迷走する関係 3
本日2話目
彼女を見るとその様子に嘘をついているようには見えなかった。
「本当よ。信じてないでしょ」
「そんなことは……」
「もともとかっこいいなとは思ってたの。でもあの笑顔を見て。それで」
あたしは恋におちた。
その言葉を聞いてはさきを
「そう、なの」
「別に最初は藤吉さんのことどうでもよかった。たしかにあの見た目だし仲良くないし好きか嫌いかでいうと嫌いだったけど、でも。桐谷くんが、笑ってくれたから。そうしているうちにいつの間にか藤吉さんを助けようとした子も、助けようとした男子もいつの間にかいなくなって。桐谷くんは藤吉さんにあたしたちが何かすると笑ってくれるし、少し、優しくなってくれるの。だから、嫌いなんだと、思った」
彼女の言葉は流れていく。
勢いよく、そこにあった机に手をつきながら早口で言葉を継げた。
その勢いでデッサン用のリンゴが転がり落ちた。反面をあらわにしたそのリンゴは赤、とは言い切れないほどにくすんで汚れていた。
私の困惑などわからない彼女は黒い涙を流す。
「なのに」
彼が選んだのがあんたなのが納得いかない
強い口調でそう言った彼女の顔は、黒い筋が頬を伝っていた。
「なにもしてないじゃない。あんたなんて!」
あたしはこんなにも、喜ばせたのに。こんなに、彼のために!
「こんなんじゃあたし、何してたっていうの」
続いた言葉に私は何かを言えるわけもなかった。
桐谷は、愛を心配していたはず。少なくとも私にわざわざ言いに来るくらいには心配をしていたと思う。
それは演技だろうか?
いや、本当のように見えた。
最初はもしかして、愛のことが嫌い、だったのだろうか。
時間の流れで変化した、とか?
それはない。愛は、最初から優しかったといっていた。
この違いはなんだ。どちらかがうそを言っているのか。それとも。
「過激になっていっていたのは認めるわ。彼女が嫌いだったのもね」
開き直るように声をはる。もはや私の反応なんて興味がないように告げる。
「それでも、彼は笑ってくれていたのよ」
何かを言われたわけでも、頼まれたわけじゃなくても私に笑ってくれていたのだと、彼女はよわよわしくなる口調で言った。
ころんと転がったままのくすんだリンゴがやけに目についた。
ぼろぼろと泣いている彼女は弱い口調で、なんで、とつぶやく。
「なんで選ばれたのがあんたなの。あたしとあんたの何が違うっていうのよ」
弱弱しい声に何も返すことはできなかった。
自身がどう見られているのか、どうしたら人が動いてくれるのか、把握している桐谷を思い出して、彼女のいったことに対して否定はできなかった。
窓の外の景色は赤く、染まっていた。
わぁ。桐谷くーん。




