壊れた約束 6
グレイといった表現が正しいのだろうか。灰色かかったその髪が見えた。きれいな顔を隠すようにかけられている黒い淵のある眼鏡が見えた。どこか年上に甘えるように見せるその表情は初めてみるものだ。なぜ、フク先生と?いやそういえば先輩だといっていたじゃないか。ぐるぐるとまわる思考はよそに徐々に2人は近づいてくる。
「お待たせしました、篠田先生。教え子とちょうど会ったもので」
「いえ、わたしもちょうど会っていたので」
教え子とフク先生が示したそこにいた人が私をみた。灰色の瞳がこちらをみる。その人の眼鏡に反射して映った私の表情はなんとも間抜けなものだった。
「夏目じゃないか」
フク先生が驚いた、というような声を出した。視線をフク先生に戻した。
「こんにちは」
「こんなところで会うなんてなぁ」
少し嬉しそうにいうとすぐに、篠田先生に視線を移した。
「こちらは教え子の黒崎和泉っていうんですよ。私が担当した中でも特別に」
「フク先生、もういいから、はやく行きなよ」
聞こえた声は私の記憶を埋めていく。この声だ、と泣きたくなるのを我慢してその人の表情を眺めた。変化する表情をかみしめる。
「でも、なぁ?」
なにか言い出しそうなフク先生にはいはい、とその人が適当に流すと、目を合わせる。ひそやかな声を出したのはその人だった。
「離れよっか」
こくりと頷くと、フク先生と篠田先生が何か話している間に徐々にスペースを開けていく。篠田先生が気が付いて目を合わせたけれども笑みを向けられただけだった。
その人の後ろを追うようについていくと少ししてその人は足を止めた。
「ごめんな、つき合わせた」
「いえ、全然」
「俺のことなんていいから自分のこと優先させてくれればいいのになぁ」
まいったというように言って笑ったその表情には親愛が見え隠れした。でもそういうところも含めて慕っているといわんばかりの表情はやわらかいものだった。
「ナツメさん、だっけ?」
「え、あ。はい!」
「俺、黒崎和泉。フク先生の教え子な」
ここで会ったのも何かの縁だ、よろしく。
そういって差し出された手におずおずと手を重ねる。
差し出された手と浮かべられた笑みが、私の知っている和泉さんではなかった。違うのだと、きっと戻っているのが異物なのだと、痛感してしまう。それでもそこにいたのは紛れもないあの人で、なんだかとても泣きたくなった。
暖かな手の温度に少しの安堵を感じながら手を握り返した。
「夏目、志乃です。よろしく、おねがいします」
何かを見定めるような視線は和らぐことなく私に降り注いでいるのを実感しながら今はその人の存在がここにあることのうれしさをかみしめた。
少し会話をして別れる。とくに用事らしい用事もなく家に帰って母とも有生とも大した会話をせずにベットに倒れこむ。
スマートフォンに入った連絡先は以前教えてもらったものと大差ないものでぼんやりとそれを眺めていると空でも言えてしまいそうになって無理やりに目を閉じた。
■フク先生
和泉と志乃の先生
■篠田先生
臨時教員。この夏でいなくなるらしい。
■黒崎和泉
志乃の前の時間軸での知り合い。
■志乃
和泉との再会で動揺する。
さてさて今後の展開が悩ましい。先が全然かけていないので次回更新までは2、3日かかります。




