文具ヤマアキ 1
「高橋さんっていうんですか?あの人?私の大好きないとこのお姉さんの婚約者の方と言って見せてもらった写真にそっくりで」
そういうと分かりやすく店員は動揺をあらわにする。
「女の敵ってどういうことですか?お姉さんには幸せになってほしいのに」
切羽詰まったような声を出して目元を潤ませる。おろおろと周りに視線をやる店員が視界に入る。しかし今日もこのお店はお客さんは少なく、私が来た時で2人、今は私しかいない。つまり、店員が逃げ出せるような相手はいないということだ。素直そうな反応ににんまりとした顔はばれないように両手で口元を覆った。
「女の、敵なんですか?その人」
ダメ押しのように言うと困惑した店員はしばらくの間おろおろとしていてそしてあきらめたように溜息をついた。その両手からはもうゲーム機は離れている。
「あー」
ぼりぼりと金髪を掻いてから困惑した顔をした店員はそのたれ目を余計に下げる。あー、うーと音だけを口から発して何をどう言おうか迷っているようだった。
「それほんとうっすか?」
そう口にしてからあぁ、あの。と店員が声を上げた。
「別に疑っているわけじゃなくて」
あわてたように何度も手を交差させた店員は覚悟を決めたように静かなトーンで口を開いた。
「高橋さんの彼女なんすね、その人」
「たぶん」
「結婚するっていってたんすか?」
こくりと素直に頷く。
うわぁまじかぁ、と漏らしながらも店員は困った末に口を開く。
「いいっすか?ほかの人にはいっちゃだめっすよ?」
「はい」
「高橋さん、実は彼女、一人じゃないんすよ」
ちょっと待て。と言いたくなる言葉をぐっと飲み込む。しかし表情に出ていたのだろう、店員は困惑したように顔をゆがめた。
「知らなかったんすね」
そういう店員に首を縦にふる。
「あの人、今たぶん5人とか彼女いるっすから。女は日替わりっていってましたし。結婚の話が出てるというのはたぶん」
店員は一度いたわるような視線を向けていう。
「そのお姉さんが結婚したくてしたくて高橋さんと話したわけではなく一人で進めているんだと思うんすよ」
さらりと告げられた言葉に絶句する。
「少なくとも高橋さんは結婚なんてこと避ける人っすからね」
よわよわしい演技も忘れて彼を見ると彼はそんなこと知っていたかのようににっこりとした笑みを浮かべていた。哀れそうに見るたれ目が優しくて、思わずこの人をだまそうとしていたのかとチクリと痛む。
「聞きたいことはきけたっすか?」
「あ、はい」
「これは万引き止めてくれたお礼っすからね」
にっと笑った店員にぽかんとした顔を向ける。
「はい、付箋」
「あ、ありがとうございます?」
からんと音がなり別の客が入ってくる。即座に店員はへらりとした笑みを作った。
「いいっすよ。あ、らっしゃいませー」
高橋がわざわざ文具に用事があるわけではなさそうだ。
なんのためにあそこにいたのか。
それに。鈴ちゃんの婚約相手は高橋で間違いがなさそうだと分かる。そして、どう考えても、鈴ちゃんが悲しむ未来しか浮かばなかった。
夜は読書と睡眠モードに入りたいのでいつもより早い時間に更新します。
■店員
高橋のことをよくしっている
■高橋
彼女は日替わりらしい
■鈴ちゃん
高橋の日替わり彼女の一人らしい。
■志乃
うわぁまじかぁ。
ってなわけで。鈴ちゃんの婚約者についてわかりました!




