壊れた約束 4
真くんが瀬崎と高橋に近寄っていく様子が見えてあわてて机にのっている紙コップ等を出入り口に持っていく。ゴミ箱に紙コップを入れてお盆をその上に乗せた。自動ドアの前でありがとうございました、と声が響いた。
自動ドアを通り抜けると店内の涼しさのせいか熱を余計に感じた。
真くんが高橋の前にたっている背中に焦りを感じて足早に近寄る。少なくとも、今の真くんに冷静に話せるとは思えなかった。
「あぁ、真くんじゃないですか。どうしたんですか?」
ひょうひょうという高橋にぎりりと真くんが奥歯をかみしめる音が聞こえる気がした。
「あんた、どういうつもりだよ」
ずいぶんと低い言葉が聞こえる。追いついた先にいた真くんは泣きそうなつらそうな声を響かせる。数名の野次馬の視線を感じながら近づくと困惑した様子の瀬崎が視界に入った。
ピンヒールとマキシ丈のスカート。きれいな姿勢。短髪なことも相まって瀬崎はどこかのモデルのようにも見えた。
「姉貴を振ったら次は違う女かよ」
緩やかな笑みを口元で浮かべている高橋はそうだね、と同意をした。
「君のお姉さんとはもう終わったからね」
「あんな、あんな終わり方」
「言ったろ?僕は嘘が嫌いなんだよ」
そういうと聞き分けのない子にいうようにはぁと溜息をついた。
「まぁ。とはいってもこれは僕と彼女の間の話であって。もう終わっている話なんだよ。弟でしかない君には関係のない話だろ?」
そういうと白々しくあぁ、そうか、となにかに納得したように頷いた高橋は真くんの腕を汚いものを触るかのように払った。
「君は彼女のことを慕っているみたいだね」
「姉だから当たり前だろ」
「ふぅん。姉、ね」
にやにやと笑うその顔は何を考えているのか読めない。
「それにしては行き過ぎている気がするけどね」
そういうと真くんに指をさす。
「それをシスコンって人は言うんだよ」
「たとえなんと言われようが大切にできないよりはましだ。家族なんだ。大切にしたいさ」
はぁと何度目かのため息を高橋はついた。
「そうやって君が守ってきたから、彼女は甘えまくる性格になったし、最低な嘘をついたんだと思わないか?君の姉は最低な嘘をついた。僕は最初から君のお姉さんには言っていたんだよ?僕は結婚を考えていないってね。それでもいいと言ったのは君のお姉さんだ。嘘だと思うなら本人に聞いてみなよ。まぁ、今更、何を言われたところでもう終わっている話だけどな」
そういった高橋は何もいわなくなった真くんの横を通り過ぎた。
そして瀬崎に手を伸ばした。ファーストフード店ということを忘れそうになるほどの手慣れたエスコートはまるで一枚の絵のようにも見えた。
「いいの?」
「いいんだ」
「ひどい男だね」
「知っているよ」
「彼女と別れたの?」
「君も知っているだろう?俺にとって恋人はいないものと同じだって」
「ふぅん」
「だから君のような切れない友人はいつもありがたく思っているよ」
私はそんな会話をしながら近づいてくる瀬崎と目を合わせることができそうになかった。
「あ」
「なんだ?どうした?」
「なんでもない」
後ろから聞こえてくる瀬崎と高橋の声を聞きながら立ちすくむ真くんに近寄る。
「真くん」
「……絶対、ゆるさねぇ」
地面を睨みつけるようにそうつぶやいた真くんはいつもの穏やかなお兄さん風の雰囲気を消し去っていて声も聞こえていなさそうだった。真くんは何かを言うわけでもなくそのまま帰って行ってしまった。
「あぁ。もう」
くしゃりと髪を掻いてつぶやいた。
なぜだか無性に泣きたくなった。
■瀬崎
おしゃれさん
■高橋
瀬崎とは友人らしい
■真
怒っています
■志乃
置いてきぼりです
このお話で10万字行きました!
まだまだ続きますのでよろしくお願いします。




