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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
学校編
84/114

上書きする未来 4

 あわてて声を漏らす。

 「聞かれていた!愛に!」

 そう告げるとあわてたように顔色を変えた桐谷がバッと振り返る。すでにいない姿を探して走り出した桐谷のあとに続いた。

 草をわけて走り出した海岸線は砂と岩場が混ざり合っていて足を動かすことが困難だ。前の方に見えた揺れているツインテールが度々こちらを振り返っては泣きそうな必死そうな顔を向けて走っていく。

 「なんで」

 ささやくような息切れをしている声が風と海の音に流された。

 私よりも前方を走る桐谷の足跡が砂場に残る。力強いそのあとははっきりと凹凸ができていた。

 愛はきょろりきょろりとあたりを見ては海の方へ足を付けた。藍色のパンプスが水に徐々につかっていく。徐々にその足が進んでいくのが見えた。

 「藤吉さん!何してんだよ!」

 桐谷が追いかけるように海面に足を付ける。私も追いかけていくがこれが男との差だろうか。愛との差は埋まらないが桐谷との差が広がっていくばかりだった。

 泣きそうな顔で振り返った愛は焦るように足を動かした。

 「だって!」

 愛の叫ぶような声が聞こえる。波の音に混じる叫び声はのどの奥を切り裂いたような痛々しいこえだった。

 「桐谷くんにも、そんなに嫌われているなんて思わなかった!嫌いなら!もう追ってこないでよ!見ないでよ!」

 赤く染まった海は暗く色をひそめつつあった。愛の来ていたチュニックが花開くように浮かぶ。

 「あなたみたいに恵まれた人にわざわざ嫌がらせをうけるほど嫌われているなんて!」

 叫びながら愛は徐々に深いほうに進んでいく。私ももう足は海面につかっていて押し返す波の強さはそこまでのものではないものの抵抗にあう。両手を大きく前のほうで振りながらバランスをとっては波をかき分けるように進む。

 胸のあたりまですでにつかっていた愛に桐谷が追いついたのが見えた。

 「藤吉さん!」

 「やだ!離して!」

 「ごめん」

 「離してよ」

 「ごめん」

 桐谷がそう言っているのが聞こえた。立ち止まった2人に追いつくように動かした足から静かな海にぱちゃぱちゃと音が響く。

 「ごめんね、藤吉さん」

 愛は何も言わない。桐谷はそんな愛の髪を優しく撫でた。

 「俺が子供でごめん。ちゃんと向き合えなくてごめん。執着心が強くてごめん。好きになったのに大切にできなくてごめん」

 愛が顔を上げたのが見えた。静かな言葉に私も足を止める。お腹まで海面に使っていて波が静かに揺れた。


 「好きになってしまって、ごめん」


 ごめんなぁと震える声で言った桐谷は呆然としている愛をごめんなと言いながら抱きかかえるとそのまま方向を変える。太陽はもう半分以上が沈んでいた。

 

 ハッとした愛が桐谷の腕の中から逃れようとじたばたとあがいているのが見えた。桐谷はそんな愛を離そうとはしなかった。ただごめん、と言いながらこちらをみた。

 「夏目」

 「何」

 「上がるぞ」

 その言葉にうなづくと足を止めていた私も岸側に体を向けて足を動かした。水分を含んでいる洋服もあって先ほどよりもずいぶんと進みにくいはずなのに、愛を追いかけて海水を進んだときよりも足は軽かった。




■桐谷

告白しちゃった

■愛

告白されちゃった

■志乃

主人公なのにほぼ空気


やっと愛ちゃんと桐谷が合流しました。長かったしこの話はだいぶ悩んだ。

次回は愛ちゃんと桐谷との対話のターン。

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