迷走する関係 2
ついったで親しくなった方に褒められて調子にのってこんな昼間から更新します!
午後からの授業中も、その合間の少しの休憩時間も、わたしや佐奈たちの間で会話はもちろん、アイコンタクトさえもなかった。意図的にそらされているとわかるほど合わない目に何かをいう気も悲しみもなく、ただ、あぁそうか、と静かな気持ちで受け入れていた。放課後になってすぐに教室から出ると校門側の窓に一人の女子生徒が立っていた。
誰かに用事だろうか?
特に深くも考えずに彼女の横を通ると慌てたように追いかけてきて腕を掴まれる。
ざわざわという声が耳に響く。
「あの。なにか?」
掴んでおいてなにも言わずにじっとみる彼女に思わず声を出す。
「夏目志乃ってあんた?」
「そうですけど」
あなたはだれ。
そんな意味も込めて言うが彼女には伝わらなかったようで、その掴んでいる腕の力を強めた。
「ちょっといい?」
気の強そうな目をした彼女はポニーテールを揺らした。
どこかで見たことのある彼女は気が抜けたら涙があふれてしまいそうなほど、その瞳を濡らしていた。震える声でそれでも私を逃がさないように顔を向けている。
「何?」
彼女は腕から私のカバンに掴み直すと周囲の生徒の目など気にしないようにずんずんと進んでいく。
もつれそうになる足を必死に動かしながら彼女についていく。階段を下りて、職員室とは反対側の美術室に入ると彼女はがしゃんと鉄筋の扉が音を立てるように勢いよく閉めた。
さきほどまでのざわめきとは反対に静かな環境だった。
くるんと自然とカールしているポニーテールの先がその勢いとともに揺れた。
扉に背を押し付けるようにたった彼女をどこで見たんだろうと首をかしげる。
「夏目、志乃」
かすれた声で呼ばれた名前に反応をする。
「なに」
「なんで」
「え?」
彼女はキッと睨むように顔を一気に上げると口を開いた。その瞳には憎しみが映っていた。
「なんであんたなの」
耐え切れないように彼女の瞳からはぽろぽろと純度の高い透明なしずくが落ちる。
なにが? と聞き返しても彼女の口から洩れるのはなんでという言葉と嗚咽ばかりだった。
しばらくして落ち着いたであろう彼女はその赤く染めた瞳を隠しもせずにこちらに向ける。
「なんであんたが、桐谷くんと付き合えてるの。あたしは、あんなに……がんばったのに!」
「え?」
「桐谷くんはきっとあたしを見てくれると思ったのに。こんなに、こんなにすきなのに。桐谷くんのためなら」
彼女は私の反応なんて見ずにたれ流すように桐谷への気持ちを話続けた。
「あの」
「桐谷くんをはじめてみたときにね」
「だから」
「この人だと思ったの。この人ならって」
話を聞く気配のない彼女に溜息をこぼしてなんとか帰れないかと思案していると彼女は思い出を語り始めた。
美術室に音が反響する。デッサン用のりんごが目についた。
「あの日、笑ってくれたのよ」
桐谷くんが、とつづけられた言葉はとても幸せそうで思わずその表情を凝視する。
「あの日、あたしが、藤吉さんに初めて悪口を言ったとき」
あぁ。この人は、あの日、私が初めて学校で愛を見かけたときに悪口を言っていた人だとわかる。
お世辞にも美人とは言えない顔で悪口を言っていた彼女の顔は今度はあふれる涙でゆがんでいた。
「あたしに向かってはじめて笑ってくれたの。桐谷くんが」
その言葉に、どうやって帰ろうかと思案していた思考が止まった。
桐谷が笑っていた……?




