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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
学校編
64/114

あねとおとうと 2

本日3話目

 



『たとえどれだけ現実に絶望しても! どれだけ実力に差があろうとも! あきらめてはいけないだろ! 前を向かなきゃいけないだろ! それが、勇者という肩書を持つ責任じゃないのか!』


 有生の部屋から聞こえるアニメの音は勇者を鼓舞する声だ。何度か聞いたことのあるその言葉にわたしは締め付けられるように感じていた。勇者の責任を問う声は、わたしに姉の責任、家族の責任を考えろと締め付けているようだった。そしてそれに責任を感じてしまうわたし自身が嫌だった。

 トンと一度ノックをする。すぐにアニメの音が止まる。聞く体制に入ってくれたことをうれしく思う。今ここで有生に向き合うのは姉の責任や家族の責任ではなく、私が、そうしたいからしているのだ。そう思うと気持ちが楽になった。



「有生」


 しばらくごそごそという音が聞こえて厳かな声が聞こえる。

 

『なんだ』

「なにも。ただ、元気かなと思って」


 そう告げると返事はない。もとから返事が返ってくることを期待した言葉ではない。


「今は何を見ていたの?」

『気にする必要はあるのか?』

「有生のみているアニメはたぶん基本的にあんまり数はないんだろうなぁとおもうんだけど。勇者の出てくる話をよく聞くから気になって」


 少しの沈黙の後に宣伝のようなあまりいい音とは言えない音が聞こえる。

『やる気の量は金次第、借金返済に追われているのにお金をちらつかされて勇者になってしまったキンと魔王になってぐーたらしたい寝ることを愛してやまないスイの世界征服的な物語、スイキン。毎週金曜日夜24時から放送中』

「え、まって。有生」

『なんだ』

「これ? 本当にこれ?」

『スイの一押しだよ!』


 明るい声弾むようなが聞こえてくる。それがアニメの声であっても有生が楽しそうなのだろうと思いたかった。



「お母さんから聞いた、好き嫌いなくなったって」

『仕方のないことです。まるで嫌がらせのように毎日毎日一緒にいなくちゃいけなかったら防衛本能的に受け入れますよ』


 少しだけ違うないようではあるが女の子のかわいらしい声が聞こえる。


「毎日でてたってこと?」

『そうだ』


 厳かな声が響く。


 何を話せばいいのかがわからない。

 どうはなすのが正解なのかもわからない。

 ごくりと唾液を飲み込んだ。その音がやけに頭に響く。



『もう用事はなくて? わたくしだってひまじゃないのよ?』


 高飛車そうな声が聞こえてその扉の正面の壁にとんと背中を預けた。


「用事はあるよ」



 音が止まるように静寂が流れる。数度深く呼吸をして左の手首をぎゅっと握った。どくりどくりと流れる脈拍を確認しては少し落ち着く。

 震えないように声をはるように口を開いた。あのさ、と張り上げた声はむなしく響く。




「部屋に入れてくれない?」

『却下する』


 厳かな声が聞こえる。


「じゃあ廊下に出てこれる?」

『却下する』

「顔をみて話したい」

『却下する』



 同じ声色で同じセリフを言われる。


「有生。有生は私のことをわかってないね」

『わかるほどのかかわりはなかったでしょう?』


 今度は少女の声が間髪入れずに聞こえる。


「うん。そうだね」


 それを否定はしないよ。と告げると有生の部屋からは何の音もしなくなった。



「だからね」

 ごめんね? と言ってからその有生の部屋を開けようとした。



■有生

引きこもっている。

視聴アニメ「スイキン」


■スイキン

毎週金曜日24時から放映中。

ちなみに

『わたしの一押し!』→「私の一押しはなんといってもこの枕!」

『仕方のないことです。まるで嫌がらせのように毎日毎日一緒にいなくちゃいけなかったら防衛本能的に受け入れますよ』→「仕方のないことです。まるで嫌がらせのように毎日毎日一緒にいなくちゃいけなかったら防衛本能的に受け入れますよ、あいつが金を持っていなければいますぐにわかれていたのに!」


■志乃

おとうとの顔をみたいなぁ。みせてくれないかなぁ

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