上書きする未来 2
思わずよった眉間のしわを治す余裕なんてものはそこにはない。志乃と呼ばれる呼ばれ方がすでに自然なものとして受け入れてしまっていた。
「それは、だれのこと」
「さぁな」
桐谷はあいまいに笑っただけだった。
壁から背を話した桐谷は自身の背の汚れをはらう。そうして伸びた背中を見る。よれた夏服が太陽に反射して目を細める。
「愛に会いにいくの」
疑問といえないほどの断定的なその言い方に桐谷は少しだけわらった。
「会ってくれないかもだけどな」
「愛は知っているの?桐谷のこと」
さぁ?と首をひねった。
「それでもお前の耳に入るくらいだから知られてても仕方ないだろ」
「そうだね」
「そうなったら会ってくれないだろうな」
「そりゃね。私なら会いたくない」
「だよな」
それでも会わないといけない。
そう溜息をはくくらいの音量で言われた言葉に桐谷を追いかけていた足を止める。
「なぜ?」
吐き出した疑問に桐谷は答えてはくれなかった。
「藤吉さんは、両親がいないんだ」
「一応聞くけどそれは本人から聞いたの?」
「ちげぇよ」
開き直った桐谷は愛の家に行くまでの間にぽつりと口を開いた。
「叔父さんの家にいるらしい。藤吉の両親がどうしているのかはしらないけど、藤吉には一人兄がいるはずだ」
「へぇ」
情報源がどこだ、と思考を巡らせながら桐谷の言葉を聞く。
「とはいえ、その兄とも一緒に暮らせていないんだとすれば、それは……」
自分で言ってはなにかを考え込む様子を見ては桐谷の思考が終わるのを待つ。
「ひどいことをしていたんだと思う」
後悔にまみれた言葉を吐き出しては数歩歩いて足を止めることを繰り返す。
「家の居場所もない人に学校からも居場所をうばった」
「そうだね」
「俺だってどちらも居場所なんてないけど。俺のは自分でそうしているのに」
「うん」
「なのに、奪った。そんなことしたらいけなかったのに」
後悔の言葉が出てきては桐谷は顔をゆがめていた。
「最低だよな」
「うん」
自虐する桐谷は責められたかっているように見える。否定もしなく肯定だけをしめした。
じりじりと焼き付くような暑さを感じる生ぬるい風が通る。徐々に長くなる影が並んでいた。
「それでも藤吉さんが俺を見てくれたらいいのにっていまだに思ってしまうんだ。許してくれなくてもいいから、藤吉さんの特別になりたいと思うんだ」
吐き出すように言ったその言葉に同意なんてできそうになかった。
愛の家は住宅街の方向に行く道をたどっていった。海に近い住宅街はかすかに波の音がする。静かな住宅街はそこに本当に人が住んでいるのか疑わしくなってしまう。角を曲がったときにふわりとした髪が細い道に消えていくのが見えた。
桐谷の方をみると桐谷はそこの細い道を凝視していた。
「桐谷?」
「今の、藤吉さんだ」
「よく、わかったね」
「あんなに特別な人を見間違えるわけがないだろ」
速めた足取りで細い道を追う。
潮の香りが鼻をかすめた。
■桐谷
絶賛後悔中
■愛
背中だけの登場
■志乃
なんだかんだ付き合うよぅ
次回は愛のターンだけれどもストックがないので更新できるのかしら?となっています。




