんでいれば口下手を承知で必死にフォローに回り、また拓斗のような幼少の子には笑顔を欠かさずに接するなど、人見知りでありながらお人好しの一面も見られる。そうした性格を買い、作中でも多くの人物が里緒のことを好んでいるが、里緒自身はそのことに気づいていない場合が大半である。
好きなことには「散歩」や「空を見ること」を挙げるなど、クラリネット以外は無趣味に等しい。小学校の頃は自宅からまっすぐに帰宅するタイプだった。可愛らしい服装には憧れるものの、着飾った経験が少ないためにファッションセンスが乏しく、さらに目立つことを極端に恐れているため、結果的に黒や灰色の服ばかりを選んでいる。ただし黒ばかりでなく青色も好んでおり、野球部の応援時には青色のドミノマスクを着用していた。
料理の能力は十分にあるものの、必要だからしているだけで好きなわけではない。「簡単に作れるから」という理由で、好みの献立にはカレーライスを挙げる。食卓が寂しいと食欲が失せるため、ひとりで食べる食事はそもそも好きではない。
性への関心はないわけではなく、孤独感を埋め合わせるためと称して人に言えないような趣味も隠し持っている。その一方、中学で男子からの身体暴力を受けていたため男性が苦手で、特に見知らぬ男性に対しては(二次元であっても)激しい抵抗感を覚える。恋愛経験は皆無であり、自分に異性としての魅力があるとも思っていない。
クラリネットを愛好している理由は、当初「吹いている間は瑠璃のことを思い出していられる」というものだったが、音の出なくなる騒動を経て意識の変わった今は「音色が好きだから」へと変化している。暇さえあれば基礎練習や練習曲の吹奏に打ち込むなど、作中終盤に至っても里緒のクラリネット愛は健在である。
【経歴】
出生は東京都豊島区の病院。瑠璃は21歳の若さで里緒を出産しており、しかも早産だったために里緒は身体が未成熟のまま出生している。里緒の身体が弱いのはこのためでもある。
小学校卒業時まで池袋の周辺に住んでいた。重度の人見知りや対人恐怖症のために交友関係は希薄であり、この時点で早くも孤独感を募らせていた。小学5年時、見かねた瑠璃が自身の得意だったクラリネットを教えてくれるようになり、これが後に里緒の特技になっている。
中学進学と同時に大祐の都合で仙台に引っ越し、仙台市立佐野中学校に通学し始める。ここでも人見知りや対人恐怖症を発揮したが、吹奏楽部に入部するなどして少しずつ人の輪を広げ、「幸せな人間関係を一から作る」ことを目標にして懸命に周囲と向き合った。しかし中学2年時にいじめを受け始め、部活にも行けなくなり、さらに心の支えだった瑠璃が中学3年の春に自殺したため、ついに心が壊れて不登校に陥る。「目立ちたくない」という思想や強い自己否定意識は、これらの出来事から身につけたものである。最終的には作中終盤で過去を振り払うことに成功するが、それ以前の段階では、こうした苦痛の記憶が心に黒々と染み付いて里緒のトラウマになっており、時おりフラッシュバックを経験しては過呼吸に陥っていた。
高校入学後はふたたび一念発起し、新たな環境に馴染んで友人関係を広げようと努力するものの、生来臆病であるうえ、前述のトラウマのために各所で踏ん切りをつけられず、青柳花音や西元紅良以上の交友関係を広げることはできなかった。友達や部活仲間同士が仲良くする姿を目の当たりにするたびに疎外感を深め、さらに部活での失敗の責任を背負うなどして精神的に孤立していった結果、『仙台母子いじめ自殺事件』の報道騒ぎにメンタルが耐えられず瓦解。これによりクラリネットが演奏できなくなったのみならず、父の大祐を含む周囲の人々ほぼ全員と絶縁状態に陥り、未来を悲観して泣きながら複数回にわたって自殺を試みるなど、完全に破滅してしまう。
しかし数日後、瑠璃の演奏の幻聴を耳にして自宅を飛び出したところを花音と紅良に保護され、状況は一変。二人の強引かつ献身的な心の介抱により、胸に溜まっていた毒をすべて吐き出した里緒は、次第に周囲の人々と向き合う余力を取り戻してゆく。臨時合宿を通じて部員たちとのわだかまりを解消し、また青柳家を介して大祐との絶縁も解消された結果、クラリネットの演奏能力が復活。さらに西成満との出会いを通じて、自らの持つクラリネットの秘密や瑠璃の自殺の真相を知らされ、それにより心のもやがようやく消失する。以降は部の仲間たちとも親交を深めつつ、自らの意思で参加を決めたコンクールの練習に邁進。本番前の緊張で食欲がなくなり、また精神的に追い詰められたことで悪夢を見るなどのトラブルにも見舞われたものの、最終的にはコンクールでの自らの役割を立派に果たし、さらに幻想の中で瑠璃の魂と再会して、過去の忌まわしい記憶を完全に清算する。
その後は“ただ単に気弱で泣き虫な普通の女子高生”として、半ば生まれ変わったかのようにクラスにも次第に馴染み、無事に高校2年への進級を迎えている。
【人間関係】
幼少期から両親を溺愛している。母・瑠璃は、亡くなる瞬間まで里緒の心の支えであったため、自分が瑠璃の自殺の原因だったと誤解した際には猛烈なショックを受け、贖罪のために自殺を企てるほど追い詰められた。父・大祐とは、瑠璃の死をきっかけに互いに心のゆとりを失い、一時的に疎遠になったが、里緒が音を失った騒動を契機にして少しずつ心の距離を埋め、最終的には瑠璃の生前以上に深い親子愛を育みつつある。
クラスメートの大半とは没交渉だったが、西元紅良・青柳花音とは大親友とも呼べる関係を築いている。また、数多の騒動を起こした里緒は校内の有名人と化しているため、クラスメートたちは里緒のことを認識しており、北本芹香のように友達でない子からも話しかけられる場面が多い。クラス担任の須磨京士郎とは音楽の授業や管弦楽部でも交流があり、安心して頼れる大人の一人である。
管弦楽部での立ち位置は「心の脆いクラリネットの天才」であり、多くの部員から様々な気遣いを受けてきた。同じ美化係に属する白石舞香や長浜香織、学年代表の藤枝緋菜とは特に仲が良く、香織の卒業の際には舞香とともに悲嘆を深めている。また、同じ楽器を吹くライバルでもある一学年上の茨木美琴とは、紆余曲折を経て互いの最良の理解者になりつつある。当初、美琴は一方的に里緒を敵視しており、里緒の側も美琴に対して著しい苦手意識を持っていたが、コンクール演奏後には真っ先に美琴が里緒のもとへ駆けつけて肩を支え、その美琴に対して里緒は「生きててよかった」と涙ながらに本心を吐露するなど、先輩と後輩の間柄以上に深い信頼関係が構築されている。
多摩川の土手を練習場所としており、近隣のこども園に息子を通わせる紬とは一時的に仲良くなったが、いじめ報道を機に距離を置いてしまった。しかし里緒が壊れた心を回復させたことで、最終的には和解を果たしている。ともにピクニックにまで出かけるなど、関係の修復は順調に進みつつある様子が伺える。
【その他】
「里緒」という名前を考案したのは瑠璃で、名前の由来は「誰かの心のふるさとになれるような子に育ってほしい」「人と人、あるいは人と幸せを、決してほどけることのない糸でつなぎ止め、誰からも愛される存在になってほしい」というものだった。
■準主人公
西元紅良〈にしもとくらら〉
15歳・女子
高松里緒の友人。一人称は「私」。東京都立川市の立川駅南口に立つ超高層マンションの一室に住む、高校1年生の少女。
弦巻学園国分寺高等学校女子部1年D組25番。市民吹奏楽団『国立北多摩ウインドオーケストラ』に所属し、2ndクラリネットパートとして活躍。高校2年時からは新入団員の指導も担当する。
【容姿】
背が高い。胸も大きくスタイルもよく、典型的なモデル体型をしている。さらに顔もよく、初対面の高松里緒からは「凛々しくて美しい」と評されたほか、終盤ではスマートな外見と凛々しい風貌を買われ、文化祭のクラス出し物の演劇に王子役として出演させられて好評を博した。「普段からこんなもん」と称しながらクールで大人びた私服をまとって待ち合わせ場所に現れるなど、独特の大人っぽさは服のセンスにも表れている。
長い黒髪をストレートで垂らしており、髪留めの類いは常用しない。しかし作中終盤では、里緒や青柳花音とお揃いの髪留め(月の形)を着用している。
【能力】
基本的には才女であり、勉強、運動、芸術や趣味に至るまで、能力面にいっさい不足は見られない。里緒とは違う天才型で、何でも卒なくこなしてしまう器用さを持ち合わせる。本気を出さなくとも成績を出せる余力があることから、体育の授業ではしばしば手を抜いている。また、勉強を教えるのは得意だが、青柳花音のように大人しく話を聞いてくれない子の前で説明するのは好きではない。人前で発表したりスピーチをすることには抵抗がなく、里緒がテンパった自己紹介も平然とこなしていた。語彙力が豊富であることから、毒舌のバリエーションも非常に豊かで、花音との激しい言い合いは女子部1年D組の名物と化している。
遊んだ経験が乏しいことからゲーム全般に慣れていないものの、盤ゲームや一人でプレイするアーケードゲームのルールは一通り心得ており、人並み程度には強い。アーケードゲームに関しては、具体的な身体の動きを伴うプレイスタイルの音楽ゲームが得意である。
吹奏するクラリネットは高校生としては中位~上位の腕前を持ち、国立WOのベテランたちと比べても引けを取らない。また歌唱力が高く、初回の音楽の授業では伴奏者の京士郎を驚かせるほどの美しい歌声を披露してみせた。さらにはピアノの演奏もでき、鴨方つばさには「ピアノ向きの指」をしていると評価された。
【性格・趣味・趣向】
表面上はクールで知的、皮肉屋である。後述する理由から名前を呼ばれるのを嫌がり、わざわざ苗字で呼ばせるなど、周囲との距離を一定に保って深入りしようとしない傾向にある。ツッコミ気質でもあり、花音や翠たちのボケに律儀に付き合う場面も散見される。たびたび毒舌を吐くが、中には照れ隠しや当惑によるものもある。また、ノリのいい方ではないが、言動が強めのため、自分が場の空気を作る側に回ることが多い。毒舌家なので言い争いに発展することも多く、頭に血が上ると冷静さを失いやすいタイプでもある。
中学時代に周囲と意見の対立を何度も起こした経験から、自分は価値観のずれた人間なのだという自覚を深めている。クールな振る舞いをしているように見えるのは、実際には他者から理解されるのを諦め、冷めた目で友人たちを観察・評価しているためである。それゆえ、他者を突き放す言動が多いが、心の奥底では理解者になってくれる存在を探し求めており、里緒が紅良の価値観に理解を示した際には無自覚に舞い上がり、その後も里緒に強く惹かれ続けた。
基本的には意志が強く、大切に思った人に対してはあらゆる形で心を配り、サポートし続けようとする。身体接触が好きではないので言葉を用いて励ます(または諫める)場面が多く、花音には「聞き手に不安を覚えさせない安定感がある」と、北本芹香には「紳士的な優しさ」と評価されている。いざとなれば身体を張って危険から守ろうとする勇敢さもあり、特に里緒からの信頼は篤い。その反面、背水の陣に自分を追い込むことで緊張や自信の喪失を解決するなど、自身に対してはストイックな一面も持ち合わせている。
必要と感じた教科に関しては自発的に教材を買って勉強するなど、上記の意志の強さは日々の生活にも表れている。その一方で必要性を感じないものには手が伸びにくく、趣味らしい趣味はほとんどない。中学時代に遊ぶ友達を次々と失ったことから、一人でプレイするゲームや遊びには高い関心を持っている。何も予定のない日には楽器持ち込み可のカラオケ店に入ってクラリネットを吹く、または普通に歌う、もしくは自宅に据え置きのアップライトピアノを適当に弾いたりするなどの手段で時間をつぶしている。
「紅良」という名前は「何となくよさげ」という適当な理由で与えられたものであり、紅良自身はこの名前を忌み嫌っている。紅良を下の名前で呼ぼうとして却下された人物は、つばさや翠、神林紬、青柳千明など数多い。ただし里緒にだけは、作中最終盤で下の名前の呼び捨てを許している(同時に紅良も里緒を下の名前で呼び始めている)。
【経歴】
多忙な両親の下に生まれ、当初は弦国のキャンパスのある国分寺市に住んでいた。奔放な両親は紅良を邪険に扱うばかりであり、上記の命名の件を含め、紅良は両親からの愛情をほとんど感じずに育っている。そのため、自尊心や人付き合いの根本が養われず、小学生の頃から友達を作るのも不得意だった。
進学した国分寺市立第六中学校では吹奏楽部に入部。よりよい音楽を追求しようと自分なりに奮闘するものの、学年が上がるにつれて価値観の合わない仲間たちと対立を繰り返すようになり、しまいに嫌気が差して退部してしまった。周囲に対する徹底的な諦めは、この出来事を機に抱いたものである。
この諦めのスタンスは高校入学後も引き継がれ、当初は里緒や花音に対しても明確に心の壁を築いていた。しかし、里緒という共通の友人を持ったことで花音とは次第に相互理解が進み、さらに里緒自身が紅良の価値観を尊重してくれたため、二人の前では徐々に気を許し始める。作中中盤、いじめ事件の余波で心を病んだ里緒に関与を拒絶され、一時的には激しい自己不信に陥るが、里緒を支えられるのは自分たちしかいないと一念発起して花音を巻き込み、死の淵に立っていた里緒を救出。頑なな里緒の心をこじ開けて苦しみを解放させることに成功し、名実ともに親友を取り戻す。以降、二人を心の支えにしながら国立WOでの活動を続けるとともに、かつて仲違いを繰り返し続けた守山奏良とも時間をかけて向き合うようになる。そのクールで生真面目な性格は周囲にも段々と理解され始め、終盤ではクラスメートたちの中にもすっかり馴染んでいる姿が見受けられる。
【人間関係】
クラスメートの高松里緒と青柳花音は、同じ楽器を吹く仲間であり、深いレベルで心を通わせる大切な親友でもある。ただし紅良自身の認識としては、里緒は自身の理解者、花音は頼れる存在であり、役割が異なっている。自分を突き放して消えた里緒を憂い、それまで対立の多かった花音と手を結んで里緒を救い出そうとしたことが、その後に紅良の性格を大きく変える契機となった。
同じくクラスメートであり、国立WOに属する仲間でもある鴨方つばさや津久井翠とは、初めは距離を置こうとしていたものの、三人で練習に向かう場面が多くなるなどして次第に親交が深まっている。その他のクラスメートについては友人関係こそないものの、スタイルの良さや歌声なども相まって一定程度には知名度や人気があり、またクラスメートたちからは花音とセットで「里緒の親衛隊」とも認識されている。
須坂令子をはじめとする国立WOのクラリネットパート仲間からも目をかけられている様子がある。里緒の一件で心身が疲弊していたために新人歓迎会を欠席するなど、目下のところ紅良は彼女らの捧げる好意に応じていない。
高校進学と同時に立川市に移住したため、かつて中学時代に対立した吹奏楽部の子たちとは実質的に絶縁状態にある。唯一、近隣の芸文附属に通学する守山奏良とは、たびたび国分寺の街で鉢合わせ、そのたびに様々な人を巻き込みながら口論を展開している。当初は互いに頑なな態度を崩さなかったものの、中盤から終盤にかけて相互理解が進み、最終的には仲良く(?)ゲームセンターに赴くまでに関係が修復された。
青柳花音〈あおやぎかのん〉
15歳・女子 【木管セクション】
高松里緒の友人。一人称は「私」。東京都国立市の南部、南武線沿線の一戸建てに住む、高校1年生の少女。養子縁組前の名前は合川花音〈あいかわかのん〉。
弦巻学園国分寺高等学校女子部1年D組1番。管弦楽部のクラリネットパートに属し、楽器運搬係の一員として活躍。高校2年からは楽器管理係を務める。
【容姿】
里緒や西元紅良と比べると小柄で、高校1年の4月の時点で身長は157㎝、体重は47㎏ある。元運動部のため身体は筋肉質で、紅良とは違う意味でスタイルがいい。里緒と比べれば胸もかなり大きい。高校2年の進学時には体重のみ3㎏増加し、本人も「太っただけ」「成長してない」と嘆いていた。
耳の後ろで二つ結びにした黒髪がトレードマーク。髪留めのゴムには黄色い星型のアイテムが取り付けられており、この星が花音のメッセージアプリのアイコンにも使われている。終盤では里緒や紅良とともにお揃いの髪留め(星の形)を着用している。
服のセンスはやや幼く、可愛らしい。全体的に丈の短いものが多く、制服のスカートも折っている。
【能力】
弦国の入試を補欠合格で突破した経緯があるなど、勉強は大の苦手。その一方で運動は得意であり、中学校ではテニス部に在籍して活躍していた。重量のある楽器を男子に混じって持ち運ぶ、町中を走り回って里緒を探す、炎天下の球場でクラリネットを平然と取り回すなど、作中でも持ち前の体力をあちこちで発揮している。朝の早起きは得意。
クラリネットに関してはまったくの初心者であり、仲良くなった里緒の奏でるクラリネットに憧れて管弦楽部に入部した。その後も地道に練習を重ねた結果、平均的な高校生奏者レベルの演奏はできるようになっている。また物覚えがよく、基礎指導に当たった美琴を感心させるほどに飲み込みが早い。
独特のネーミングセンスを持ち合わせており、「イチャモンロング・悪元(西元紅良)」「ねむりん(津久井翠)」「キョンシー先生(須磨京士郎)」「クレームセーラー(芸文附属)」などの奇天烈なあだ名を次々と考案している。自身のクラリネットのことは「バトンちゃん」と呼んでいるほか、塞いでしまった里緒の心を力づくで開かせる作戦には「天岩戸作戦」と命名している。
【性格・趣味・趣向】
表面上は快活で天真爛漫、前向きで朗らかな少女である。明るい言動で場の雰囲気を盛り上げることの多いムードメーカータイプの少女であり、クラスや部内にも友達が多い。褒められると調子に乗りやすく、「だって花音様だから!」が口癖(作中では18回「花音様」と名乗っている)。また、基本的に愛情表現をためらうことがなく、人前だろうと平気で里緒にじゃれつく。部の先輩を敬愛するあまり、弦国管弦楽部にたびたび嫌味を吐く芸文附属の生徒たちを「クレームセーラー」と呼んで声高に罵倒するなど、情熱的かつ直情的な一面もある。紅良とのケンカは日常茶飯事だが、口論では紅良にまったく太刀打ちできないため、終盤では暴力に訴えて解決するという進歩(?)も見せ始める。
幼少期に母親に捨てられて児童養護施設で育ったことから、「捨てられる」ことに対して人一倍の恐怖心がある。そのため、仲良くなった子に深く依存し、「この人は私を嫌わないでくれる」と過度に期待してしまう傾向がある。依存の相手だった里緒から関与を拒絶された時は、三度目の「捨てられる」を経験して絶望に暮れ、自暴自棄になるほど心を病んだ。普段から明るく振る舞っているのは、他者から愛されたいという強い欲求の表れでもあり、そうした花音の現状を父の晴信は「今でも心配なところがある」と不安視している。現在の家族仲が良好なのも、両親が「捨てられる不安」を払拭してくれる存在であり続けていることが大きな要因である。
養子となって引き取られた当初、花音との信頼関係構築のために千明がショッピングモールへ遊びに出かけたり家族でゲームをする機会を多く設けたことから、現在でもショッピングや自宅でのゲームが大好き。また、施設の館内を流れる音楽でいつも孤独を癒していたため、以前から音楽が好きで「高校に入ったら音楽の部活に入ろう」と決めており、それがのちに里緒や紅良との出会いに繋がった。
可愛い服や小物へのこだわりが強い。また、夢見がちな一面があり、自室には大量の少女漫画が並んでいるほか、他人の恋愛事情にも興味津々である。ただし本人は「こんなに誰かのことを大切に想ったことは一度しかない」ほど里緒に夢中であり、目下のところ恋愛の気配はない。
【経歴】
3歳の時、生母に捨てられた。以降8年間を武蔵野市内の児童養護施設『ひかりの家』で暮らしながら、物心がつくに従って「捨てられた」「私は要らない子だった」との認識を深め、次第にそれが大きなトラウマになっていった。
依存先を求める心が大きく働いたため、施設内で仲良くなった市原清音とは互いに「花音お姉ちゃん」「清音ちゃん」と呼び合う姉妹同然の仲を築いた。しかし、10歳の時に清音が両親に引き取られ、花音は二度目の「捨てられた」を経験。トラウマが激しくぶり返し、塞ぎ込んでしまう。
11歳の時、不妊治療に失敗して出産を諦めた青柳夫妻が、施設のある武蔵野市の児童相談所で養子里親登録を行う。その後、この児童相談所が夫妻に花音を紹介し、当の花音も同意したことで普通養子縁組が成立。不慣れながらも普通の家庭に迎え入れられた花音は、“合川”の苗字を捨て、青柳花音として新たな再スタートを切る。両親の甲斐甲斐しい世話もあって明るさを取り戻して以降は、中学生活を危なげなく謳歌し、弦国入学に至る。
高校入学後も持ち前の明るさを遺憾なく発揮し、多数の友達を獲得。中でも大人しくて甘えやすい里緒にはどんどん傾倒を深めるとともに、当初は気に入らない存在だった西元紅良とも次第に距離を縮めてゆく。ところが里緒は花音の愛情をまったく受け取ろうとせず、いじめ事件の余波で心を痛める頃には花音の支えの申出すら受け取らないようになり、最終的には心配のあまり里緒を庇おうとした花音を拒絶した末、失踪。一連の出来事で里緒に捨てられたと思い込んだ花音は、失意のどん底に転落してしまう。紅良とともに行動を起こして里緒を救出し、強引に心を開かせたことで、三度目の絶望に染まる事態は辛うじて回避された。
その後、復活を果たした里緒と紅良との間に強固な信頼関係を育んだことから、これを成功体験にして「捨てられる」ことへの恐怖心も徐々に薄れ、終盤ではかつて自分を「捨てた」相手である市原清音とも真正面から向き合えるようになりつつある。持ち前の明るさは完全によみがえり、ふたたび部内やクラス内でのムードメーカーとしての地位を取り戻している。
なお、普通養子縁組に伴う引き取りにあたっては、実の両親の意向を確認する必要がある。そのため、花音のいた児童養護施設『ひかりの家』は、現在でも花音の実母とのコネクションを持っている可能性が高いが、花音がこの事実に思い当たっている様子はない。
【人間関係】
クラスメートであり部活仲間でもある里緒には、「一番の友達」を自称するほどの親近感を抱いている。出会った当初、紅良とは価値観の違いで対立したが、今は互いに深い信頼を結ぶ良き友人である。ただし紅良とのケンカや口論は絶える気配がない。
里緒よりも早い段階で友達になった隣席の北本芹香、運動の得意な者同士で通じ合う後席の一戸美怜など、クラス内には友人が多い。同様のことは管弦楽部にも言え、白石舞香や浪江真綾、藤枝緋菜、川西元晴など多くの仲良しがいる。クラスメートや管弦楽部の仲間たちからは、紅良とセットで「里緒の親衛隊」とも認識されている。
前述の通り両親との関係は非常に良好。また、直属の指導係である美琴を含め、二年生の部員たちからは特に目をかけられている。
かつて施設で一緒だった1歳下の市原清音とは、作中後半で数年ぶりに再会。当初はトラウマを恐れた花音の側が関わりを拒絶してしまったものの、時間をかけてわだかまりを解消し、終盤では普通に接することができる程度の関係が回復している。
■高松家
高松大祐〈たかまつだいすけ〉
38歳・男性
高松里緒の父親。一人称は「俺」。
岡山県岡山市北区の出身で、弟と妹がいる。鈴懸学院大学経済学部を卒業後、株式会社ラックタイムス経理部制度連結課に勤務中。東北支社への勤務経験があるが、後述する理由で自己都合異動を申し出て東京本社に戻っている。社内部活動ラックタイムス・フィルハーモニー交響楽団に所属していた時期があり、作中でも終盤で再加入。担当楽器はホルンである。
背の高い痩せ型の男性。自他ともに認める地味な容貌の持ち主で、大学3年時に瑠璃と出会うまでは異性との交際経験が一切なかった。ファッションセンスには自信がなく、里緒への誕生日プレゼント選びには同僚の新発田亮一に同行を願い出ている。
新規設立された支社のスターティングメンバーとして東北に派遣されるなど、経理部内ではもっぱら仕事のできるエリートとして見られている。高校以前からのホルンの経験者であり、パワーのある大音響が自慢。大学在学中にはインカレ吹奏楽サークル『Reunion』に所属しており、Reunionのメンバーからは「繊細さが足りない」との評価を受けていた。ごく簡単ながらピアノの演奏もできる。
容貌ばかりでなく性格も地味で、周囲に関心を持たれることの少ない人生を送ってきた。そのため臆病で弱気なところがあり、瑠璃が明らかに好意を見せてきてもなかなか応えることができなかった。しかしながら瑠璃のひそかに抱えていた苦悶を受け止め、恋仲になって以降は、「俺がこの人を守らなきゃいけない」と一念発起。少なくとも瑠璃や愛娘の里緒の前でだけは、頼りがいのある立派な父親として懸命に振る舞っている。
ただし生来の弱気な部分はまったく直っておらず、瑠璃の自殺を機にその弱さが表面化。里緒を遠ざけるようになり、高松家がぎくしゃくする原因の一端になってしまった。他人に弱みを見せるのは今も昔も苦手であり、頼るべきところで瑠璃や同僚たちを頼れなかったことを後年に悔いている。その一方で、交際経験の少なさゆえに極めて一途でもある。瑠璃のことは死ぬまで溺愛を続け、作中後半では疎遠になっていた里緒とも和解を果たし、やや不器用ながらもまっすぐに愛情を注げるようになった。
勤務が忙しく、会社やビジネスホテルに泊まり込んで自宅を空けることが多かった。瑠璃の自殺後は里緒との間に距離感が生まれ、自宅に帰らない傾向がいっそう強まったものの、それにより里緒の心の容態を掴めなくなったことが里緒の精神破綻に繋がり、青柳千明から叱責を受ける。のちに千明の助言で自宅へ帰る習慣をつけるようになり、終盤でも定時で帰宅する習慣をきちんと継続している。また、以前はタバコを愛用するヘビースモーカーだったが、これも以前から瑠璃に煙たがられており、終盤で里緒の誕生日を祝った際にタバコとの決別をきっぱりと口にしている。好みのブランドは『blossom』。
Reunionでは瑠璃ともども「高松ペア」と呼ばれ、似合いのカップルとして周囲に愛されていた。孤独感に苛まれていた瑠璃を支えたことがきっかけで交際を始め、その後に妊娠が発覚したため急遽プロポーズし、結婚。その際に親族全員から縁を切られたものの、のちに大祐の両親とは復縁を遂げている。一家の大黒柱としてラックタイムスで働きながら妻子を養ってきたが、4年前に東北支社への移動が決定し、一家そろって仙台市に引っ越す羽目になる。里緒や瑠璃がいじめに遭うようになってからは家庭の問題にも対応しなければならなくなり、家のことにかまけて勤務態度がおろそかになったところを東北支社の社員たちから厳しく咎められ、さらにパワハラを受けるようになった。このため、東京本社への自己都合異動を申し出て、現在に至る。
東京で新生活を初めて以後も里緒とは一定の距離を置き、裁判提起による反撃のチャンスをひそかに窺っていたが、日産新報社をはじめとする報道各社の暴走により企みは破綻。さらに里緒との間にも決定的な亀裂が生まれ、一時は会社を休んで塞ぎ込んでしまう。しかしながら里緒が青柳家に保護され、新発田亮一など同僚たちの支えもあって会社に復帰して以降は、自らを取り巻く数多の問題に徐々に向き合い始める。やがて神林紬との対面を経て日産新報社に取材を許し、遺族としての立場を発信し始めるとともに、合宿を終えた里緒とも家族生活を復活し、さらに西成満との対面を経て瑠璃の死の真相に触れ、誰にも白状できなかった仙台支社でのパワハラをようやく吐露。その後は依然として人付き合いの苦手な面影を残しつつも、ラックタイムス経理部の一社員として、また高松家の父親として、現在は精神的に安定した生活を送りつつある。
現在は里緒との関係は良好で、互いに家事を分担しあいながら高松家を支えている。終盤で仙台を訪れた際には里緒が大祐を盾にし、大祐も里緒をかばう形で振る舞うなど、互いを結ぶ信頼は瑠璃が生きていた頃よりも強固になりつつある。新入社員研修以来の親友である亮一とは、東京本社への再異動後に再会。精神的に追い詰められて休みを取った際に「どうして頼らなかった」と詰問されるなど、亮一からは非常に気をかけられており、事件の収束後は楽団仲間としても仲の良い信頼関係が続いている。新聞記者の神林紬に対しては当初は大変な反感を持っていたが、紆余曲折を経て協力関係のようなものに発展。病床から目覚めない夫の帰りを待つ紬の身の上に次第に同情しつつあり、作中終盤では「紬さん」と呼ぶまでに関係が改善した。
高松瑠璃〈たかまつるり〉
享年35歳・女性
高松里緒の母親。一人称は「私」。
研心大学短期大学部子ども学科を卒業後、大祐と結婚。定職には就かず、主婦として里緒や大祐を支えてきた。誕生日を目前にして35歳で自殺し、現在は故人。
ボブカットの黒髪、おっとりして可愛らしい顔立ちの持ち主。ゆとりのあるマキシスカートを好み、終盤でもこのスカートを着用した格好で里緒の前に現れる。
高校の吹奏楽部でクラリネットに出会い、以来19年間、クラリネットが唯一の得意楽器だった。好きな曲は〈アメイジング・グレイス〉。所有していた楽器は西成満に移譲されたA管バセットクラリネット『Die=Sonne』で、里緒に譲ることを遺書に明記していた。「紙縒りのようにか細く、儚く、寂しい音色」が自慢で周囲からの評価も高かったが、これは実際には腹式呼吸の不得意な瑠璃が仕方なく編み出した演奏法に過ぎず、所属していた吹奏楽サークル『Reunion』のメンバーには「パワーが足りない」とたびたび指摘されていた。Reunionで大祐と出会い、ともに苗字が高松であったことから「高松ペア」と呼ばれて可愛がられた過去がある。
柔和で争いを好まない性格の持ち主。容姿・立ち振る舞いともに魅力的な女性であったことからReunion内の男子団員には大人気だったが、実際には大祐以上に人付き合いの苦手な人物であり、短大でも周囲から孤立し、息苦しい日々を送っていた。よこしまな感情を持たずに優しくしてくれた大祐に惹かれ、短大2年の冬にめでたく結ばれたことで、極端なマイナス思考から解放されるとともに、大祐や生まれてくる子のことを守り抜くと決意。以来、献身的に里緒や大祐の生活を支え、最期まで二人のことを想いながら命を絶った。なお、結婚の際に両親から縁を切られており、瑠璃の死を両親は知らない。
気の弱い割には割り切りのいい部分がある、言い争いを極端に敬遠する傾向にあるなど、自分の短所をきちんと認識してリスクマネジメントしている節があった。夫婦の口論に発展したのはわずか一度、いじめられていた里緒の支え方を話し合う過程で起きたのみだった。これは、瑠璃がそれだけ真剣に里緒のいじめを憂慮していたことの裏返しでもある。里緒へのいじめをやめさせるよう涙ながらに学校へ嘆願の手紙を提出するなど、夫や娘に捧げる愛情は極めて深いものだった。
里緒を妊娠したのは20歳、出産したのは21歳の時である。成熟しきらない身体で無理に出産したため、産後に弛緩出血を発症して生命の危機に直面。出血を止めるために子宮を摘出し、二度と子供の産めない身体になった。里緒が兄弟姉妹を持たない一人っ子なのはそのためである。
自殺の原因は、自身がママ友いじめを受け始め、その被害が里緒にまで及んでしまったこと。自分が死ねばママ友いじめが収束し、やがて里緒へのいじめも終わると信じて自殺したが、その旨を遺書に書き残していかなかったことが後になって大きな騒動を引き起こす遠因となった。自宅の一室で首を吊って死亡し、死因は強い力での圧迫による頸椎骨折と診断され、遺骨は同じ町内の佐野霊園31番市民墓地に埋葬されている。また、里緒は作中2度にわたって瑠璃のクラリネットの幻聴を耳にし、いずれも閉塞的な場面の打開に繋がっているほか、コンクールの本番演奏後に里緒は瑠璃の幻影と対面、大祐も瑠璃の声のみを会場内で聞き届けている。
大祐の知らないところで実業家の西成満と親交があり、瑠璃のクラリネットはもともと西成から借り受けたものである。里緒や自身の受けているママ友いじめのことも相談しており、このことが後に、瑠璃の自殺の真意が明らかになる契機となった。
高松雅影〈たかまつまさかげ〉
60代・男性
高松里緒の父方の祖父。岡山県岡山市北区に在住。
息子の大祐が瑠璃と“できちゃった婚”しようとしていることに憤り、妻の織枝ともども大祐との関わりを絶っていた。「仙台母子いじめ自殺事件」の報道が広まったことで大祐たちの現状を知り、対面を打診。秋になってから大祐や里緒と再会する。
里緒のことを「淑やかだし立派」「器量がいい」と褒め、夕食後の飲みの席では大祐をいたわっていた模様。行き帰りの荷物持ちも手伝ってくれるなど、本来は息子や孫を想う人物である。
高松織枝〈たかまつおりえ〉
60代・女性
高松里緒の父方の祖母。岡山県岡山市北区に在住。
息子の大祐が瑠璃と“できちゃった婚”しようとしていることに憤り、夫の雅影ともども大祐との関わりを絶っていた。「仙台母子いじめ自殺事件」の報道が広まったことで大祐たちの現状を知り、対面を打診。秋になってから大祐や里緒と再会する。
混乱した勢いで大祐を遠ざけてしまったことを長らく悔いており、夕食後に二人きりで語り合った際、里緒に「いつでも頼ってほしい」と伝える。謙虚で優しく、透き通った笑顔を持つ人物である。
▶▶▶次回 登場人物紹介【Ⅱ】 弦国管弦楽部