嘘つきと言い訳 2
「桐谷さんなんだって!?」
「あんたたち仲良かったものねぇ。篤くんならお母さん大歓迎!」
「なんでみんな桐谷のこと好きなの」
「え?目の保養だから?」
「顔か」
「俺は違うよ!桐谷さん、かっけーんだもん」
「どこが違うの」
「全部!」
ためらいなくいうと有生は笑う。
「昔ねぇちゃんが桐谷さんを紹介してくれた時からすっげぇあこがれてた」
うれしそうに細められる目にほほえましい気持ちになる。近くにいた年上という点ではわたしのほうが近い。しかし何もしてこなかった私が何かを言える立場にもない。
「それはねぇちゃんじゃないのね」
「ねぇちゃんはあほだから」
「そんなことをいうやつには、こうだ!」
断言するように言う有生の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。やめろよ!と手を払うもののそれには力押しをするような強さはない。やめる気がしなくてそのまま撫でまわしていると有生はあきらめたようにそのまま話続ける。
「それに。ずいぶんと前から俺がこんなんなってからだけど」
「うん」
「桐谷さんはパソコンのメールにいつもメールくれてたんだ」
その言葉にぐしゃぐしゃとしていた手を止める。
「有生、桐谷にアドレス教えてたの?」
「え?ねぇちゃんが教えたんじゃなかったの?」
「え、あーそうだったかも」
しっかりしろよ、という有生にはははと笑う。悪いが記憶力には自信があるのだ。そしてそんなものを教えたつもりはない。有生が気が付かないように目を伏せた。
「毎日いろいろ教えてくれてさ。そうあの音声変換ソフトとか、プログラミングとか。あーゆー基礎の本をくれたのも桐谷さんなんだ」
「……へぇ。そうなんだ」
有生のうれしそうな話を聞けば聞くほどに桐谷にきかないとならない話が増えていく。なぜだ。なぜ、有生にそんな技術を与えた。そんなものなくてもいいのに、ないほうがいいのに。
それは有生を巻き込みたくなる弱い自分がいることをわかっているからだ、だから有生には戦える武器など持っていてほしくなかったのだ。
ギリッと奥歯をかみしめる。
「ねぇちゃん?」
「なんでもないよ?」
「そ?でな、でな。桐谷さんは毎日メールくれるし。そういう俺が好きそうな本とかくれて。しかも無理して学校に行かなくても俺はちゃんと勉強ができることをわかってるって。もうさ。スーパーマンみたいじゃない?」
ぺらぺらととまることのない桐谷への尊敬の話を聞く。
母は、へぇ。お礼を言わないとねぇとのんびりという。
頭の中で何かが引っ掛かる。その引っ掛かりに否定の言葉はでない。そうして脳内に浮かんだ桐谷に関する疑問や疑念を有生にだけはわからないようにとごまかした。
桐谷が何を考えているのかはわからない。善意だけでそれをしたとはどうしても思えなかった。
制服から着替えてリビングにいるとチャイムが鳴る。イヌか何かのように俊敏に反応した有生のあとに続いた。
■有生
桐谷さん尊敬!
■桐谷
有生くんスペックを作った人
■志乃
桐谷ぃ(ぎりぃ
桐谷のが少ししかでなかった。




