嘘つきと言い訳 4
「有生と仲良かったのね」
「そうかー?」
「有生が、桐谷がいつもメールをくれたって」
ふぅん、と興味のなさそうにいう。
「尊敬してるんだって」
「そら俺が男だからだろ。おまえんち男いねぇじゃん。有生以外」
「そうだけどさ」
「いつからメールしてんの」
「んなもん忘れた」
しれっという桐谷の腕をつかむ。
「ちゃんと答えてほしいんだけど」
「答えているだろ」
「ううん、あと一つ」
そういうと桐谷は聞けよ、という。
その瞳をみているといろんなことを思い出しそうでぐっとこらえる。聞くべきことが決まっている。
「桐谷が、愛に嫌がらせをするきっかけを作ったってきいたんだけど」
「はぁ?」
不自然なほどに震えた声が聞こえた。ひきつった笑みの口からは乾いた笑いがこぼれる。
「どうなの?」
「だれから」
桐谷の表情は作ったようなさわやかな笑みを浮かべていた。目だけが笑っていない。
「誰から聞いたんだ?」
「きりたに……」
思わずといったように声が漏れる。
「やっぱりあんたが、愛をおいつめていたの」
それは確認というよりも確信で、桐谷の瞳がゆれるのがわかった。
「なぁ。志乃」
だれからきいた?
そう付け足された声に、ハッと目を開く。桐谷が志乃、と私を呼んだ。それは、本来ならば、前、そう私たちが20歳を超えたころに、桐谷がしれっと呼び始めたものだった。どくりどくりと血流が流れるのを全身で感じた。
だから、知っていたのだ。桐谷は。
有生が出てきて変な反応をしたのも、有生のメールアドレスも。有生が天才だということも。知っていたのだ。
そのことに気が付いてぞくりと背が震えた。そしてそれとともにこみあげてきたのは怒りである。
有生を利用するつもりだったのか。わたしの、弟を。桐谷だってかわいがっていたじゃないか。
愛をどうするつもりだったのか。仮にも大切にしていた人なはずだ。それまでもが嘘だったというのか。
人を利用するのか。守るべき、日本国民を。あの人の教えを捨てるのか。
頭の中が沸騰しそうだった。視界にうつる男が不気味に見えた。
目を見開いたままの私に桐谷は口を開く。歩く気配もなく、路地に入り込むとそこのお世辞にもきれいとは言えない壁にもたれかかった。
「おーい?夏目?」
すぐに戻った呼び方に少し力を抜く。桐谷が私と同じように戻ってきた確証はない。しかし、桐谷にはまだばれてはいけない。グッと奥歯をかみしめた。ごくりと唾液を飲み込んだ。
「なに」
「だから、誰から聞いたんだよ。言えよ」
だるそうに、それでいてイラつきを隠そうともしない姿を目にする。
「それを聞いてどうすんの」
「あ?」
大きな声を出す桐谷の首元のシャツをつかんで引き寄せる。引き寄せた顔がゆがむ。
「それ、脅してんの?」
「あ?」
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえるって言ってんの。そうやって威嚇すればすむと思った?都合が悪いことは話したくない?知られたくないことを知られた?隠し通せると思っていた?悪かったわね。そんなに甘くなんてしてあげない。ねぇ。桐谷。あんた人をなめんのもいい加減にしなよ」
引き寄せた桐谷の体を話すと桐谷は勢いのままに壁に背をついた。
くっそと声が漏れるのを聞こえる。
「愛の嫌がらせは、桐谷の主導だったの?有生にメールとかしていたのはなぜ?どうしてそれを知っているの?」
「そんなにお前が怒るなよ」
あきれた、というようにいう桐谷の顔が引きつっている。
「怒るわよ!」
もう一度桐谷を引き寄せると顔を極限まで近づけた。
「愛は、私の大事な友人よ。有生は、私のたった一人の弟よ!わたしの、おとうと!何をさせようとしてたのよ」
叫ぶように言うと呼吸を整える。桐谷の瞳に映る私は、なんとも情けない顔をしていた。
■桐谷
志乃に怒られる
■志乃
おこだよ
桐谷くんと志乃のターン。
この2人をかいているととても過去編が書きたくなる。
昨日は更新できなくてすみません、ツイッターにも書きましたが1週間ほど更新ができそうにないです。ごめんなさい。(こんな中途半端なところでくぎっちゃった)




