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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
学校編
61/114

少女のあやまち 3

 


「すみません、でした」


 由香はぼそりぼそりとした声を出した。


「家族も誰も心配してくれなくて。私なら大丈夫って言われていて。それなのに交友関係には口を出されて。何もかもいやになって。やけになっていました」


 すみませんでした。


 ぼそりぼそりと小さな声でゆっくりといった由香は最後の謝罪だけはしっかりとした音量で言った。


「心配されたかったんすか?」

「そう、ですね」

「怒られたかったんすね」


 なるほど、と言いながら言う店員の言葉に由香はこくりとうなづいていた。


「褒められもしなければ怒られもしない。なんの感情も向けられないのは、つらくて。どこかで起こってくれるかなって期待してました」


 いい子じゃないから、そばにいて。

 いい子じゃないから、私をみて。

 あいして、ほしいのに。


 由香は、ごめんなさい、と再度いうとまた口をつぐんだ。


「いいっすよ」


 軽くいう金髪の店員はでも、と言葉をつづけた。


「よかったっすね。止めてくれる人がいて。一度やってしまうとなかなか抜け出すのは難しいっすから」

「はじめてって」


 なんで知ってるんですか? とおずおずと聞いた由香にぱっと顔を上げたその店員はニカッと笑った。

 くしゃりと幼くなる顔を向けて口を開いた。

 見えたネームには「あきやま」とクレヨンか何かで雑に書かれていた。


「勘っす」


 ぽかんとした由香に対して店員は初めてゲームを置いた。


「愛されたいのなら、こんな試すようなことしちゃダメっすよ。ちゃんと口に出さなきゃわかんないっす」


 そういうとまたゲームをとって鼻歌を歌う。

 ぽかんとした顔の由香と目があい、自然と笑顔がこぼれた。





 由香とお店から出るときに擦れ違いざまに店内に入った細い眼鏡の男に意識がいっていると由香はあのぅと口を開いた。


「ん?」

「あの、有生くんのお姉さん」

「はい」

「なんで止めてくれたんですか?」

「え、なんでだろう?」


 なんとなくかな。というと柔らかな笑みを浮かべる。

 ありがとうございました、とつづけられた言葉に少し恥ずかしくなりながら頬を掻いた。


 中学校の制服がふわりと揺れる。以前は私もそれを着ていたのかと驚きながらも思わず目が細まる。

 少女から女性に変化するさなかのような奇妙なバランスの彼女がどこか危うく見えた。



「お姉さんはなんであの店に?」

「ん?ボールペン、切れていたからね、あぁそうだった」


 そういってマスキングテープを取り出して渡す。


「ほしかったわけじゃなさそうだけど」


 そう付け加えるとはは、と乾いた声が聞こえた。


「ありがとう、ございます」



 受け取った由香は少しだけ声を張り上げる。




■深津由香

許された。


■店員

名前はあきやまらしい。


■志乃

相変わらず影が薄い。


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