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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
学校編
43/114

迷走する関係 1

 

 そういえば、と白井のそばで桐谷はなんてことのないように口を開く。



「何?」

「藤吉が保健室なんだ」


 わざわざそれを言うという桐谷にあきれた目を向けてしまう。


「なんだよ、その目は」

「べっつに」

「なになに? 夏目ちゃんは藤吉ちゃんとも知り合いなんだ?」


 へらりと笑う白井の言葉に反応を示す前に桐谷が言葉をかぶせる。


「篠田が夏目を呼べって言ってたからさ」

「それで探してたの?」

「おう、どうせ夏目は携帯見ないだろ」

「まぁ確かに」

「お昼まだだろ? ちょうどいいじゃん」


 お弁当箱を見ながら桐谷が言う。そうだねと同意しながらも了承の意味を含めて口を開く。


「じゃあ行くね」

「おー」

「またな、夏目ちゃん」


 使えそうなやつだと暗に言っていそうなほどに濁った白井の目にあいまいに笑う。


「桐谷の彼女普通だな」

「彼女じゃねぇよ」

「否定するほど怪しいなぁ」

「ちげぇって」

「でもクラスの女子がみんな言ってたぞ」

「なんで噂になるのかがわかんねぇなぁ」


 階段を下りながらも響くように聞こえる桐谷と白井の話はなんてことのないふつうの話だった。




「それにしてはなんか違和感があるんだよなぁ」


 ぼんやりと吐き出しながらも保健室の扉に手をあてる。


 篠田先生に呼ばれやってきた保健室には愛がいた。

 少し震える手は何かを耐えるようである。篠田先生に視線を向けると肩をすくめるのが見える。







「お昼、一緒に食べていい?」


 反応のない愛に断りつつも隣の席に座る。お弁当の中身を広げながらまったく動かない愛に首を傾げた。


「食べないの?」

「いらない」

「そっか。わたしは食べる。いただきます」


 お母さんの作った彩りのあるお弁当にお弁当用の小さな箸を近づけると愛が小さな声で話し始めた。


「きょうは」


 愛はかたりかたりと震えていた。


「机の上に花瓶があったの。百合の花だった」


 細い言葉は助けてと叫んでいるようにも聞こえた。うん、と頷くと愛はゆっくり口を開いた。


「あのね。わたし、あまりうまくいってないでしょう? クラスの子と」


 うつむきながらいう愛の表情は見えないが口調は固い。


「最初から、ずっと。桐谷くんだけは優しくて」


 愛の表情が少し柔くなる。篠田先生が紙コップをくれてわたしはそれを軽く頭を下げながら受け取る。


「桐谷くんが気を配ってくれてるんだけど。それがなおのこと、よく思われないみたいで。結局ひどくなるの」


 ぼそりぼそりとつぶやかれていく声にあぁ、と納得した。


「なるほどねぇ」


 コップから緑茶が湯気を出している。窓から見えた空はどんよりとした曇りの空だった。

 観察するような篠田先生の目つきが気にはなるが、それよりも愛に向かい合う。


「迷惑? 桐谷は」

「こまる」


 だって、と言葉が続く。










「だってわたしは。女の子の友達がほしい」







 愛はぎゅっと手を胸に持ってくる。


「桐谷くんは優しい。ドキドキする。でも」


 優しくされなくていいのに。

 普通にクラスにいたいだけなのに。


 苦しそうに吐露する声が響いた。


「桐谷くんが優しくしてくれて、助けてくれて。ありがたいのに余計にうまくいかなくなる。あんなにやさしくしてくれる人はいないのに。それがうれしくない。わたしに、かかわらないでほしい」


 ひどい人間なんだと吐露された言葉は苦しそうな息遣いも相まってつらい気持ちがまっすぐに伝わった。

 そんな吐き出された言葉に、私は残念ながらいうべき言葉は見当たらずに、そっか、ということしかできなかった。






 愛の話を聞きながらも食べたお弁当箱を片付けて、昼からの授業があるといわれ私も愛も一緒に保健室から追い出される。

 しまったね、と笑みを向けると愛の表情は強張り、そして青いものになっていた。






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