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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
学校編
52/114

変化する関係 2

 

 玄関先でも聞こえるアニメの音にあぁ、有生はいるな、とわかる。



「こっちだよ」


 案内するのは私の隣の部屋だ。


「ここ」


 室内からもれる音を前に彼女は何を思ったのかはわからない。

 少し戸惑いながらそれでいて期待を持ちながらトントンと扉をたたいた。


「あの。夏目君? 深津です。プリントとか、もってきました」


 静かな声がこだまする。

 一瞬アニメの音が止まる。そして大きな音で再生された。


『うるせぇ!!』


 そしてまたアニメの音は止まった。



 これが有生の今のコミュニケーションなのかと納得していると彼女はぼろりぼろりと涙を流してしつれいしました!と言って家を出て行った。

 あの泣き方が誰かに似ていた気がした。散らばったプリントの一枚一枚に丸い字でいろんな解説がかいてあった。彼女が、本当に有生のこと心配しているのがわかる。集めたプリントを床でトン、トンとそろえる。


 姉である私よりももしかしたら有生を心配しているのかもしれないと思って笑ってしまう。

 そもそも、私は有生を心配していただろうか。

 都合のいいように、いい人であるようにそう思いたいだけなのかもしれない。





 有生と最後に顔を合わせたのはずいぶんと昔だ。

 まだ父親が家を出ていないときだったと思う。

 前のときも有生とはずっと顔を合わせていなかった。

 しかし、いらつきはしても嫌いになることも見捨てようとしたこともなかったのだから不思議だ。

 心配はしていなかった。有生の本質はわかっているつもりだった。きっと大丈夫だとなんの確証もなくそう思っていた。

 いや、思っていたかっただけなのかもしれない。


 実際のところ、私は有生のことを何もしらない。


 彼女が帰ってから再び流れたアニメの音を聞きながら口を開いた。


「有生」


 ぴたりと音が止まる。


「ごめんね、勝手に連れてきて。プリントおいておくから」


 機械を操作する音が聞こえた。


『いいってことよ』


 先ほどとは違う声のセリフが追うように聞こえてきて思わず笑ってしまった。


 昔から私よりもずいぶんと賢い弟だった。

 そして優しい弟だった。


 有生はどんな問題でもすぐに正解にたどり着いてしまっていた。

 人が求める感情も分かっていて、だからそれにこたえていたのだと思う。

 父がいなくなって、有生はそれをぴたりとやめた。おそらく父と何かしらの話をしたのだろうとは思っていたが何も聞くつもりはなかった。

 あぁ、でも。

 去ろうとした足をぴたりと止めてもう一度有生の部屋の前に止める。

 流れるアニメの音を無視しながら口を開いた。


「ねぇ、有生」


 アニメの音が止まる。



「たとえば、先が分かっていることがあって。何かを変えてしまえばいい方向にか悪い方向にかわからないけれども変わってしまうとき。有生なら、それを変える? それとも、見守る?」



 少しだけ機械の音がした。





志乃ちゃんは変えることに迷いが生まれているけれども、すでにときおそしなんですよねぇ。

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