近づく秘密 3
一つの指でおさえることができるくらいには小さなその一つ一つのキーボードを持ち上げる。
「あ」
「なに」
外そうとしたときに気が付いたと言わんばかりに声を上げた有生に指も手もそのままに顔だけを向けた。
「ついでだからほかのパソコンのキーボードも見ない?」
薄ら笑いを浮かべている有生にはぁと溜息をつく。
「それは、あれ?ついでに掃除しよう的な何かかな?」
「そうともいう」
ケロッとした顔でそういう有生にはははと笑う。思わず何かがわかるかもと無駄に入っていた力を抜けた。
「取れそう?」
「なんか、固い」
「くっついてるとか?」
「いや、そうじゃないけど。たぶん無理にとったら中の爪が折れそう」
そういうとそっか、と有生は息を吐き出した。爪が折れたら折れただけどねぇ、というとそうなるとキーボードが使いにくくて仕方ないと反論を受ける。
有生はそういうことをいいつつもいつの間にか手にしていた「蝋梅の花」を開いているのがみえた。
「それさ」
「うん」
なかなか取れないTの文字をあきらめてTの隣の文字からはずそうとしながら有生に声をかける。
「さみしい話だよね」
「そうだっけ?」
「あれでしょ。母親とその娘の話」
「は?」
「あ、とれた」
Tの文字の隣のRとYを先にとっては握りしめた。斜めから覗きこみように見る。何かが挟まっているのが見える。
「紙?」
見えた色は真っ白ではなく、再生紙のような色だ。両側からTの文字をつかんでみても取れそうになく、紙から先に取ろうとして手を宙に浮かした。
「ねぇ有生、ピンセット」
なんだかんだとってくれそうな有生にそういうとなんの反応もみせない。聞いてる?と言おうと顔を見るとその表情は真剣なものでぶつぶつと頭の中を整理させるようにつぶやいていた。
有生が一度こうなってしまえばしばらくは聞いていないな。と分かってぼんやりとさっき話していた「蝋梅の花」の中身を思い出す。
シングルマザーのもとに生まれそして捨てられた娘はいつしか心にその母親への殺意を秘めていた。偶然見つけたその母親は病気で余命宣告をされたところだった。「もう死ぬから」と告げた母親に娘は「信用ができない」と告げて母親を監視するように一緒に暮らして死ぬときを見届ける話だ。終始、2人以上の登場人物もでない、短い話だった。さみしい話だと思いそれと同時に、そんなさみしい話をあの人が書いたのかと思うと微妙な気持ちになったのを思い出した。
「なぁ姉ちゃん」
「なに?」
「俺の知っている蝋梅の花は、だめな男とそんな男を支える女の陳腐な恋愛小説だけど」
「え?」
「姉ちゃんのは親子の話なのか」
「もしかして中身が違うの?」
握りしめていたRとYが手から零れ落ちた。見た目も同じ話の中身が違うとは思ってもいなかった。
「余計にわけがわからなくなってきた」
困ったなぁつぶやくと有生は落としたRとYを拾っては思い出したようにキーボードを見る。
■有生
本読み
■志乃
キーボードと奮闘
■蝋梅の花
冬に咲く黄色の花
■蝋梅の花(小説)
志乃の父親作らしい。有生も志乃もそれぞれ持っている。
来週から時間できるといっていましたが予定が伸びて1か月ほど余裕がない状態が続きそうです。その間、更新スピードはおそいままだと思います。すみません。




