嘘つきと言い訳 3
「桐谷さん!らっしゃい!」
「え」
「や。桐谷」
動揺したように目を開く桐谷に首をかしげながらその動揺を観察する。
「なに?」
「なんでもねぇよ」
「有生も外に出れるようになったんだな、よかったな」
「へへへ、ありがとうございます!」
破顔する有生をみて溜息をつく。素直にいう有生とは裏腹に桐谷の顔はすこしひきつっていた。
「有生、悪いけどねぇちゃん借りるな」
「そういうことだから。ちょっと出るね」
そうで言うと有生が分かりやすく顔をゆがめた。
「えー。いいじゃん。ちょっとくらいさぁ」
桐谷の腕を引く有生の名前を呼ぶ。
「ちょっと用事があんの。終わったら連れてくるから」
「おい、まじか」
「何?やなの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
複雑そうな顔をしている桐谷を無視する。有生はそのやり取りを見てハッと悟ったような表情を浮かべた。
「え?なに、もしかして2人、付き合ってるの?桐谷さん、こんなんでいいんすか?」
「は?」
「桐谷さんならこんなんで妥協しなくても!」
有生は桐谷のぽかんとした表情を無視して話す。
「有生」
「なんだよ」
肩をぎりぎりとつかむと痛そうに顔をゆがめて不機嫌そうに言った。
「付き合ってないからね。ねぇ、桐谷」
「そうだな」
疑わしそうな目を向けていた有生は桐谷の同意をもらうとすぐに表情を明るくする。
「だよね!桐谷さんなら見る目あるもんね」
「ちょっと有生くんはさっきからねぇちゃんに厳しくないかい?」
「はっ」
「かわいくなぁい」
鼻で笑う有生にそういうとくつくつと笑い声が聞こえる。
「なに?」
桐谷に顔を向けるとひきつったものでも作ったものでもない笑みを桐谷は向ける。
「よかったな」
心底安心したようにいう桐谷の言葉に息をのんだ。
「じゃあ有生。今度連れてくるから」
玄関先でしばらく話をしてから靴を履いて玄関の扉を押した。
「おー。ねぇちゃん。桐谷さんに迷惑かけんなよ」
「かけないわ!」
私と有生のやり取りをみてはははと動揺しつつも笑う桐谷に視線を向けた。ばたりと閉められた玄関についている昔からの傷が悲しいくらいに視界に入ってきた。
「で」
玄関を出て道路を歩く。無言の時間に飽きが来ては口を開こうとしない桐谷を見る。
「電話で呼び出してまで愛のところに連れて行こうとしているんでしょ」
そういうと桐谷は視線を揺らす。初めて見る動揺している視線だった。
「なんかあったの」
「まぁ」
弱っている桐谷を見ながらとりあえず愛の家の方向はわからないため瀬崎のお寺の方に足を向ける。桐谷は半歩後ろをついてくるように歩いていた。それでも私は優しくするつもりはなかった。そんな余裕はもうない。
「ねぇ」
「んだよ」
いつもよりも低い声は桐谷のテンションを表しているようだった。
「あのさ」
足を止める。前から寄ってくる赤い車がシャーとスピードの出して私のぎりぎり横を通り過ぎた。その車を見てしまうと桐谷からなんだよ、はやく言えよ。とせかされつつも場所を変えられる。
「ありがとう」
「お前だって一応女だからな」
「一応?」
聞き返すと馬鹿にしたような表情を浮かべられる。
「で?なんだよ」
「聞きたいことのこと?」
「なかったら別にいい」
さきほどよりはましになっていたがやはり不機嫌そうな桐谷の声が響く。
「ごめん、ごめん」
軽く謝り桐谷の顔を見る。その目は何かを覚悟している目によく似ていた。
やっと桐谷のターン。
よし、寝る。おやすみ!




