嘘つきと言い訳 5
「別に有生に関しては俺はまじでなんもしてねぇじゃん」
その言い方にぐっと唇をかみしめる。
「じゃあなんで」
思ったよりも低い声がかすれて出る。
「は」
「なんで有生にメールしてたの」
「まず。藤吉のことはなんかの行き違いで俺はなにもしていない。それから有生のことはお前のかあさんから頼まれたんだよ」
な?おかしなことなんてないだろ?そういう桐谷は笑みを浮かべた。
「そんなかっかすんなって。な?」
そういうとなれなれしく頭をなでる。
違和感が膨れる。有生のメールのことはありえそうなことだ。そして愛のことは行き違い、と桐谷は言った。ひとつ深呼吸をして桐谷を見る。
「有生のことはわかった。で?なんだって?行き違い?」
桐谷の手を振り払い腕を組んで壁にもたれかかる。
すぐそこの車道を車が行きかう。
「そ。行き違い」
「嘘」
「あ?」
「桐谷はそんなつまんない凡ミスする男じゃないでしょ」
「お前が俺の何を知っていると……」
「何を、ですって?」
思わず低くなった声に桐谷の肩がびくりとはねたのがわかる。
「俺、俺のことを何も知らないくせに」
「知ってるわよ」
だから怒ってんのよ。
そう告げると桐谷は泣き笑いのような顔を向けた。
「付き合いだけは、長いもんなぁ」
「そうね」
別にね。と続けると桐谷が目を向ける。
「桐谷に人を利用するのをやめろとかそんなことは言ってない。あんたの家のこととかふくめて考えるとそれも仕方のないことだと」
「家のことは」
荒らげた桐谷に口を止める。
「家のことはいうな、もう関係ねぇよ。いくら志乃でも許さない」
「うん、ごめん」
そうだね、よけいなことだったと謝罪をすると不可解なものを見るような目を向けられる。しばしの沈黙が流れてぽつりと吐き出すように口を開いた。
「ねぇ。なんで?」
「は?」
「なんで愛だったの?」
「なにが」
「きらい、だったの?」
「俺が藤吉さんを嫌うわけがないだろ」
「じゃあなんで」
あー、と桐谷は声を上げると髪をわしゃわしゃとかきむしった。
「知らねぇよ!そんなこと」
「は?」
「仕方ねぇだろ。どう接していいかわかんなかったんだよ」
「あ、そう」
「前、志乃が言っただろ。俺の人に対する執着は一歩間違えればまともじゃないって評価をもらうって」
言った、確かにそれは言ったけれども。
それを言ったのは20歳を超えてからだ。今の私は言っていないと首をひねってみても桐谷の言葉は何かに背を押されているように止まらない。
「俺はたしかにまともじゃない。どうしていいのかわかんなかったんだ」
「なにが?愛に対してってこと?」
こくりと頷いた桐谷の目は後悔に染まっている。
「はじめてだった。一瞬で目を引いた。仲良くなりたかった。それは志乃に対して思ったものとも白井に対して思ったものとも、誰に対してのものとも違った」
桐谷は空を見上げた。
「他の人と話しているのを見るのが嫌になった。ほかに笑いかけるのを見るのが苦痛だった。俺に頼ってほしかった」
見上げた顔を覆うように片手で両手を隠していた。
そんな言葉に思わずため息をこぼした。
「それは」
それは恋だと人はいうものなのだろうか。
桐谷の中にある愛情や恋情は愛に向けられていたのかと納得すると同時にどうしようもないくらいに不器用で情けないこの男に溜息をこぼした。
1週間ほど更新できずにすみませんでしたー。
■桐谷
いろいろばくろっている。
■志乃
まったくもう!
次回も桐谷のターン。




